衆議院の早期解散がもたらした相場の初期反応
大方の予想よりも早期となった高市早苗首相による衆議院の解散・総選挙の決定を受け、株式市場は大きく変動しています。
1月9日(金)夜に大手報道機関が相次いで解散検討を報じたことで、週明けから2日間で日経平均株価は2,401円の大幅上昇(上昇率4.6%)となりました。その後は、短期的な上げ過ぎへの警戒感に加え、欧州に対するトランプ関税を巡る不透明感など、地政学リスクへの懸念から株価はやや下押しされています。ただし、過去の相場を振り返ると、衆院選の前後は株価が好調となる傾向が確認されています。
衆院選と株価にみられる3つのアノマリー
衆院選と株価の関係については、押さえておきたい3つのアノマリーがあります。
第1に、衆議院解散日から総選挙までの期間において、1969年以降、17回連続で株価が上昇してきた「衆院解散アノマリー」です。今回に当てはめると、解散日予定の1月23日から2月8日の投開票日に向けて、株価は堅調に推移する可能性が示唆されます。
第2に、選挙後の株価推移を見ると、今回のメインシナリオと見込まれる自民党が議席数を増やし、過半数を確保したケースでは、選挙後3ヶ月で平均13%の日経平均株価の上昇が確認されている「衆院選アノマリー」が挙げられます。
そして第3に、衆院選挙が行われた年に株価が上昇した割合は26回中21回、勝率81%に達しているという、「衆院選の年は株価が高い」という経験則です。
これらを踏まえると、今回の衆院選という政治イベントを受けて、株式市場は好調に推移すると考えられます。解散・総選挙は当初、秋以降になるとの見方も多くありました。しかし、思い切った早期解散に踏み切ったことで、自民党が過半数を確保するというメインシナリオが実現すれば、経済・成長戦略における大胆な政策実行が現実味を帯びてきます。こうした政策期待の高まりを背景に、年末に向けて株価の上昇が加速する可能性があるとみています。
特に、企業業績の将来成長に対する確信度が高まる局面が想定されるため、株価を形成するバリュエーションについても、目先の業績だけでなく、より先の将来価値を評価するステージへと移行していく局面になると考えています。
ROEとPBRで読み解く2026年末の理論株価
そこで本稿では、クオンツ的な視点から試算を行い、2026年末の日経平均株価の水準を予想しました。結論を先に述べると、2026年末の日経平均株価は5万9,000円台を想定しています。以下では、その前提となるモデルの考え方と、実際の予測値の算出方法を整理して説明します。
分析に用いたのは、近年、企業経営者と投資家の双方から注目を集めているROE(自己資本利益率)と、代表的なバリュエーション指標であるPBR(株価純資産倍率)の2つです。ROEとPBRを組み合わせることで理論株価を算出し、そこから2026年末に想定される日経平均株価のレンジを導き出しています。
市場全体で重要な意味を持つ「ROE8%」
ROEが市場全体で重視されるようになった背景には、2014年8月に経済産業省が公表した「持続的成長への競争力とインセンティブ」に関する報告書、いわゆる伊藤レポートの存在があります。同レポートでは、企業は「ROE8%を最低ラインとし、さらに高い水準を目指すべき」と明確に示されました。この「ROE8%」という基準は、個別企業の評価にとどまらず、日経平均株価のような市場全体の評価を考えるうえでも重要な意味を持ちます。
図表1は、日経平均株価の予想ROEと株価水準の推移を示したものです。直近の1月21日時点では、日経平均株価の予想ROEは8.89%と、図表中の紫線で示した目安の8%を明確に上回っています。これに対応する形で、日経平均株価は中長期的に上昇基調を維持しており、株価の基調的な強さはROEが8%を超える局面でより鮮明に表れることが確認できます。
注2:日経平均株価と予想ROEは月末値。予想ROEは日経平均株価のPBR÷予想PERにより算出。データは日本経済新聞のウェブサイト(https://www.nikkei.com/markets/kabu/japanidx/)で提供されているものに基づいている
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
一方、ROEが8%を下回っていた局面は、図表中の日経平均株価の3つの丸印が示すとおり、株価が調整したり横ばいにとどまったりと、株価が上昇しにくい局面とおおむね一致しています。つまり、ROE 8%は日経平均株価の動きを見極めるうえでも極めて重要な「分岐点」であることがわかります。
ROEとPBRの関係性、PBROEモデルとは?
ROEは、PBRとも密接な関係を持つ指標です。PBRは企業の自己資本(厳密には純資産)に対して、株価がどの程度評価されているかを示す指標ですが、自己資本から高い利益を生み出せる企業、すなわちROEの高い企業ほど、株式市場では高く評価されやすく、その結果としてPBRも高まる傾向があります。こうしたROEとPBRの関係性を理論株価の算出に応用したものを、筆者は「PBROEモデル」と呼んでいます。この関係を日経平均株価で確認すると、ROEとPBRの連動性はより明確に表れます。
図表2は、2004年6月から2026年1月までの月次データ(1月は21日の値を月末として扱う)を用いて、日経平均株価の予想ROEとPBRの関係を示したものです。最新の1月末時点では、予想ROEが8.89%であるのに対し、PBRは1.77倍となっています。
注2:日経平均株価と予想ROEは月末値。予想ROEは日経平均株価のPBR÷予想PERにより算出。データは日本経済新聞のウェブサイト(https://www.nikkei.com/markets/kabu/japanidx/)で提供されているものに基づいている
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
このように、毎月末の予想ROEとPBRをプロットすることで、両者の相関関係を視覚的に捉えることができます。ROEが高いほど、より高いPBRが許容されるという傾向は一貫して確認されており、図表に示したモデル線は、その関係性を定量的に表したものです。具体的には、ROEが1%上昇すると、PBRはおおむね0.38倍上昇するという実証的な関係が読み取れます。
一方、ROEが8%を下回る局面では、伊藤レポートが示すとおり、企業にはまず「ROE8%を上回る水準を目指す努力」が求められる段階にあるため、株価形成におけるROE水準の影響力は相対的に小さくなります。この局面では、企業価値の下限としてPBR1倍(いわゆる解散価値)が強く意識されやすく、日経平均株価もその水準付近で推移しやすいことが示唆されます。
2026年末の日経平均株価が5万9,000円台に到達すると考える背景
こうした前提を踏まえ、PBROEモデルに将来の予想ROEを当てはめ、2027年度以降のPBRを試算しました。冒頭で述べたとおり、今回の衆院選を経て高市政権の基盤が強化されれば、経済対策の実行スピードが加速する可能性があります。通常、2026年末の株価は翌2027年度の業績を織り込みますが、将来の成長見通しに対する確信度が高まる局面では、さらに先の年度まで業績が織り込まれると考えられます。
日本経済新聞社が公表する予想PERから算出されるEPSは、1月21日時点で2,649円、今期は2.8%の減益予想となっています。ただし、年度末にかけては減益ではなく、より中立的な着地を想定しました。そのうえで、来年度(2026年度)は2桁の増益、さらに2027年度と2028年度は8%前後の増益が続くと市場が評価していくと仮定すると、2028年度の予想ROEは9.72%となります。このROEをPBROEモデルに当てはめると、理論的なPBRは1.65倍と算出され、これを基に試算した日経平均株価は5万9,446円となります。
以上が、理論株価ベースで見た2026年末の日経平均株価が5万9,000円台に到達すると考える背景です。
金利上昇局面でも株式は割高か?
ところで、足元の相場で懸念要因と見らえる1つが、長期金利の上昇です。
1月20日には、指標となる新発10年物国債の利回りが一時2.350%と、1999年2月以来およそ27年ぶりの高水準を記録したことが市場で話題となりました。金利が上昇すると、平たく言えば、あえてリスクを取って株式投資をしなくても、国債を保有するだけで一定の利息収入が得られると考える投資家が増えてくる可能性があります。
その結果、株式投資においてリスクを取っても十分な投資収益が期待できないと判断されれば、株式市場から資金が流出し、株安につながるのではないかという懸念が生じます。しかし、足元の株式投資の魅力度を冷静に見る限り、現時点でそこまで警戒する局面には至っていないと考えています。
株式益回りに注目
株式投資の魅力を金利と比較する際によく用いられる指標が、株式益回りです。株式益回りは、1株当たり利益(EPS)を株価で割った値で表され、株式投資における期待収益率を示します。より直感的な指標としては配当利回りがあります。これは1年間にどの程度の配当収入が得られるかを示すものです。
これに対し、株式益回りはEPSを基に算出されます。EPSそのものは配当として全額が投資家に支払われるわけではなく、企業内で再投資される内部留保分も含まれます。ただし、内部留保も本来は株主に帰属する価値であり、企業価値の向上を通じて将来的に株主に還元されるものです。その意味で、株式益回りは投資家にとっての本質的な投資収益率と捉えることができます。
図表3は、この株式益回り(予想ベース)と10年国債利回り(複利ベース)を時系列で比較したものです。確かに10年国債利回りは足元にかけて上昇していますが、それでもなお、予想株式益回りとの間には大きな乖離が残っており、相対的に見た株式投資の魅力は依然として高い水準にあることが分かります。
注2:10年国債利回りは新発国債10年の複利ベース利回り
注3:益回りは日本経済新聞社の予想利益をベースに時価総額加重市場平均値。2022年3月までは東証1部市の場平均値を用いている
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
イールドスプレッドが意味するものは?
実は、これまでの歴史的な低金利局面ではあまり注目されてきませんでしたが、10年国債利回りと株式の予想益回りを比較する指標として、「イールドスプレッド」があります。イールドスプレッドは、10年国債利回りから株式の予想益回りを差し引いた値(=金利-益回り)で計算されます。
このイールドスプレッドが大きくマイナスの場合、国債利回りに比べて株式の益回りが高いことを意味します。言い換えれば、安全資産である国債と比べても、リスクを取って株式に投資する魅力が相対的に高い局面と解釈できます。
一方で、イールドスプレッドがゼロ近傍、あるいはプラスに転じる局面では、国債利回りが株式の益回りに接近、もしくは上回ることを意味し、株式市場にとっては逆風となりやすい状況だと言えます。
注2:10年国債利回りは新発国債10年の複利ベース利回り
注3:益回りは日本経済新聞社の予想利益をベースに時価総額加重市場平均値。2022年3月までは東証1部市の場平均値を用いている
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
日経平均株価の推移と比較してみると、1999年末にかけて(図中の丸印)には、イールドスプレッドはマイナス圏で推移していました。当時はITバブルを背景に1999年末にかけて株価が一時的に上昇する場面も見られましたが、より大きな流れとしては、株価は基本的に下落トレンドにあった時期です。
さらに過去を振り返ると、イールドスプレッドは1989年の資産バブル崩壊後の株安を示唆していた指標としても知られています。1989年末時点では、東証1部の平均益回りは1.64%にとどまる一方、10年国債利回りは5.16%と高水準にありました。この結果、イールドスプレッド(10年国債利回り-益回り)は+3.52%(5.16%-1.64%)と大きくプラスとなっていました。このように、金利が益回りを大きく上回る局面では、株式市場にとって警戒シグナルとなりやすいことが分かります。
では、今回想定している年末の日経平均株価が5万9,000円となった場合のイールドスプレッドも確認しておきましょう。この水準では、株式の益回りは5.92%となります。これに対して、1月21日時点の10年国債利回り(複利ベース)は2.22%であるため、イールドスプレッドは-3.7%程度(2.22%-5.92%)と大きなマイナスとなります。
この水準は、仮に今後、長期金利が上昇したとしても、なお一定の余裕があることを示しています。イールドスプレッドの観点から見ても、年末の日経平均株価が5万9,000円台に達するシナリオは、十分に現実的な水準と考えられます。
