世界の株式市場の行方を左右する最大の変数

2月28日(土)、米国がイスラエルと連携してイランに対して大規模軍事作戦を開始しました。作戦名は、「Operation Epic Fury」(オペレーション・エピック・フューリー:壮絶な怒り作戦)。これまでのトランプ米大統領の発言から、そうした可能性が選択肢の一つであることは薄々感じられていましが、現実に起きてしまったことは、最も望ましくない形であったと言わざるを得ません。

トランプ米大統領は今回の戦争の正当性を強く主張しています。一方で、民主党議員、多くのメディアは、また多くのアメリカ人もその根拠や法的・政治的妥当性に疑問を投げかけています。

既にこの戦争の被害は、イランとイスラエルの領土だけにとどまっていません。GCC(湾岸協力会議)諸国(サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、クウェート、オマーン、バーレーン)の都市では空港、港湾やホテルなどがドローンやミサイルの攻撃にさらされ、GCCにある米軍基地だけでなく、民間インフラへの影響が顕在化しています。

また、その後の展開として英国・フランス・ドイツ首脳は共同声明で、「無差別で不均衡だ」とするイランのミサイル攻撃に対し、地域での自国の利益を防衛する用意があると表明しました。攻撃の発信源、つまりイラン国内を叩く可能性も示唆し、米国と連携して行動すると発表しました。さらに英国のスターマー首相は、英国が米国と軍事基地を共有すると述べ、連合拡大の可能性もでてきました。(2026年3月2日7時時点)

では、イランから距離のある米国が必ず安全かといえば、必ずしもそうではありません。ニューヨークに住む友人からも、「米国内でのテロが起きるのではないか」と不安を訴える連絡がありました。

世界経済への影響、よって世界の株式市場の行方を左右する最大の変数は、この戦争が「どのくらいの期間」続くかです。日本の原油輸入に占める中東依存度は9割を超えています。戦争が長引けば、エネルギー価格と物流・保険コストを通じて、すでに久しぶりの高インフレを経験している日本経済への影響は計り知れません。

過去を振り返ると、ブッシュ米大統領が始めたイラク戦争は2003年3月20日に始まり、2011年12月に終結しました。終結までおよそ9年を要した計算になります。今回の対イラン戦争が短期で収束するのか、それとも長期化するのか——ここが、投資家が嫌う不確実性(リスクプレミアム)の大きさを左右する最大の論点です。

もちろん、今回の攻撃は、トランプ米大統領が「短期間で作戦目標を達成し、撤収する」ことが可能だという判断のもとに始められた軍事行動であろうと思われます。実際、当事者3ヶ国の軍事支出を見ると、2024年の米国は9970億ドル、イスラエルは465億ドル、イランは79億ドルです。この規模の差は、装備更新、情報・監視能力、補給、継戦能力という観点で、結果の方向性をある程度示唆します。

ただし、戦争の「勝敗」と、戦争が「いつ終わるか」は別問題です。トランプ米大統領が、9年に及んだイラク戦争の再来を許容するとは思えません。むしろ短期決戦で終えるという強い確信があっての意思決定だったはずです。中間選挙の年で、支持率の低下圧力がかかる局面において、トランプ米大統領は政治的にも極めて大きな賭けに出たのです。

市場に与える影響、過去の類例が示唆することとは

では、この攻撃は株式市場にどのような影響を与えるのでしょうか。それを単純に図式化するのは易しくはありません。それは戦争がいつまで続くのか、原油供給にどの程度の混乱が出るのか、投資家心理がどの水準で揺れるのか。不確定要因が多すぎるからです。

「不確実性の時間」が短かったイランの核関連施設攻撃(2025年6月)

今回の見通しを考える上で、直近の類例を確認しておきます。イランへの攻撃という点では、2025年6月22日に作戦名「Operation Midnight Hammer」(オペレーションミッドナイトハンマー、真夜中のハンマー作戦)と呼ばれる、米軍によるイランの核関連施設への攻撃が行われました。作戦は週末の短期間で実施され、米側は「成功」と位置づけ、トランプ米大統領も勝利を強調する発信を行いました。その時のマーケットの反応は、少なくとも株価指数を見る限り、比較的落ち着いていました。週明けの月曜日にS&P500は約1%上昇し、その後1ヶ月程度でおよそ5%上昇しています。

この背景として一つ示唆的なのは、作戦がマーケット休場中の週末に実施され、かつ結果が取引開始前に公表された点です。投資家にとっては「不確実性の時間」が短く、週明けの取引開始時点で一定の織り込みが進んだ可能性があります。

中長期の2003年イラク戦争:逆風だったが、株価が上昇した理由

もう1つの例として、2003年の共和党ブッシュ政権が主導したイラク戦争を振り返ります。米国を中心とする連合軍がイラクへの侵攻を開始したのは、2003年3月20日です。開戦をめぐる不確実性が高まっていた局面で、S&P500は年初から軟調に推移し、3月12日に安値をつけるまでに約15%下落しました。

ところが、その後の展開は一方向ではありませんでした。短期の値動きだけを見ると「戦争=株安」という単純な連想に引っ張られがちですが、開戦後を中長期で眺めると、まったく別の景色が見えてきます。

実際、S&P500、原油価格、10年債利回りを並べてみると、開戦後の数年で、原油は1バレル40ドル近辺から140ドル超へと大きく上昇し、10年債利回りもおおむね4%台から5%超の局面を経験しました。一般論として、エネルギーコストの上昇と金利上昇は株式に逆風になりやすいはずです。それでもS&P500は、開戦後に上昇基調を強め、結果として+78.7%上昇しました。

なぜ「逆風のはずなのに上がった」のか。理由の一つは、当時のS&P500がITバブル崩壊後の底値圏からの回復局面にあり、株価が上がりやすい初期条件を備えていた点です。つまりイラク戦争では、「戦争」という単一イベントだけで相場が決まったのではなく、景気、バリュエーション、投資家のリスク許容度といった条件が、結果を大きく左右したのです。

【図表】イラク戦争+前後3ヶ月の経済動向:上段左軸: WTI, 上段右軸: S&P500, 下段: 米国債10年利回り 
出所:ブルームバーグよりマネックス証券作成
2022年2月28日付レポート米国株長期投資家のための、過去約40年の間で起きた戦争から学ぶ教訓から

今回2月28日の初日の攻撃で、トランプ米大統領が最も敵対視していたイランの最高指導者ハメネイ氏が死亡したことが報道されました。ただし、これは今回の戦争の終わりを意味するわけではありません。9240万人の人口を抱えるイランへの戦争がどのタイミングで終わりと言えるのか。ベネズエラの時ほど簡単にはいかないでしょう。

ここで、僕自身の個人的な経験も少し書いておきます。僕は2013年、イランを2週間ほど旅行で訪れたことがあります。

当時も米国とイランの関係は良くありませんでした。表向きは禁止されているのですが、欧米の音楽ハリウッド映画の海賊版も自由に入手することができていました。当時そのDVDの値段も約70円程度と、中国などで売られている海賊版より安く買うことができました。テヘランでは「Apple Store」という看板を掲げながら、米国のAppleとはまったく関係のない店を見かけました。運転してくれたドライバーは、イランでは正規販売されていないはずのiPhone、その中古品には、ペルシャ語の道路アプリが入っていて、国内を案内してくれました。

現地の人々に話を聞くと、口をそろえて「アメリカ政府は嫌いだが、アメリカ人は好きだ」と言っていました。日本人に対しては驚くほど好意的でした。食べ物も日本人の舌に合うし、世界遺産も多く、非常に魅力的な国だと思いました。いつの場合でも、戦争が始まると、被害を受けるのは罪のない一般の人たちです。今回の戦争が1日でも早く終結し、これ以上、イラン国民の犠牲が広がらないことを祈るばかりです。