今回は、足元の相場環境に応じた短期的でタイムリーな銘柄選択ではなく、中長期的な視点に立った投資戦略をご紹介します。企業の収益力と将来的な成長力を見極めるうえで、とりわけ重要となるのが「営業利益率」と「売上高伸び率」という2つの指標です。本稿では、この2つの尺度に着目し、持続的な企業価値向上が期待できる銘柄を選別する手法について解説します。
営業利益率という「収益力の源泉」
企業の収益力を測る指標にはさまざまなものがあります。近年、特に注目を集めてきたROE(株主資本利益率、自己資本利益率)もその代表例の一つです。ROEは「純利益 ÷ 株主資本」で算出され、株主が企業に拠出した資本に対して、どの程度の利益を生み出しているかを示す指標です。株主に帰属する最終利益を基準としているため、株式投資家にとっては直接的な収益性を測る“株主に最も近い指標”、いわば川下の収益性を示す尺度といえます。
一方、本稿で取り上げる営業利益率は「営業利益 ÷ 売上高」で算出されます。売上高という企業活動の出発点に対し、本業でどれだけ効率的に利益を確保できているかを示す指標です。つまり、企業活動のより上流に位置する収益性、いわば川上の収益力を測る尺度といえるでしょう。
営業利益率が高まれば、本業の収益力が向上していることを意味します。その結果として純利益の拡大につながり、最終的にはROEの向上にも波及します。したがって、ROEを高めるためにも、その源泉となる営業利益率の改善は極めて重要なのです。
「改善トレンド」に着目する
本戦略では、営業利益率の「水準」ではなく「改善」に注目します。企業の収益力は営業利益率に端的に表れます。一般に、その水準が高い企業は本業で安定的に利益を生み出す力を持つ、競争力の高い企業といえます。
しかし、株価にはすでに現時点での評価が相応に織り込まれているケースが少なくありません。そのため、水準の高さを見るのではなく、「どの程度改善しているか」という変化の方向性に注目することが重要になります。営業利益率が改善しているということは、売り上げの拡大やコスト構造の見直しなどを通じて、経営効率が高まっていることを意味します。言い換えれば、企業の経営体質そのものが強化されつつある局面と捉えることができます。この「改善トレンド」こそが、将来の業績拡大期待を高め、結果として株価上昇につながる可能性を秘めているのです。
営業利益率の改善を測る2つの指標
具体的に、営業利益率の改善を測る指標として、次の2点を用います。
(1)直近実績の営業利益率が、過去3年平均の営業利益率を上回っている
(2)今期予想の営業利益率が、直近実績の営業利益率を上回っている
まず(1)は、足元の実績ベースで営業利益率が過去数年の平均水準を上回っているかどうかを確認するものです。これは、企業の収益体質が過去と比べて改善しているかを測る指標といえます。
次に(2)は、今期の会社予想または市場予想ベースの営業利益率が、直近実績をさらに上回るかどうかを見るものです。すなわち、すでに改善傾向にある営業利益率が、今後も一段と高まる見通しかどうかを確認する指標となります。
この2指標でチェックすることにより、「過去対比での改善」と「将来に向けたさらなる改善」の双方を捉えることが可能になります。営業利益率の改善トレンドを重視する点が、本戦略の特徴です。
成長の質を測る売上高伸び率
今回の戦略のもう1つの柱が、企業の将来的な成長力を測る「売上高の伸び率(増収率)」です。企業が営業利益率を高める際、売上高の増加は極めて重要な役割を果たします。売上が拡大すれば、一定水準で発生する固定費の比率が相対的に低下し、結果として利益率の向上につながるからです。つまり、売上高の増加は単なる規模拡大ではなく、収益構造の改善とも密接に結びついています。売上を伸ばすこと自体が、企業の成長そのものを意味するといえるでしょう。
もっとも、企業価値を高めるうえで最終的に重要なのは「利益の増加」です。仮に売上高が拡大しても、薄利多売で費用負担が重く、十分な利益が確保できなければ、企業価値の向上にはつながりません。健全で持続的な成長を実現するためには、「売上高の成長」と「利益率の向上」を同時に進めることが不可欠です。
「営業利益率」と「売上高伸び率」による銘柄選別
こうした観点を図表1で確認してみましょう。右上の領域に位置する【1】「利益率が改善し、売上高も増加している」企業こそが、収益性と成長性を兼ね備えた理想的な状態にあるといえます。本戦略では、この領域に該当する企業を主な投資対象として銘柄選別を行います。
では、営業利益率が改善しているものの、売上高が減少しているケース、すなわち図表1の右下に位置する「【2】利益率『改善』、売上『減』」のケースはどう評価すべきでしょうか。
売上高が減少しているにもかかわらず営業利益率が高まっているということは、多くの場合、コスト削減や固定費の圧縮によって収益性を引き上げていることを意味します。確かに、リストラや経費削減の徹底によって、短期的には利益率を改善させることは可能です。
しかしながら、このような収益性の改善は、あくまで「守り」の施策による効果であり、その先の持続的な成長が見通せるかどうかは別問題です。コスト削減には物理的・構造的な限界があり、一定水準まで削減が進めば、それ以上は利益率を押し上げる余地が小さくなります。売り上げが拡大しないままでは、最終的に利益の成長も頭打ちになりやすいのです。
売上高の成長力を測る3つの指標
企業価値の持続的な向上を期待するのであれば、やはり売上高の増加、すなわち事業規模の拡大や市場シェアの向上といった「攻め」の成長が不可欠です。営業利益率の改善は重要なシグナルではありますが、それが売り上げの拡大を伴っているかどうかが、長期投資の観点ではより重要なポイントになるといえるでしょう。
具体的に、売上高の成長力を測る指標として、次の3点を用います。
(3)今期予想の増収率が5%以上
(4)来期予想の増収率が5%以上
(5)来期予想の増収率が、今期予想の増収率を上回っている
まず(3)と(4)は、今後の売り上げ成長に一定のハードルを設けるための条件です。単に「増収」であればよいのではなく、少なくとも年率5%以上という、一定水準以上の成長が見込まれている企業を対象とします。これにより、緩やかな回復ではなく、明確な成長軌道にある企業を絞り込みます。
次に(5)は、「成長の加速」に着目する条件です。来期の増収率が今期より高いということは、売り上げの伸びが今後さらに勢いを増す見通しであることを意味します。つまり、成長が鈍化している企業ではなく、むしろ加速局面にある企業を選別するための基準です。
この3つの条件を組み合わせることで、単なる増収企業ではなく、「一定水準以上の成長を維持し、かつ今後さらに成長が加速する可能性を持つ企業」を抽出することが可能になります。
検証結果:市場を上回るパフォーマンス
そこで実際に、「営業利益率の改善」と「売上高伸び率」という2つの観点から設定した(1)~(5)の5つの基準をすべて満たす銘柄を抽出し、その投資パフォーマンスを検証しました。
(2)今期予想の営業利益率が、直近実績の営業利益率を上回っている
(3)今期予想の増収率が5%以上
(4)来期予想の増収率が5%以上
(5)来期予想の増収率が、今期予想の増収率を上回っている
分析対象となる母集団は、TOPIX(東証株価指数)構成銘柄としています。なお、営業利益率の算出が業態特性上なじみにくい金融業は除外しました。検証方法としては、毎月末時点で5つの基準を満たす銘柄を選定し、それらに均等投資を行い、翌月以降のリターンを積み上げました。
その結果を示したのが図表2の青線グラフです。青線は累積リターンを表しており、グラフが右肩上がりに推移していることは、時間の経過とともに収益が着実に積み上がってきたことを意味します。すなわち、本戦略で選別された銘柄群は、中長期的に見て良好なパフォーマンスを示してきたことが確認できます。
さらに、図表2の赤線グラフでは、選定銘柄群のリターンから、母集団全体(TOPIX構成銘柄)の平均リターンを差し引いた「超過リターン」の累積を示しています。こちらも右肩上がりの形状となっており、本戦略が市場全体を継続的に上回る成果を上げてきたことが読み取れます。
注2:母数はTOPIX構成銘柄(但し、金融業として「銀行業」「証券、商品先物取引業」「保険業」「その他金融業」に該当する銘柄は除く)
注3:予想営業利益、予想売上高はアナリストコンセンサス予想を用いる
注4:「営業利益率が改善傾向にあり、将来の売り上げ成長が高い銘柄」を選別する条件は以下の5基準とする。 (1)直近実績営業利益率が過去3年平均営業利益率より大きい
(2)今期予想営業利益率が直近実績営業利益率より大きい
(3)今期予想増収率が5%以上
(4)来期予想増収率が5%以上
(5)来期予想増収率が今期予想増収率より大きい
注5:毎月末時点で:「営業利益率が改善傾向にあり、将来の売り上げ成長が高い銘柄」に等金額投資した場合の翌月のリターンを算出して絶対パフォーマンスは2015年1月以降を累積している。超過パフォーマンスは対象となる月の母数全体に等金額投資した場合のリターンを引いた超過分を求めて2015年1月以降累積している 出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
そこで、マネックス証券のウェブサイトで提供している「銘柄スカウター」の10年スクリーニング機能を筆者が利用し、「営業利益率の改善」と「売上高伸び率」という2つの観点を満たす銘柄抽出しました。
対象は、金融業(「銀行業」「証券・商品先物取引業」「保険業」「その他金融業」)を除く企業とし、一定の流動性を考慮して東証プライム市場に上場し、時価総額800億円以上の銘柄に限定しています。
実際の5つのスクリーニング基準は以下です。
(2)今期予想営業利益率が直近実績営業利益率より大きい
(3)今期予想増収率が5%以上
(4)来期予想増収率が5%以上
(5)来期予想増収率が今期予想増収率より大きい
結果は図表3に示してあります。(1)(2)(5)の条件については図表3の右から3列に示されるようにExcel上で判定処理をしています。更に、[会社予想]利益率(営業利益)(%)が高い順に並べ替えています。投資の参考にしてみてください。
[詳細条件] [通期]利益率 (3/5/10年)(営業利益):指定なし、[通期]利益率(営業利益):指定なし、[会社予想]利益率(営業利益):指定なし、[今期コンセンサス]増収率(売上高):5.0%~・3人以上、[来期コンセンサス]増収率(売上高):5.0%~・3人以上 さらに「(1)直近実績営業利益率が過去3年平均営業利益率より大きい」「(2)今期予想営業利益率が直近実績営業利益率より大きい」「(5)来期予想増収率が今期予想増収率より大きい」の条件を満たすかの判定をExcelで算出して、魅力的な方から値が「1」未満の銘柄を出力
出所:マネックス証券ウェブサイト マネックス銘柄スカウター(2026年2月3日時点)を用いてマネックス証券作成
銘柄スクリーニング方法を解説
ここからは補足的な説明です。読者の皆さんが、ご自身のタイミングや最新データで図表3のスクリーニングを行いたい場合の具体的なスクリーニング入力項目を示しました(図表4)。詳細条件の設定中の「利益率 (3/5/10年)(営業利益)」「利益率(営業利益)」「利益率(営業利益)」は、後の処理で必要な指標なので表示のみで条件入力は不要です。
この結果、図表5のような銘柄一覧が画面に出力されます。合計5つの条件がありましたが、ここまででは(3)(4)の条件のみが満たされているため、これらの出力銘柄を更に、(1)(2)(5)の条件で絞り込む必要があります。そこで右上の「CSVダウンロード(図表5の〇印)」から銘柄リストを取得して、Excelで処理します。
ここで注意点があります。後に、Excel処理のために行う「csvダウンロード」は200銘柄までの制限があります。そこで対象銘柄数が200銘柄以内であることを確認します。仮に、200銘柄を超えていたら、1,000億円で設定している時価総額の最低基準を少し増やして、対象銘柄を200銘柄までに抑えるようにしてください。
図表6は図表5でダウンロードして取得したcsvファイルをExcelで開いた画面です。まず、「(1)直近実績営業利益率が過去3年平均営業利益率より大きい」の条件を判別するため、L列に「H列>G列」という数式を入力します。” >”は「より大きい」という意味です。条件をクリア行のL列のセルは“TRUE”と表示されます。
次に、「(2)今期予想営業利益率が直近実績営業利益率より大きい」の条件を判別するため、M列に「I列>H列」という数式を入力します。条件をクリア行のM列のセルは“TRUE”と表示されます。
次に、「(5)来期予想増収率が今期予想増収率より大きい」の条件を判別するため、N列に「K列>J列」という数式を入力します。条件をクリア行のN列のセルは“TRUE”と表示されます。そして、Excelのメニュー「データ」→「フィルター」を使い、TRUEのみに絞り込みます。最後に、「[会社予想]利益率(営業利益)(%)」が高い順に並べ替えると、図表3の銘柄リストになります。
