2025年の株式市場を振り返った時、多くの投資家が抱いた感想は「米国株は結局強かった」という一言に尽きるのではないでしょうか。リセッション(景気後退)懸念、地政学リスク、そして根強いインフレ、AI関連株の株価のハイバリュエーション化。数え切れないほどの「壁」がありながらも、米国株はそれらを乗り越え、史上最高値圏での推移を見せました。

本稿では、2025年の市場を簡潔に振り返りつつ、投資家の皆様が最も気になっているであろう「2026年の米国株市場」のメインシナリオについて、マクロ経済と投資戦略の両面から解説します。

2025年の振り返り:悲観論を打ち砕いた「過剰流動性」

2025年は、米国経済が「ソフトランディング(軟着陸)」から「ノーランディング(着陸なき再浮上)」へとシナリオを切り替えた1年でした。年初、市場の一部には「高金利の長期化が企業業績を圧迫する」という慎重論がありました。しかし蓋を開けてみれば、AI(人工知能)革命による投資拡大と生産性の向上、そして堅調な個人消費が企業のトップライン(売上高)を押し上げました。結果、S&P500構成企業のEPS(1株当たり利益)は過去最高水準を更新し続け、今もなお更なる高みを目指しています。

この強さの根底にあるのは、やはり「過剰流動性(お金余り)」です。これは今に始まった話ではありませんが、2020年のコロナショックに伴う大規模金融緩和と財政出動によって供給されたマネーは、5年が経過した今もなお市場に滞留し、あらゆる不安要素を飲み込みながら資産価格を押し上げ続けているのです。

2026年のテーマ:「過剰流動性」相場の継続、いま見るべきは「世の中にあふれているマネーの総量」

では、2026年はどうなるのか。私の見立ては、「過剰流動性がもたらす資産インフレの加速」です。

多くの投資家はFRB(米連邦準備制度理事会)の政策金利ばかりを気にしていますが、いま見るべきは「金利の高さ」ではなく「世の中にあふれているマネーの総量」です。2025年12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でも実質的な量的緩和の方向性が示唆されました。

現在、米国のMMF(マネー・マーケット・ファンド)には巨額の待機資金が積み上がっています。高金利の恩恵を受けて安全地帯に退避していたマネーですが、インフレ率が2~3%で推移し、金利低下が見え始める中で、単に現金を寝かせておくだけでは実質的な資産価値が目減りすることに多くの人が気づき始めています。2026年は、この「金利を取りにいった待機資金」が、インフレヘッジとしての「成長資産(株式)」へ雪崩を打って流入する年になる可能性があります。これが株価を底上げする強力なサポート要因となるでしょう。

最大の買い手は「企業」自身:自社株買いの威力

この過剰流動性相場を牽引する最大のプレイヤーは誰か。それは外国人投資家でも個人投資家でもなく、「米国企業自身」です。下記の表は2025年1月~11月の米国の自社株買い実施企業ランキングトップ30銘柄ですが、1位のアルファベット[GOOGL]や2位のアップル[AAPL]は引き続き巨額の自社株買いを続けています。

【図表】米国自社株買いランキング(2025年1月~11月)
出所:筆者作成
順位 企業名 ティッカー 自社株買い実行額
(2025年1月~11月、単位日本円)
1 アルファベット [GOOGL]

5,929,184,677,119

2 アップル [AAPL]

5,470,753,874,760

3 エヌビディア [NVDA]

5,461,201,506,360

4 メタ・プラットフォームズ [META]

3,895,758,245,113

5 ジェイピー・モルガン・チェース [JPM]

3,483,310,420,000

6 バンク・オブ・アメリカ [BAC]

2,476,177,887,894

7 エクソン・モービル [XOM]

2,211,945,954,015

8 ビザ [V]

2,111,568,074,200

9 ウェルズ・ファーゴ [WFC]

1,866,763,613,899

10 マイクロソフト [MSFT]

1,578,236,456,396

11 ゴールドマン・サックス [GS]

1,382,531,100,538

12 シェブロン [CVX]

1,346,310,868,816

13 シティグループ [C]

1,314,849,396,648

14 セールスフォース [CRM]

1,288,410,601,500

15 マスターカード [MA]

1,228,893,619,164

16 HCAヘルスケア [HCA]

1,117,556,609,971

17 ウォルマート [WMT]

1,101,100,110,686

18 Tモバイル [TMUS]

1,091,457,555,526

19 ネットフリックス [NFLX]

1,026,207,021,930

20 クアルコム [QCOM]

1,025,846,177,196

21 ジョンソン・コントロールズ [JCI]

869,405,325,304

22 アクセンチュア [ACN]

862,543,395,035

23 ユナイテッドヘルス・グループ [UNH]

800,183,082,980

24 アドビ [ADBE]

795,920,085,760

25 GE エアロスペース(ゼネラル・エレクトリック) [GE]

792,966,224,252

26 フィサーブ [FISV]

786,859,507,151

27 コムキャスト [CMCSA]

781,850,002,771

28 エーアイジー [AIG]

776,224,913,295

29 シスコシステムズ [CSCO]

705,801,175,300

30 チャールズ・シュワブ [SCHW]

704,684,655,312

出所:ブルームバーグより筆者作成

インフレとは、競争力のある大企業にとっては「売上高(名目値)の増大」を意味します。なぜなら、米国の大企業はブランド力、技術力、資金力を背景に価格転嫁を行うことができ、インフレをそのまま売上や利益の拡大へと変換できるからです。名目GDPが成長する限り、企業のキャッシュフローは潤沢になります。そして米国企業は、稼いだキャッシュを設備投資に回すだけでなく、強力に「自社株買い」へ充当します。

自社株買いは、市場から株式を吸い上げることでEPS(1株あたり利益)を強制的に押し上げます。たとえ純利益が横ばいであっても、発行済み株式数が減ればEPSは成長し、株価は理論的に上昇します。2026年も、豊富なキャッシュを持つ巨大ハイテク企業や優良企業による過去最大規模の自社株買いが、市場の実質的な「下値支持(プロテクション)」として機能するでしょう。

「AI」はどうなるか?全体相場の大きな調整が来れば買いの好機か?

2025年後半、AI関連銘柄には行きすぎた株価に対する調整も入りました。「AIバブルは崩壊するのか?」という議論がありますが、前述の流動性と企業業績の観点から、相場はまだ終わっていないと考えています。

もちろん、今後は「期待」だけでなく「実益」が伴う企業への選別が進みます。対象は本当に稼げる企業に移っていきます。例えば、未上場のOpenAIは約200兆円規模の投資計画を持っていますが、足元の売上規模や今後も続くであろう赤字見通しを鑑みれば、「投資を回収できるのか?」という議論が出るのは健全なことです。しかし、AIが生産性を向上させていく流れは続くでしょう。AI関連銘柄が市場全体で大きく調整する局面があれば、そこは買い場になると考えます。

継続することに意義がある

では、我々はどう行動すべきでしょうか。重要なのは「FOMO(取り残される恐怖)に駆られて高値掴みをしないこと」、そして「市場から退場しないこと(10年後も生き残ること)」です。

具体的な戦略としては、以下のようなバランス感覚が肝要です。資金の5~7割を株式に投資(または積立を継続)する。これは暴落を待っている間に株価が上がり、機会損失を被るのを防ぐためです。

残りの待機資金を確保しておくのは短期・中期的な急落が来た際に、冷静に安値を拾うためです。全力投球した後に急落が来ると、心が折れて投資の継続が困難になります。

米国のFRBを中心とする世界の中央銀行によるインフレターゲット、2%のインフレ誘導があり、AIの登場で生産性は向上。世界人口は増えていく中で人々は消費・投資を行って、結果企業利益は拡大する。結局のところ、このようなこれまでずっと続いてきた経済の構図は不変です。

そのため、きちんとした方法で長期間取り組んでいれば株式投資は負けないゲームと考えられます。ところが短期的な上下動は予想ができません。したがって、暴落を待っている間にドンドン上がってしまって取り残されないよう、投資をしながらも(継続しながらも)、短期的な(あるいは中期的な)急落時に購入できる待機資金を残しておく(あるいは積立を継続する)のが株式投資を継続するコツだと思います。繰り返しになりますが、大きな資金を投じた後に急落があると、心が折れてしまって株式投資の継続が心理的に難しくなるので。

2026年も、そしてそれ以降も、ブレずに投資を継続していきましょう。それでは今年もお疲れ様でした。また来年もよろしくお願いいたします。良いお年をお迎えください!