米国6州で天然ガスと電気の供給を行う公益事業会社

ナイソース[NI]は、天然ガスと電気の供給を行う米国最大級の公益事業会社です。米国中西部~東部の6つの州において、Columbia GasとNIPSCOという二つの強力なブランドを通じて、約330万世帯に天然ガスを、約50万世帯に電力を供給しています。

同社は地域独占的なインフラを保有・運営し、規制当局から認められた適切なリターンを得ることで、極めて安定した収益構造を築いています。これまでのナイソースは、伝統的なエネルギー会社として安定収益が特徴でした。しかし現在、同社は劇的な変化を遂げようとしています。

その背景には、同社が長年培ってきたインディアナ州北部の強固な電力網が、AI時代の最重要インフラである「データセンター」の集積地を支える基盤として再評価されていることがあります。特にAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)との戦略的提携は、同社を単なる地方インフラ企業から、データ経済を支える「成長株」へと押し上げる決定的なトリガーとなりました。

ビジネスモデルの転換:AWSとの契約がもたらした「収益の予約」

同社は2025年11月、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)との間で、インディアナ州北部におけるデータセンター・キャンパス「プロジェクト・レーニエ」への電力容量増強に関する歴史的な契約を締結しました。この提携は、単なる大口顧客の獲得にとどまらず、同社の収益構造を根底から変える「ゲームチェンジャー」となります。

AWSは、AIおよびクラウド・コンピューティングの拠点構築に最大150億ドルを投じる計画を進めています。これに対し、ナイソースの子会社NIPSCOは、2027年から供給を開始し、2032年までに最大2.4GWという膨大な電力を提供します。この2.4GWという規模は、NIPSCOが現在抱える約50万世帯分のピーク需要に匹敵します。この巨大な需要が「予約済み」となったことで、同社は長期にわたる極めて強固なストック収入の源泉を確保したことになります。

この歴史的需要に応えるため、同社は2026年から2030年にかけて約70億ドルの専用投資を実行します。投資の具体的な内訳は、1.3GWの最新鋭天然ガス複合サイクル(CCGT)発電機2基、および1,600MWh(400MW)の大規模蓄電池システム(BESS)の建設です。

従来の公益事業の常識を覆す「GenCo(発電子会社)」モデル

この投資の要となるのが、今回の提携に合わせて設立された発電子会社「GenCo(ジェンコ)」です。GenCoは、従来の公益事業の常識を覆す画期的なビジネスモデルとして注目に値します。GenCoは、データセンター専用に電力を供給する別会社であり、これを設立することで、既存の一般顧客にコスト負担を転嫁しない構造を構築しました。

通常の公益事業では、発電所の建設費用など設備投資はすべての顧客の電気料金に上乗せされるのが通例です。しかしこのスキームでは、データセンター向けの発電資産を既存の料金体系(レートベース)から完全に切り離した枠組みで管理します。最大の特徴は、データセンターの稼働に必要な巨額の増強費用をAWS側が直接的に負担し、既存の一般家庭顧客には一切の経済的負担をかけない点です。

そのうえ、利益還元をもたらす構造となっているのもポイントです。具体的には、AWSが既存の送電網を利用する対価として支払う「システム料金」を原資に、15年間で合計約10億ドルという膨大な金額が既存顧客へ「共有システム・クレジット」として還元されます。この還元により、データセンターの負荷が最大となる2032年以降には、一般家庭1軒あたり月額7ドルから9ドルの電気料金割引が実現する試算となっており、これが地域社会や規制当局からの合意形成を極めてスムーズに進める強力な要因となりました。

ハイパースケーラーを引き付けるスキームと地理的優位性

このAWS向けに構築した「GenCoスキーム」は、ほかのハイパースケーラーを呼び込む強力な「パッケージ商品」となっています。同社はこのモデルをメタ・プラットフォームズ(Meta)[META]やアルファベット(Google)[GOOGL]などにも横展開することで、規制リスクを抑えながら、個別契約ベースで確実な利益成長を積み上げることが可能になりました。

実際、供給エリア内ではAWSに続く波が動き出しています。Googleはインディアナ州フォートウェイン近郊で大規模なデータセンター投資を表明しており、さらなる拡張先としてナイソースの供給エリアを検討しています。特にGoogleが掲げる「2030年までの24時間365日カーボンフリーエネルギー(CFE)化」という高い目標に対し、同社が推進する再生可能エネルギーと大型蓄電池(BESS)を組み合わせた統合ソリューションは、その厳格な調達基準に合致する数少ない選択肢となっています。

またMetaも、中西部の冷涼な気候と安定した地盤を評価し、投資を加速させています。こうした背景から、同社には現在、AWS以外のハイパースケーラーなどによる最大6GWの潜在需要がパイプラインとして控えています。すでに締結済みのAWS向け3.0GW(設備容量ベース)の案件と合わせると、将来的な電力需要は最大9.0GWに達する見込みです。現在の総発電能力(約5.2GW)を遥かに凌駕する規模です。

EPS (1株当たり利益)の年平均成長率目標を上方修正

この需要を踏まえ、同社は2026年から2033年までのEPS (1株当たり利益)の年平均成長率目標を8%~9%へと上方修正しました(一般的な公益企業の成長率は5~6%)。特筆すべきは、2027年以降の利益の上振れ期待です。データセンター事業(GenCo)による利益貢献は、2026年時点では1株当たり0.01ドル~0.02ドル程度ですが、設備の稼働が進むにつれて加速し、2033年には0.25ドル~0.45ドルの利益が上乗せされる試算となっています。これは現在の利益水準に対して20%以上の純増となります。

ハイパースケーラーを惹きつけるインディアナ州

ナイソースが展開するインディアナ州北部には、他の州にはない強力な税制優遇措置(Data Center Sales Tax Exemption)が存在します。州政府は、一定規模以上の投資を行うデータセンター事業者に対し、電力使用量や設備購入にかかる売上税を最長50年間免除する法律を施行しています。

巨額投資を行うAWSやGoogleにとって、この税コストの削減は数十億ドル単位の利益直結要因となります。

データセンター向け収益の立ち上がり、健全財務と株主還元を評価

2027年から「GenCoモデル」により収益は拡大期へ

業績は好調です。2026年度はEPSを2.02ドル~2.07ドルと予想しています。前年比成長率は8%となる見通しです。注目点は、アマゾンプロジェクトで供給が開始される2027年を境に収益が拡大期に入ることです。これまでの成長は、既存の規制事業におけるインフラ投資と料金改定(レートケース)によって支えられてきましたが、2027年からは「GenCo」を通じたデータセンター収益が乗ってきます。このインパクトにより、2026年から2033年にかけての連結調整後EPSの年平均成長率(CAGR)目標を、公益セクターの常識を超える8%~9%に引き上げました。

そして、データセンター事業(GenCo)による利益の上積み効果は絶大です。2026年時点でのEPS寄与度は1%未満(約0.01~0.02ドル)に留まりますが、設備稼働が進む2033年には、現在の利益水準を約12%~18%押し上げる(0.25~0.45ドルの加算)見込みとなっています。現在、AWS以外にもGoogleやMetaを含む複数のハイパースケーラーとの交渉が進んでおり、潜在的な需要パイプラインは最大9.0GWとされ、2030年代に向けて現在の純利益の約4分の1近くが「データセンター由来」に置き換わる見込みです。

ポイントは、単なる電力需要の増加ではなく、高収益な「GenCoモデル」による利益改善を伴うことです。前述のとおりss同社では、利益成長の加速を見込み、調整後EPS(1株当たり利益)の年平均成長率(CAGR)を8%~9%と、公益事業の水準を超える水準に設定しました。

設備投資(Capex)計画を引き上げ、財務基盤は強固

次なる成長の基盤となるのは、2026年~2030年に計画されている280億ドルという空前の設備投資(Capex)です。これは前回の5ヶ年計画から約45%も引き上げられた野心的な数字であり、この投資によって2033年までの連結レートベース(収益を生む資産)の年平均成長率(CAGR)は9%~11%に達する見通しです(2025年度8.2%)。

特筆すべきは、巨額の投資を継続しながらも、強固な財務基盤を維持している点です。資金繰りの健全性を示す指標であるFFO/Debt(事業キャッシュフロー対負債比率)は16.1%を記録し、会社計画である14%~16%の上限を維持しました。これは、過去最大規模の設備投資(2025年度は約45億ドル)を行っても、資金調達の健全性を維持していることを示します。この財務的裏付けにより、同社はS&Pから「BBB+」、Moody’sから「Baa2」という投資適格格付けを一貫して取得できています。

利益成長の見通しと強固な財務基盤により、株主還元も拡大が期待されます。同社はこれまで、配当性向を60%前後に保ちながら、14期連続増配の実績を積み上げてきました。しかし、これまでの増配が主にガス・電力の基盤事業による年率6%~8%の成長を原資としていたのに対し、今後はここに「データセンター由来の収益」が強力な上乗せとして加わります。利益成長率が8%~9%に引き上げられたことで、配当の年間成長率もこれに連動することとなります。

もちろん、巨額の設備投資に伴う金利上昇耐性や、データセンター建設のスケジュール遅延などは注視すべきリスクです。しかし同社は、負債比率を51.0%まで低減させるなど、デレバレッジを進めています。また、金利負担増を「運営の効率化(Flat O&M)」で相殺する高い管理能力も評価されます。

【図表1】ナイソース[NI]年間配当推移
出所:Bloombergより筆者作成
※1980年~2026年、2026年は予想値(直近四半期実績を通期換算)
【図表2】ナイソース[NI]とS&P500の株価推移比
出所:Bloombergより筆者作成
※S&P500およびナイソース[NI]株価は1980年7月31日を1とした数値