先週(3月9日週)の動き:長期化するイラン戦争に方向感見えぬ展開、NY金は米利下げ観測の後退で売り優勢、国内金価格は円安効果で下げ渋り

先週(3月9日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、5,150ドルをコアにして上下100ドル幅のレンジ内を方向感なく推移した。米国・イスラエルがイランへの攻撃を開始して2週間が経過し、当初の短期終結期待は大きく後退している。3月13日時点の発表で、米国はイランへの攻撃を前例のない水準まで強化したとしている。一方、イラン側は徹底抗戦を表明し、収束に向かう兆しは見られない。

こうした中で3月13日のNY市場の金価格は3営業日続落し、5,061.7ドルで終了した。週間ベースでは前週末比97ドル(1.88%)安で続落した。1月末の急落後に4週続進していたが、勢いは保てなかった。NY金の先週(3月9日週)のレンジは5,014.1~5,248.7ドルで値幅は234.6ドルと、前週(3月2日週)の429.1ドルから大きく縮小した。

FRB利下げ観測後退に伴う売り

米国では基調的なインフレ圧力が根強く続いている。加えて、イラン戦争がトランプ米政権の想定より長期化するとの見方も重なり、原油価格が高騰した。これらを背景に、FRB(米連邦準備理事会)は当面、利下げ再開には動かないとの見方が市場では支配的となっている。

年始の時点では、FRBは年内2回、市場は3回の利下げを想定していた。しかし、これまでに発表されていた米主要経済指標は総じて堅調で、ホワイトハウスの思惑とは逆に、利下げ見送りが支配的となっていた。

今回のイラン戦争開戦に伴う原油価格の急騰は、エネルギーコストを押し上げるとともに、すそ野の広い石油化学製品の価格をも押し上げるとみられ、インフレ再燃を警戒せざるを得ない環境を生み出している。それにともなう利下げ観測の急速な後退が、イラン開戦後のNY金の上値を抑える基調的な要因となっている。

一方、3月13日の米国産原油WTIは3営業日続伸し98.71ドルで終了。週足は7.81ドル(8.6%)高で2022年7月下旬以来約3年8ヶ月ぶりの高値となる。開戦前日の2月27日は67.02ドルだった。

現金捻出(キャッシュアウト)の手段としての売り

さらにこの数週間、米国株式市場では、業務用ソフトウェア関連企業に対する収益懸念から、関連銘柄の下げが目立っていた。同時にそれら銘柄群への融資比率が高いとみられている投資ファンドの債権の劣化懸念が、投資家の警戒感を高めている。この領域はプライベートクレジットと呼ばれる。ブルー・アウル・キャピタル(OBDC)など、運営ファンドの株価が大きく下落していることが、投資家の懸念を示している。

その下げは、先週(3月9日週)はジェイピー・モルガン・チェース[JPM]など、大手金融株にも広がった。そこに地政学リスクの高まりも重なり、株価下落が目立っている。その中で、現金捻出の手段として、利益が出ている金(ゴールド)が売られ、下げ要因となっている。

国内金価格は円安効果で5週続伸

NY金が週足で続落する一方で、国内金価格は週足で5週続伸となった。3月13日の大阪取引所金先物価格(JPX金)の終値は2万7169円で前週末比104円(0.38%)高と、2週連続で小幅な上昇となった。

為替市場ではイラン戦争勃発後、原油はじめエネルギーを輸入に依存する国や地域の通貨が下落し、米ドルが押し上げられる展開が続いている。先週(3月9日週)の米ドル/円相場は、前週末比で2円ほど円安が進んだ。これが国内金価格の押し上げ要因となり、NY金の下げを相殺する形になった。3月13日の米ドル/円相場は一時159.76円と、2024年7月以来の安値を記録した(FactSet)。

JPX金のレンジは、2万6584~2万7715円で値幅は1131円と、前週(3月2日週)の2020円から大きく縮小した。米ドル/円相場の160円方向への動きについては、為替介入への警戒感も強く、その際に不測の値動きも想定できることから、要注意と言えそうだ。

原油高の抑制に動くトランプ米政権

トランプ米政権は11月の中間選挙をにらみ、原油高の抑制に動いている。イランへの攻撃開始後、米国内ではガソリン価格の上昇が目立っており、直接的に負担増につながることから、実質的な増税との指摘もあるほどで、消費者の不満につながりやすい。

3月11日には国際エネルギー機関(IEA)が4億バレルの石油備蓄を協調放出すると決め、米国は1億7200万バレルの備蓄を放出する方針を示した。この報を受け、指標の米国産原油WTIは3月11日に一時81ドル台まで売られたものの、押し下げ効果は続かなかった。ホルムズ海峡の封鎖による供給不足を補うには不十分で、海峡通過の20日分にとどまるとの見方(日経)が強かった。

また、サウジアラビアが原油の生産を2割減らしたと報じられ(ロイター通信)、輸送が停滞するなかで、湾岸諸国が減産を拡大することへの懸念も強かった。一方、米財務省は3月12日にロシア産の石油に対する経済制裁を約1ヶ月解除すると発表した。取引相手はインドである。

今週(3月16日週)の動き:出口の見えないイラン戦争ニュースに反応する市場/FOMCはメンバーの金利予測に注目/スタグフレーションへの警戒、NY金5,000ドルの攻防

出口の見えないイラン戦争の影響が今週も続きそうだ。週明け3月16日、NY時間外アジア時間の米国産原油WTIは、100.93ドルで取引を開始すると、一時102ドル台まで上値を伸ばした。

3月13日にトランプ米大統領がイランの原油輸出基地カーグ島を米軍が空爆したと発表したことに反応した動きとみられている。備蓄原油の協調放出などの対応策も、イラン戦争の出口が見えない中で効果は限定的との見方がある中で、さらに供給障害につながる動きに市場は反応している。

今週(3月16日週)も、イラン情勢を伝えるニュースに原油価格が反応し、それに伴いNY金も影響を受けそうだ。

FOMCは金利予測に注目

その一方でエネルギー価格高騰の中長期的な経済への影響も懸念事項に浮上している。今週はFOMC(連邦公開市場委員会)が3月17~18日の日程で開催される。イラン戦争が開始されて以降初めての会合となる。一気に環境が流動化し、予測が難しい中で発表されるFOMCメンバーによる金利見通しはどうなるかが注目される。

スタグフレーションへの警戒

こうした中で3月13日に発表された2つの米経済指標が注目された。一つは2025年10~12月期の米実質国内総生産(GDP)改定値で、前期比年率0.7%増と、速報値(1.4%増)から下方修正された。もう一つは1月の米個人消費支出(PCE)物価指数で、前年同月比2.8%上昇と、引き続きFRBが目標とする2%を上回っている状況が示された。

インフレが進む中での景気減速・後退(スタグフレーション)は、中央銀行にとって難しい判断を迫られる環境と言える。金融政策自体が方向感を出しにくい経済環境は、さらに先行きの不透明感を高めることになる。これは歴史的にも、金価格を押し上げる経済環境(1970年代)として知られる。

原油価格の高騰は、足元ではFRBによる利下げ観測の後退を手掛かりに、NY金の売り要因となっている。しかし今後、その影響が景気に及ぶにしたがい、むしろ中長期的にはNY金の買い手掛かりとなることを指摘したい。今週(3月16日週)のNY金は5,000ドルを巡る攻防となりそうだ。