現代の重要インフラ、データセンターも攻撃対象に
3月13日付けの日本経済新聞の記事「イラン、GoogleやNVIDIAなど米7社『標的』 AI・クラウドにリスク」は、イランの革命防衛隊が米テック企業を攻撃の標的にしていると報じている。イラン革命防衛隊が3月10日に通信アプリ「テレグラム」に投稿したリストによると、グーグル(アルファベット)[GOOGL]や半導体大手のエヌビディア[NVDA]、マイクロソフト[MSFT]、アイビーエム[IBM]、データ解析のパランティア・テクノロジーズ[PLTR]など計7社29拠点を挙げたという。
イランは周辺国の米軍基地だけでなく、エネルギーのインフラ施設を対象に報復攻撃に出ている。テック企業の拠点が攻撃を受ければ、人工知能(AI)やクラウドサービスが止まるリスクも出てきた。各社はデータセンターの詳細な場所を開示していない一方で、データセンターは軍事基地に比べ強固な防御システムを持っていない。こうした民間企業の「ソフトターゲット」は、非対称戦において攻撃の標的になり得るという新たなリスクの表面化を伝えている。
データセンターは、単なる情報の蓄積場所ではない。現代社会における政府の機能、金融システム、通信網、さらにはドローンやミサイルなどの兵器運用までもが、これらの施設が提供するクラウドサービスやAI(人工知能)に依存している。中東地域においてこれらの拠点が破壊されれば、軍事的な指揮統制が麻痺するだけでなく、市民生活の基盤が崩壊し、経済全体に計り知れないダメージを与えることになる。
この「現代の重要インフラ」の心臓部を支えているのが、エヌビディアの半導体(GPU:画像処理半導体)である。AIが戦場の分析や戦略決定の鍵を握る現代の戦争において、エヌビディアの技術は単なる商業製品を超え、国家安全保障に直結する戦略物資となっている。
エヌビディアの快進撃を支える「止まらないデータセンター需要」
そのエヌビディアは2月25日、2026年度第4四半期(2025年11月~2026年1月期)の決算を発表した。売上高は前年同期比73%増の681億ドル、純利益は94%増の429億6000万ドルだった。AI(人工知能)向けの先端半導体が好調で、売上高、純利益とも市場予想を上回り、四半期ベースで過去最高を更新した。
成長の原動力は引き続きデータセンター部門だ。データセンター部門の売上高は623億ドル(前年同期比75%増)だった。前四半期との比較でも2割以上増えており、最先端のブラックウェル及び2025年後半から出荷が始まったブラックウェル・ウルトラへの需要が堅調に推移していることが分かる。
2026年会計年度、1年間のデータセンター売上高は1940億ドルと1年前の会計年度に比べて68%増だった。オープンAIのLLM(大規模言語モデル)ChatGPTが登場した2023年以降、事業規模は約13倍に拡大した。コレット・クレスCFO(最高財務責任者)は、「クラウド関連はほぼ完売状態だ」と明らかにした。
2027年度第1四半期(2026年2~4月期)については、売上高で780億ドル(±2%)となる見通しを発表した。これは市場予想の約720億ドルを大幅に上回る。成長の大部分はデータセンター事業がけん引するとしており、前四半期と同様、中国におけるデータセンター向けコンピューティング収益は含まれていない。通年では、粗利益率が70%台半ばを維持すると見込んでいる。
決算発表後に行われた投資家との説明会においてジェンスン・ファンCEO(最高経営責任者)は「エージェンティックAI(自律型AI)の転換点が到来した」と述べ、企業によるAI投資が産業革命レベルで加速しているとの認識を示した。
世界が必要とするトークン生成能力はクラウド設備投資額7000億ドルをはるかに上回る
驚異的な成長を示した好決算にもかかわらず、翌日のエヌビディアの株価は一時、約5.5%急落するところもあった。市場の大きな調整につながる「実需」と「期待」の時間軸にはズレがある。AI投資の「実需」と「期待」のギャップは市場にとって明らかなリスク要因だ。
会社側によると「実需」は順調だ。アーニングス・コールにおいてファンCEOは、「コンピューティングは収益に直結する」と述べ、AIインフラへの投資が顧客の収益とエヌビディアの技術への需要を直接けん引するという見方を強調した。
ご存知の通り、AIが世界に生み出す恩恵は最終的に収益を生み出さねばならない。そして今まさに、われわれの目の前で開発が進む中、エージェント型AIは転換点を迎えている。業界内ではおそらく半年ほど前から認識されていたが、文字通りここ数ヶ月、2、3ヶ月の間に今や世界全体がエージェント型AIの転換点に気づき始めた。これらのエージェントは極めて高度で、現実の問題を解決している。
一方で、2026年のクラウド設備投資額が約7000億ドルに迫る中、多くの投資家はこの水準が来年度も維持されるかどうか疑心暗鬼になっている。さらに、複数の顧客ではキャッシュフロー創出能力も圧迫されつつある。顧客の設備投資の拡大能力について、どの程度確信を持っているのか聞かれたファン氏は以下のように述べた。
私は顧客企業のキャッシュフローが成長すると確信している。その理由は極めて単純だ。私たちは今、エージェント型AIの転換点と、世界中のあらゆる企業におけるエージェントの有用性を目の当たりにした。それゆえに驚異的なコンピューティング需要が発生している。この新たなAIの世界では、コンピューティングが収益そのものだ。
コンピューティングがなければトークン(生成AIがテキストを処理する際の最小単位)を生成する手段はなく、トークンがなければ収益を成長させる方法はない。つまりこの新たなAIの世界では、コンピューティング=収益なのだ。
AIは既に存在しており、AIは後戻りしない。AIはここからさらに進化するだけだ。従来型コンピューティングには年間3000億~4000億ドルが投資されていた。しかし今やAIが到来し、必要な計算量は従来の1000倍に達している。計算需要は桁違いに高まっている。世界が必要とするトークン生成能力は7000億ドルをはるかに上回る規模だ。
そして私は、今後もトークンが生み出され続けると確信している。この先も私たちは計算能力への投資を続けるだろう。理由は、あらゆる企業がソフトウェアに依存し、あらゆるソフトウェアがAIに依存するからだ。つまり全ての企業がトークンを生み出す。だからこそ私はそれらを「AI工場」と呼んでいる。
クラウドデータセンターを運営する企業であれば、収益源となるトークンを生成するAI工場を保有している。エンタープライズソフトウェア企業であれば、自社ツールを基盤とするシステム向けにトークンを生成する。ロボット工場であれば巨大なスーパーコンピューターを保有し、自動車に組み込まれるトークンを生成する。それが自動車のAIとなるのだ。さらに、自動車内部にもコンピューターを搭載し、継続的にトークンを生成させる必要がある。したがって、これがコンピューティングの未来であることは、今やほぼ確実と言える。なぜ、これがコンピューティングの未来だと確信できるのか。従来のソフトウェア開発が事前記録型だった。全てが事前にキャプチャされていた。ソフトウェアは事前にコンパイルされ、コンテンツは事前に記述されていた。例えば、動画は事前に録画されていた。しかし今や全てがリアルタイムで生成される。
リアルタイム生成では、対象となる人物や状況、問い合わせの内容、意図といった文脈を全て考慮に入れ、この我々がAIと呼ぶ新たなソフトウェア、エージェント型AIの成果を生成することができる。従って、必要な計算量は事前記録型とは比べ物にならないほど膨大だ。ご存知のように、コンピューターが録画済みのDVDプレーヤーよりもはるかに高い演算能力を持つのと同様に、人工知能も従来のソフトウェア開発手法よりもはるかに高い演算能力を必要とする。
オンラインで稼働するコンピューティングリソースが増えれば増えるほど、収益の伸びは加速する。これは先ほどの私の指摘、つまりコンピューティングが収益に直結するという点に行き着く。この新たな世界において、そして多くの点で、われわれがこれを新たな産業革命と呼ぶ理由である。新たな工場、新たなインフラが構築されつつあり、このコンピューティングの新たな手法は後戻りすることはない。したがって、トークンの生成がコンピューティングの未来になると私たちが信じる限り、私はそう信じており、業界も概ねそう考えているが、この時点からこの能力を構築し、ここから拡大を続けていくことになるだろう。
市場は「好決算」を当然視、株価は敏感な局面に
現時点では、AI導入による効果が企業収益に十分反映されていないケースも多く、大規模データセンター構築やGPU確保のコストも膨らんでいる。また、AIモデルの性能向上が飽和する可能性や電力不足などの制約も存在する。2000年のドットコム・バブル同様、技術自体はわれわれの社会を大きく変えるインパクトを持っているが、期待が先行する「時間軸のずれ」が市場の調整を招くこともある。
さらに、供給制約のリスクも抱えている。生産委託先であるTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング)[TSM]のキャパシティがボトルネックとなり、需要を取りこぼす懸念もゼロではない。最近ではアップル[AAPL]に代わり、エヌビディアがTSMCの最大顧客に躍り出たとの指摘もされている。業績面での死角は見当たらないが、市場はもはや「好決算」を当然視しており、株価は敏感な局面にある。
石原順の注目5銘柄
