先週(3月9日週)の米国株、S&P500は-1.6%、ナスダック100は-1.06%下落
先週(3月9日週)の米国株は、イラン情勢と原油価格に振り回された1週間となりました。
週初は、原油先物が一時1バレル120ドル近辺まで急騰したことで、株式市場は大きく下押しされましたが、トランプ米大統領がイランとの戦争終結が想定より早まる可能性を示唆すると、相場は急速に切り返しました。ただ、その後は原油の乱高下と戦況を巡る発言の揺れ戻しを受け、上値の重い展開へとなりました。
結局先週のS&P500は-1.6%、ナスダック100は-1.06%の下落で、3週連続安となりました。
企業業績よりも「原油」が相場を動かす主役に
相場の主導変数は、企業業績でも景気指標でもなく、ほぼ一貫して原油でした。3月9日週の途中にブレント原油が急反落する場面もありましたが、週末には再びブレントが103.14ドル、WTIが98.71ドルまで戻り、マーケットは「地政学リスクそのもの」ではなく、「高止まりするエネルギー価格がインフレと景気にどう波及するか」に注目しています。
原油高が長引けば個人消費・設備投資・企業収益に逆風になるとの見方が示されており、市場の関心は戦争の有無から、原油高の持続性へと移りつつあります。
現時点で最も重要なのは、ホルムズ海峡の封鎖リスクがなお残っていることです。ロイター通信によれば、イランの新たな最高指導者はホルムズ海峡を閉鎖し続ける姿勢を示しており、国際エネルギー機関(IEA)は、今回の戦争が「歴史的な供給障害」を引き起こしていると発表しています。
備蓄放出という「時間稼ぎ」と高まる供給懸念
実際、3月に世界の供給が日量800万バレル減少する可能性があるとされ、G7・IEAは記録的な規模となる4億バレルの備蓄放出で対応しています。米エネルギー省も、このうち米国分として172百万バレルの放出を決め、最初の8600万バレルは来週末までに市場へ届く見通しです。もっとも、備蓄放出は時間稼ぎにはなっても、封鎖そのものを解決するものではありません。
加えて3月14日には、ホルムズ海峡での船舶攻撃が続けばイランのハルグ島の石油インフラ攻撃も辞さないと、トランプ米大統領が警告しました。ハルグ島はイラン原油輸出の約9割を担う中核拠点であり、ここが本格的に機能不全に陥れば、供給懸念は一段と強まります。
市場は「戦争がすぐ終わるかどうか」ではなく、「エネルギー供給網の混乱がどこまで広がるか」をみています。戦争が短期で終息すれば原油は落ち着く余地がありますが、航路封鎖やインフラ被害が長引けば、原油100ドル前後が新たな基準になっても不思議ではありません。
この原油高は、マーケットにとって典型的な「悪いインフレ」です。コスト増を通じて企業利益を圧迫し、同時に家計の可処分所得も削ります。原油価格の上昇は、2026年の強気な利益予想は見直しを迫られる可能性がでてきます。エネルギー高の悪影響は輸送、製造、金属、食品、小売まで幅広く及び、企業収益にはじわじわと重石になります。
短期ではエネルギー株などが優位だが、一般消費や輸送は逆風に
セクター別では、エネルギー株が最も分かりやすい受益候補に見えますが、実際には株価反応は想像ほど単純ではありません。戦争開始後しばらくは、メジャーオイル株の上昇は限定的でした。これは、原油高がプラスである一方、戦争長期化が生産・輸送網そのものを傷つけるリスクでもあるからです。
ただ、足元では戦争の長期化観測が強まるにつれ、エクソン・モービル[XOM]、シェブロン[CVX]、オクシデンタル・ペトロリアム[OXY]などに見直しの動きが広がっています。したがって、短期ではエネルギー株、LNG、肥料、資源株が相対優位を保ちやすい一方、景気敏感の一般消費、輸送、工業、そしてコスト増の価格転嫁が難しい企業には逆風が強まりやすくなります。
FRBは原油高をどう見るのか? 利下げ期待は大きく後退
今週(3月16日週)の注目イベントとしてはFOMC(米連邦公開市場委員会)です。市場では据え置き予想がほぼ織り込まれていますが、焦点は政策金利そのものより、FRB(米連邦準備制度理事会)が今回の原油高を「一時的なショック」とみるのか、それとも年内利下げを遅らせる要因とみるのかにあります。
戦争前には年内2回程度見込まれていた利下げ期待は大きく後退し、足元では12月までに1回弱へと縮小しています。つまり、株式市場にとっては「原油高」と「利下げ後ずれ」が同時に進む、最も扱いづらい組み合わせになっています。
ホルムズ海峡の行方は?トランプ米大統領による「絶対に負けられない賭け」
話を原油価格の方向性へ戻すと、もし米国がこれからのホルムズ海峡の安全航行を実力で確保できるとするなら、これは世界にとってゲームチェンジャーとなります。
それは長年市場に上乗せされてきた「イラン・リスクプレミアム」が剥がれ、原油は下方向に戻るからです。インフレ懸念は和らぎ、FRBは利下げを議論できる土俵に戻り、株式市場にとっては、これ以上ない追い風になるはずです。
逆に、ホルムズ海峡が不安定なまま原油が高止まりすれば、インフレは再燃し、利下げは遠のいてしまいます。トランプ米大統領が望む金融環境は自ら閉ざされ、景気と株式には逆風が積み上がることになります。
戦争が長引くほど、政治的にも経済的にも「勝ち」と言い切れない構図となってしまいます。我々が見守るべきは、戦況のヘッドラインニュースではありません。見るべきは、原油価格が100ドルを超えて高止まりするのか、それともイランリスクが剥落され原油が下落に転じるのかです。結局、相場の主役は原油となり、その舞台はホルムズ海峡になっています。
トランプ米大統領は、自分の名誉に為にも絶対に負けることができない戦争、大きな賭けに出てしまったのです。戦争がいつ終わるのかは、当事者である交戦国ですら正確には分からないはずです。もちろん、僕自身も戦争の専門家ではありません。
2週間前のこのコラムでも書いた通り、僕はかつてイランを訪れ、とても良い思い出を胸に帰国しました。だからこそ、今回の戦争によって、何の罪もないイランの人々が苦しんでいる現実には強い痛みを覚えます。同時に、僕はアメリカでも長く暮らしてきました。だからこそ、政治家が始めた戦争によって、アメリカの兵士たちが命を落としていく現実にも胸が痛みます。
下落局面が一時的だと考える背景、持ち直しの局面で相場を牽引する銘柄は?
その一方で、僕は金融の世界に身を置く者として、この状況について一定の見解を述べる責任があります。以下は、あくまで個人的な見方であることをお断りしたうえで、僕なりの考察を述べたいと思います。
足元の状況は、投資家にとって極めてリスクの高い局面です。ただし、米国は日本でも報じられている通り、アジアに配備している空母打撃群や戦略爆撃機などの戦力を中東へ機動的に移し、この戦争の終結に向けて総力を集中させています。加えて米国は、世界最高水準の戦略兵器に加え、新たなタイプのAIも活用しながら、作戦上の意思決定、目標識別、情報解析の速度と精度を一段と高めつつ、軍事行動を遂行しています。今、イランで展開されているのは、従来型の消耗戦とは異なる、テクノロジー主導の新たな戦争だと言えるでしょう。
以上を踏まえると、最終的には米国が勝利し、イランが敗北するのは時間の問題だと考えています。
ただし、その過程では、欧米諸国でイランによるテロ活動が起き、ヘッドラインとして市場を急落させる局面が出るかもしれません。
それでも、仮にそうした下落局面があっても、それは一時的なものにとどまる可能性が高いとみています。米国の勝利が見えてくれば、世界政治の中でトランプ氏の米国の力が改めて見直される局面になると考えています。
そして、下落後にマーケットが持ち直していく局面で相場を牽引するのは、マグニフィセント7やFANG+指数に代表されるようなビッグテックのグロース銘柄だと思います。したがって、足元の下落は、長期投資家にとって「たまにやってくる米国株の買いの機会」だと考えています。
