先週の動き: ニューヨーク金先物8営業日続伸で終値最高値更新後上げ一服、国内金価格も終値で最高値更新後、高値圏で滞留

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、3月11日まで8営業日続伸となり、この間に7営業日連続で終値ベースでの史上最高値更新となった。前々週の議会公聴会でのパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言が多分にハト派的なものと受け止められたことが、ゴールド高値追いの推進力となった。先週は見通し欄で「いったんは上げ一服となっても不思議はない」として、発表が予定されていた米主要インフレ指標の内容によっては、「多少の上値追いの可能性はありそうだ。2,200ドル前後に踏みとどまれれば良し、という展開と言える」とした。

結果的に3月12日発表の2月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比3.2%上昇し、市場予想(3.1%上昇)を上回った。3月14日発表の2月の米生産者物価指数(PPI)も前月比の伸びが0.6%と1月の0.3%上昇から加速し、市場予想以上となった。前年同月比は1.6%上昇。1月は1.0%上昇だった。ガソリンや食料品などモノ(財)の価格が上昇しており、インフレ鎮静化に時間がかかり、FRBの利下げ開始時期が遠のくとの見方が広がった。

債券相場は5営業日続落し、2月下旬以来の水準に上昇。終値では4.318%と週間の上昇幅は0.238%となり、2023年10月以来約5ヶ月ぶりの大きさとなった。外国為替市場ではドルが主要通貨に対し1週間超ぶりの高値を付けた。米ドル/円相場は1ドル=149円前半で推移した。

日銀が3月18~19日の金融政策決定会合でマイナス金利政策を解除するとの観測が強まり、一時148円後半まで円高・ドル安が進んだが、米長期金利の上昇が続き、日米金利差の拡大への意識から円売り・ドル買いが優勢だった。ドルは対ユーロでも上昇し、ドル指数は103.432で終了。週間で0.7%高と1月中旬以降で最大の上昇率となった。

こうした中で週末15日のNY金は2,161.50ドルで終了。週間ベースでは24.00ドル、1.1%安で4週間ぶりの反落となった。レンジは2,157.00~2,195.50ドルとなった。想定レンジを2,160~2,210ドルとしていたが、2,200ドルを超える水準には至らなかったものの、ほぼ想定の範囲内といえる。

一方、想定レンジを1万200円~1万350円とした国内金価格は、15日の終値が1万339円で週足は75円、0.73%高となった。前述のように、日銀の政策変更観測を受け米ドル/円相場が一時円高方向に動いたものの、1ドル=149円台まで押し戻されたことで、国内金価格の週末終値1万339円は終値ベースでの史上最高値となった。レンジは1万216円~1万379円となったが、こちらもほぼ想定の範囲内となった。

1日で急増した金ETF残高

先週の金市場で目に付いたのは、3月15日に金ETF(上場投資信託)の最大銘柄「SPDR(スパイダー)ゴールド・シェア」の残高が1日で14.98トンと大幅に増加したことだ。規模としては2022年3月2日の21.2トン以来の大幅増加となった。

金ETF全体の残高は、月間ベースで2月末まで9ヶ月連続減少中で、この間に350.4トン減っている(ワールド・ゴールド・カウンシル調べ)。減少は欧米投資家の売り(アジアその他は買い越し)で占めており、売却された金地金が保管場所のロンドンから空輸され、スイス経由で中国やインドなどに引き取られている状況を3月4日に「西から東へ 空飛ぶゴールド」として取り上げた経緯がある。

果たして15日の、北米の買いを意味する「SPDRゴールド・シェア」残高の大幅増加は流れの転機になるのか、今後の動向は金市場の内部要因として注目事項だ。

ニューヨーク金先物(ネットロング)、約2年ぶりの規模

さらに先週は、NY金先物取引におけるモメンタム系ファンドの買い建て(ロング)急増を上昇の背景として取り上げ、「この傾向は続いていると思われる」とした。実際に先週末に発表された米CFTC(商品先物取引員会)のデータでは、前々週発表分の196トン増に加え、3月12日までの1週間でさらに88トン増加していることが判明した。マネイジド・マネー(MM)に分類される残高は496トンまで拡大しており、2022年5月8日の546トン以来の規模となる。新たな手掛かり材料がないと、上値追いが難しい規模と言え、内部要因的には調整局面入りが近いシグナルといえそうだ。前述した先週末のETF「SPDRゴールド・シェア」の残高急増は、このタイミングでのものゆえに余計に目立つことになった。

今週の見通し:日米政策決定会合に注目、FOMCの結果次第で振れ幅拡大も 想定レンジはニューヨーク金先物2,110~2,165ドル、国内金価格1万100円~1万380円

今週は日米の金融当局の政策決定会合が注目される。特に米連邦公開市場委員会(FOMC)の内容によっては、NY金の値動きは荒くなりそうだ。

3月18日から2日間の予定で開かれる日銀の金融政策決定会合では、2016年から続けるマイナス金利政策の解除がほぼ織り込まれた状況にある。当初、3月5日の時点で時事通信社がその可能性を報じた後、海外勢が先行して円買いに走った経緯があるが、米ドル/円は1ドル=146円台で止まっていた。先週は主要メディアが3月会合での解除の可能性を報じたが、市場では織り込み済みの状況で、むしろ前述のように円安に動いた経緯がある。

一方、3月19~20日のFOMCに関しては、政策金利の据え置きは織り込み済みだ。市場の注目は3ヶ月に1度発表されるメンバーの経済予測に向けられている。年内の利下げ幅が、2023年12月時のもの(2024年に3回の利下げ)より縮小するとの見方が出ており、要注意といえる。仮にそうなれば、高水準の買い残を抱えるNY金は2,100ドル方向への下げを想定する必要がありそうだ。

前回のコラムのタイトルをレンジ下値2,100ドルに切り上げとしたが、その下値を試すことになる。FOMCでの金利予想については、長期見通しにも注意したい。これまでFRBは長期の見通しを2.5%にほぼ固定してきたが、この切り上げがあるようだとNY金の下押しは確定的となりそうだ。

こうした中で今週の想定レンジはNY金が2,110~2,165ドル、国内金価格は1万100円~1万380円を想定している。NY金については下振れを警戒している。

【図表】金 縦軸:円建て金/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券