先週(3月10日週)の動き:NY金はファンドの買い攻勢で史上初の3,000ドル突破、国内金価格は週足で約4ヶ月ぶりの上昇率に

先週(3月10日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は史上初めて1トロイオンス3,000ドルを突破した。

トランプ政権の関税を巡る不透明性や強権的な外交姿勢が、米国経済のみならず世界経済への悪影響を強めるとの懸念から、安全資産としての金市場への資金流入が加速した。先週末3月14日のNY金は、取引時間中の最高値を更新(3,017.10ドル)し、終値でも3,001.10ドルと初めて3,000ドル台に乗せることになった。週足は前週末比87.00ドル、2.99%の続伸となった。

米経済の先行き懸念の株安

前週から続く株式市場大幅続落の中で、週明け3月10日から11日のNY市場時間外のアジア、ロンドンの時間帯にかけて、金市場では当初、リスクオフ対応の現金捻出の売りが先行した。

発表後に二転三転するトランプ政権の関税提案は、該当国からの譲歩を引き出す「ディールの手段」というのが当初の見方だった。しかし課税が現実のものとなり相手方から報復関税を受けるなど外交摩擦が高まる(貿易戦争)に従って、米国経済にも悪影響を及ぼすとの見立てに転化。NY金は買い優勢の流れに乗ることになった。

3月に入り発表された2月分の消費者心理や企業のマインド系指数が低下する中で、景気減速あるいは後退観測も高まり、米株安は加速。週末14日には自律反発したが、13日までにダウ30種平均は4営業日続落し、合計の下げ幅は1,988ドルに広がった。多くの機関投資家が運用指標としているS&P500は2月19日に付けた最高値から10.1%下落し、調整局面入りを確認した。ナスダック総合指数は先行して既に3月6日に調整局面入りを確認している。

景気悪化と株安も容認

こうした中で伝えられたトランプ大統領やベッセント財務長官の発言内容は、米経済の減速・後退や株安もやむなしとの方針に立っていると見受けられたことも、株式市場を中心にリスクオフ(リスク資産回避)の流れを加速させ、安全資産とされる金市場への資金の流れを強めさせた。前週(3月3日週)は週間ベースで残高が減少していた金ETF(上場投信)だが先週(3月10日週)は一転増加。最大銘柄「SPDRゴールド・シェア(1326)」の残高は12トン強増加した。

買い余力が生まれていたファンドの集中買い

NY金3,000ドル突破への原動力は金市場の内部要因から見て、CTA(Commodity Trading Advisor)と呼ばれる短期筋のファンドによる買い攻勢だと指摘できる。前回の当欄にて「株安にともなうNY金の手じまい売りは目立たず」として、毎週末にCFTC(米商品先物取引委員会)が発表するデータを紹介し、3月4日時点のNY金のファンドの買いポジションが、重量換算で774トン(小数点以下切り捨て)と、1ヶ月前の2月4日時点から190トン約20%の減少となっていることを取り上げた。つまりファンドには、買い余力が生まれていたことになる。

先週(3月10日週)は市場で広がるリスクオフセンチメントに乗じて、短期筋のファンドは週後半に向け買い攻勢に出たものとみられる。毎営業日に1日遅れで公表される取組(open interest)の推移から推測するに、先週12日から14日に掛けて重量換算にして50~60トンの集中買いが入りNY金の水準を3,000ドル超に押し上げたとみられる。

こうした大きな動きがあったことにより、先週(3月10日週)のNY金のレンジは拡大した。実際には2,914.10~3,017.10ドルで上下134.60ドルに拡大した。

JPX金も週足4ヶ月ぶりの大幅上昇

一方、こうしたNY金の動きを受け国内金価格も価格レンジが拡大した。大阪取引所の金先物価格(JPX金)は、NY金の上昇に加え、米ドル/円相場が週末にかけて円安傾向を強めたことがダブルの押し上げ効果となり急騰することになった。具体的には米ドル/円相場が週前半に146円台半ばと約5ヶ月ぶりの高値を付けた後、週末にかけて円安方向に進み14日には一時149円まで達し148.64円で終わった(ファクトセットのデータ)ことによる。JPX金の14日の終値は1万4373円で週足は前週末比462円、3.3%の続伸となった。週足の上昇幅及び率は2024年11月18日の週の前週末比531円、4.1%上昇以来の大きさとなった。レンジは1万3683~1万4373円と上下700円の振幅となったが、これも約4ヶ月ぶりのもの。

今週(3月17日週)の見通し:FOMCメンバー経済予測、2月米小売売上高に注目 NY金3,000ドルの値固め、JPX金1万4200~1万4600円を想定

今週(3月17日週)は18~19日の日程でFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催。政策金利は現行の4.25~4.50%に据え置きが予想される。今回はFOMCメンバーの経済予測が発表される。トランプ政権の関税賦課を巡る各国の報復策や同政権の強硬的な外交政策など、不確実性のレベルはこの1ヶ月でさらに高まっている。その中で金利見通しのみならず成長率からインフレ、失業率まで、FOMCメンバーがどう見通しを示すか注目したい。

経済指標では17日(月)の2月の米小売売上高に注目したい。前回1月分は前月比0.9%減と予想外の減少となった。カルフォルニア州の大規模火災や異例の寒波がマイナスの背景とされたが、消費者心理の冷え込みが表面化しているだけにどうなるか。市場予想は0.6%の増加となっている。

こうした中でレンジの切り上げとなったNY金だが、これまで上値めど2,950ドルを下限にする100ドル幅の切り上げを想定し、レンジ上限を3,050ドルに置く。その中で当面は3,000ドルの水準の値固めに移行するとみられる。JPX金は、今週の日銀金融政策決定会合にて目立った動きがないとみて、NY金に沿った値動きを想定し1万4200~1万4600円のレンジを読んでいる。