円売り「バブル」破裂との違い

ヘッジファンドの取引を反映しているとされるCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションの買い越し(米ドル売り越し)が、先週は13万枚以上に拡大した(図表1参照)。2024年までの円買い越し最高は、2016年に記録した7万枚だったのでほとんど倍近くとなったわけだ。これは、円買いの極端な「行き過ぎ」という意味で、円買い「バブル」になるだろうか。

【図表1】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2010年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

2024年7月には、今回とは逆に円売り越しが18万枚以上に急拡大した。やはり円売り越しが18万枚以上に拡大したのは2007年にも見られた現象だった。この2つのケースは、円売り越し拡大が一巡するとほんの1~2ヶ月で一気に消滅し、その中で急激な円高が起こった。いかにも極端に行き過ぎた円売り、つまり円売り「バブル」破裂が円急騰をもたらした構図だった。では、今回は逆に円買い「バブル」が広がっており、その破裂で急激な円安に振れる懸念はないだろうか。

金利差はなお円売り有利な状況が続いている

上述の2つの円売り「バブル」のケースと今回の違いは、金利差との関係だろう。円売り越しが18万枚以上に拡大した2007年と2024年は、ともに日米政策金利差(米ドル優位・円劣位)が5%程度と大幅に拡大した局面だった(図表2参照)。大幅な金利差の中で円売りが圧倒的に有利となったことから、円売りは「バブル化」に向かったと考えられた。

【図表2】CFTC統計の投機筋の円ポジションと日米政策金利差(2005年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

これに対して、今回日米政策金利差は一時に比べて大きく縮小したものの、足下ではなお4%と大幅な状況に変わりない。金利差の観点からは、なお円売り有利な状況が続いている中で円買いが急拡大している。

このような金利差と逆行する円買い急拡大の背景には、トランプ大統領が円安に対して強い不満を抱き、その是正を要求している「通貨政策」の影響があると考えられる。ではそうした中で円買いはさらに拡大、「バブル化」に向かうだろうか。

円の「買われ過ぎ」修正で円高のブレーキ役になる可能性

「バブル」を車に例えると、ブレーキの壊れた車ではないだろうか。ブレーキを踏んでも減速しない、止まらない車は何かにぶつかって止まる、クラッシュする危険があり、そのクラッシュが「バブル破裂」だろう。その意味では、大幅な金利差という円売りに圧倒的に有利な状況で、円売りは「バブル化」しやすく、止まるのは「バブル破裂」の可能性が高かったのかもしれない。

一方で、円買いにとって金利差はブレーキ役、つまり拡大に一定のレベルで歯止めをかける役割になることから、「バブル化」は本来的には回避される可能性が高い。そうであれば、円買い「バブル」となる前に円の「買われ過ぎ」は修正に向かうことから、円買い「バブル」破裂で円急落をもたらすより、円の「買われ過ぎ」修正で円高のブレーキ役になる可能性が高いのではないか。

もちろん金融市場がつねに論理的に動くわけではなく、以上の見立てと異なり、金利差では不利にもかかわらず円買いが「バブル化」となった場合は、円売り「バブル」破裂のケースと同様に、円相場を逆方向へ急激に変動させる一定程度のリスクがあるだろう。