本承認への道のり険しく

iPS細胞を活用した新しい医療製品の開発が進んでいる。日本が世界に誇る技術だけに、実用化への期待は大きい。

iPS細胞とは、2006年に京都大学の中山伸弥教授によって作製された体細胞から様々な細胞になり得る細胞のことである。通常、体にある全ての細胞は受精卵がもとになっており、そこから分化して様々な臓器などに成長し、元の状態に戻ることはない。iPS細胞は体の細胞に特定の遺伝子を導入することで受精卵に近い状態に戻し、様々な細胞に分化する能力と増殖する能力を持たせた細胞である。新しいタイプの多様性幹細胞であり、神経や血液、心筋など体の様々な細胞に分化する能力を有していることで、難病の仕組みの解明や再生医療の実現、新薬開発への新しい道を開いた。

一方、2012年の山中教授のノーベル医学・生理学賞受賞から12年以上が経過しても、日本国内で実用化に至った成果はない。業界関係者によると「再生医療などに使う細胞は均質に作ることが難しく、臨床試験で有効性や安全性を確認するハードルが高い」という。また、2014年からは薬機法が施行され、「再生医療等製品」という分類が新設、さらに迅速な実用化のための条件・期限付き承認制度が導入されたが、その後に本承認を得られたケースはない。

心不全治療のための製品実用化を目指す企業

こうした中でも新製品の開発に向けて着実に進んでいる企業も出てきている。

その先導役が東証グロース市場に上場しているクオリプス(4894)とHeartseed(ハートシード)(219A)だ。いずれも心不全をターゲットとしている。心不全は心筋梗塞などの虚血性心疾患や拡張型心疾患などが原因で、心臓が全身に必要な血液と酸素を十分に送り出せなくなる慢性かつ進行性の疾患である。国内で120万人、世界で6,500万人以上が罹患し、さらに増加を続けている。

クオリプス(4894

大阪大学発スタートアップで、再生医療に取り組むクオリプス(4894)は、阪大と共同でiPS細胞を使った世界初の心筋シートを開発している。

iPS細胞由来心筋シートとは、ヒトiPS細胞から作成した心筋細胞(iPS心筋)を主成分とした他家(患者以外の)細胞治療薬で、シート状に加工されたものを、心臓に移植する。心臓移植や人工心臓装着以外に有効な治療法がない重症心不全の患者を対象に、心機能の改善や心不全状態からの回復などの治療効果が期待されている。虚血性心疾患領域で2020年1月に1例目の移植を実施。2023年3月に追加5例の移植が完了。1~3例目が移植から約5年経過、4~8例目は約2年が経過している。

2025年2月13日の第3四半期決算説明資料によると、先行する虚血性心疾患領域では、新薬の審査などを行う医薬品医療機器総合機構(PMDA)から「臨床パート」について助言を受けたとし、申請時期が近付いているとの見方を示している。

【図表1】クオリプス(4894):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年3月28日時点)

Heartseed(ハートシード)(219A

Heartseed(ハートシード)(219A)は慶応大学発のバイオベンチャー。重症心不全の抜本的な治療を目指す心筋再生医療を展開している。リードパイプラインは「HS-001」(開発コード)で、心臓にiPS細胞から作った心筋細胞を注入し、収縮する力を高めて病を改善させる。心筋細胞を大量に集めて「心筋球」という塊にすることで治療効果をあげられるという。

2025年2月に、虚血性心疾患に伴う重症心不全を対象とする他家iPS細胞由来心筋球「HS-001」(開発コード)の第1・2相試験(LAPiS試験)において、高容量5例目、全体で10例目の投与を実施し、患者組入れが全て終了したと発表。投与の完了を受けて、データの取りまとめを継続し申請に向けた事前準備を進めている段階で、報道によると、2027年の承認・販売開始を目指しているという。

【図表2】Heartseed(ハートシード)(219A):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年3月28日時点)

その他iPS関連銘柄をピックアップ

ヘリオス(4593

iPS細胞、体制幹細胞を活用する再生医療ベンチャー。2023年6月に住友ファーマ(4506)と他家iPS細胞由来網膜色素上皮細胞の臨床試験1・2試験を開始すると発表している。加齢黄斑変性などに起因し、網膜色素裂孔(細胞層の断裂、部分欠損)を有する患者が対象。被験者の組み入れを開始しており、2028年度の上市(販売開始)を目標としている。

【図表3】ヘリオス(4593):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年3月28日時点)

ケイファーマ(4896

慶応大学発ベンチャー。iPS細胞を活用した創薬と、再生医療が軸。既に一定の安全性が確認されている既存薬を活用することで開発機関の短縮化、開発費の抑制を狙う。創薬のリード開発パイプラインはALS(筋萎縮性側索硬化症)で、現在国内で第3層臨床試験を準備中。

【図表4】ケイファーマ(4896):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年3月28日時点)

住友ファーマ(4506

2024年12月に住友化学(4005)と再生・細胞医薬事業の加速化を担う新会社ラクセラを設立。住友ファーマはパーキンソン病を対象とした世界初のiPS細胞由来製品の開発を日米で進めているほか、2023年6月に網膜色素上皮裂孔を、2024年11月には米で網膜色素変性を対象としたiPS細胞由来製品の治験を開始している。

【図表5】住友ファーマ(4506):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年3月28日時点)