先週の動き:パウエル議会証言を受け連日の高値追いでニューヨーク金先物、一時2,200ドル突破、国内価格も史上最高値更新

先週末3月8日のニューヨーク金先物価格(NY金)は、7営業日続伸となった。前日比20.30ドル高の2,185.50ドルで終了。終値ベースでは6営業日連続で史上最高値を更新した。終値ベースでの連続最高値更新記録としては、手元の資料では2010年9月以来となる。また、一時2,203.00ドルまで買われ、3営業日連続で取引時間中の最高値も更新している。

発表された2月の米雇用統計が強弱入り交じる内容となり、市場には、一時は「過熱」とも表現されていた米労働市場について、「軟化の兆し」と受け止められた。前月分の雇用者数の下方修正が大きかったことが、労働市場の減速をより意識させたとみられる。前日に開かれた米上院金融委員会でのパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長による、インフレ目標2%へ低下に対する確信が持てるのは「そう遠くない時点」との発言も伏線になったとみられるが、米10年債利回りが一時4.041%と約1カ月ぶりの低水準を付け、主要通貨に対しドルも下落。金市場では目先筋の買いが続いた。

一連の値動きとしては、前々週末3月1日のISM(サプライマネジメント)製造業景況指数の予想外の低下をきっかけとした上半期米利下げ観測の再浮上が、ファンドの先物買いを引き出している。当初は空売りの買戻し(ショートカバー)と見られたが、週明けに4日に2,100ドルを上抜いて以降は、新規の買い(フレッシュ・ロング)を巻き込むかたちで上値追いに拍車がかかった。

年初から中国を中心にアジアで現物買い需要が強く、需給バランスが締まっていたことも値動きの軽さの背景とみられる。それが大きな抵抗感なく高値更新をもたらしている。加えてNYコメックス先物市場では、未決済取引(取組高)が2023年末以降減っており、2023年12月4日の最高値更新後のポジション整理が進んでいたことも(取組と日柄調整の終了)、値動きの軽さにつながったとみられる。

先週のNY金の週足は89.80ドル、4.28%高でレンジは2,088.10~2,203.00ドルとなった。さすがに2,100ドルどころでは、益出し売りが控えると見て予想レンジを2,070~2,110ドルとしていたが、今回は当コラムを担当して以来、最大の予想比上振れとなった。

ちなみに、2023年末12月25日の当欄では、2024年のNY金の年間レンジを2,000~2,300ドルとし、「下値は2,000ドルをやや下回る可能性はありそうだ。仮に年後半に米大統領選に伴う混乱が見られるならば、価格上限はさらに2,500ドル程度まで高まる可能性がある」とした経緯がある。

なお、国内金価格もNY金に連動する形で過去最高値の更新を続けた。週明け3月4日以降3営業日連続で取引時間中の最高値を更新し、6日の10,341円がこれまでの高値となった。終値ベースでは7日の10298円が最高値であった。これに従い、10%の消費税込みで表記される店頭小売価格も1グラム1万1,000円を突破することになった。

高値を更新した国内金価格だが、米ドル円相場が週末にかけて、日銀による早期の政策修正を予想する見方から一時1ドル=146円台まで買われたことから、NY金が最高値を更新する中、円高で相殺されるかたちになった。それでも国内金価格の週末の引けは10,264円となり週足は368円、3.7%の大幅高となった。想定レンジを9,875~10,175円としていたが、レンジは9,785~10,341円と、NY金同様現実には200円ほど上振れとなった。

過熱相場が示すのは「カネ余り」か「カネの価値劣化」か

NY金の先週来の買いの主体は、目先筋CTA(商品投資顧問)などモメンタム系のファンドとみられる。実際に先週末米CFTC(商品先物取引員会)が発表したデータでは、2月27日時点での短期筋ファンド(マネーマネジャー)のポジションは、1週間で重量換算にして前週の211トンから407トンと、ネットの買い建て(ロング)で196トンもの増加となっていた。

一種の投機的攻勢が高まっているといえるが、先週末3月8日にかけての上値追いした流れを見ると、この傾向は続いていると思われる。NYコメックスで現在中心になっている取引(2024年4月物)の取組(未決済コントラクト)は32万9204枚(1枚=100オンス)だったが、8日の出来高は35万5570枚とそれを上回っていた。つまり、8日までの上昇分の利益確定売りが出ているとするならば、それを消化する買いが入っていることになる。こうした状況を“回転が利いている”と表現するが、ロングの増加(先物ゆえに将来の売りの増加)を苦にしていない価格展開といえる。しかし、こうした状況が見られる際は、相場としては相応に過熱しているといえ、どこで「順の回転」が止まるのかという段階といえそうだ。

このところの先端半導体企業エヌビディア[NVDA]株の派手な上昇に象徴される米株式市場の最高値更新や、ビットコインの急騰など過剰流動(カネ余り)を思わせる動きが目につくが、足元の展開は金市場もまたしかりということであろうか。ただし、こうした投機的攻勢にしても、いまの金市場の根底にあるのが「カネ余り」の裏にある「カネの価値の劣化」を懸念する現物買いの存在(中央銀行などの買い)が、ファンド筋をも勢いづけているという印象が強い。2023年春以来、従来とは異なった価格展開が始まっていると捉えている。とはいえ、ここまで駆け上がってきた金価格ゆえに、いつ騰勢一服となっても不思議はない。

今週の動き:12日の2月の消費者物価指数(CPI)に注目、想定レンジ ニューヨーク金先物2,160~2,210ドル、国内金価格10,200~10,350円

今週は来週の米連邦公開市場委員会(FOMC)を控え、FRB関係者はブラックアウト期間に入っており、発言機会はない。ただし、先週2日間にわたる議会公聴会でのパウエル議長の発言は、多分にハト派的なものと受け止められ、ゴールドに関しては高値追いの推進力となった。史上最高値に跳ね上がった相場は、前述したようにいったんは上げ一服となっても不思議はない。ただし、今週は12日に2月の消費者物価指数(CPI)の発表が控える。この内容如何によっては多少の上値追いの可能性はありそうだ。2,200ドル前後に踏みとどまれれば良し、という展開と言える。国内価格については日銀の政策変更の見方が高まっており、やはり円高方向には気を付けたい。想定レンジはNY金が2,160~2,210ドル、国内金価格は高値更新の可能性を含む10,200~10,350円を見込んでいる。

【図表】金 縦軸:円建て金/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券