先週(3月17日週)の動き:複合要因による最高値更新が続いた内外金価格
先週(3月17日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、連日にわたり史上最高値の更新が続いた。3月20日に至るまで8営業日続伸し、終値ベースで、6営業日連続で最高値を更新した。この間に取引時間中の最高値も5営業日にわたり更新した。最高値は3月20日で、それぞれ3,043.80ドル、3,065.20ドルとなった。
引き続きトランプ米政権の通商政策がインフレ高進を招き、経済成長にも悪影響を及ぼすとの懸念が安全資産としての金(ゴールド)の買いを促した。
さらに地政学リスクの高まりもある。中東情勢は再び事態が悪化に向け流動化し始めている。イスラエルは先行してパレスチナ自治区ガザへの空爆を再開していたが、19日には地上作戦を開始するなどネタニヤフ首相の強硬姿勢に拍車がかかっている。一方、包括的な停戦への協議の困難さが浮き彫りになったウクライナ戦争など、地政学リスクがここに来て急速に高まっていることも買い手掛かりとされた。
3月19日にはFRB(米連邦準備制度理事会)がFOMC(連邦公開市場委員会)にて年内2回の利下げを示唆したことも連日の最高値更新につながった。ただ21日には、さすがに利益確定の売りが膨らみ反落となった。21日の終値は3021.40ドルで週足は前週末比20.30ドル、0.68%高と3週続伸となった。レンジは2,991.40~3,065.20ドルで上下の振幅は73.80ドルと前週(3月10日週、134.60ドル)の半分近くで収まった。
短期筋ファンドのロング(買い建て)、1週間で56トン増
前回のコラムにて「買い余力が生まれていたファンドの集中買い」として「毎営業日に1日遅れで公表される取組(open interest)の推移から推測するに、先週12日から14日に掛けて重量換算にして50~60トンの集中買いが入りNY金の水準を3,000ドル超に押し上げたとみられる」としていた。
現地時間、週末3月21日夕刻にCFTC(米商品先物取引委員会)が発表したデータでは、その推測通りの数字が明らかになった。3月18日時点での短期投機筋(CTA)のロング(買い建て)が重量ベースで前週比56トン増、インデックス型などその他が26トン増となり、全体の残高が835トンと2月11日以来1ヶ月ぶりの水準に拡大していることが判明した。やはり短期筋ファンドの買い攻勢が連日の最高値更新の背景となっていた。
現物由来の金ETFへの資金流入急増
その上で特筆すべきは金ETF(上場投信)への資金流入が続いていることだ。前週から目立っていたが、21日に最大銘柄「SPDR(スパイダー)ゴールドシェア(1326)」の残高が、1日としては異例の20.08トン増加した。日足8連騰の後の押し目(下げ局面)を買ったとみられる。
ちょうど1ヶ月前の2月21日にも20.66トンと同じ規模の増加が見られた経緯がある。先物市場のファンドの動きに加え、現物由来の金ETFへの資金流入は、最高値圏にもかかわらず足元の相場の底堅さを感じさせるものといえる。
国内金価格も史上最高値更新
一方、こうしたNY金の高値追いを受け国内金価格も最高値を更新した。前回のコラムでは、3月18~19日の日銀金融政策決定会合では政策変更なしと読み、NY金に沿った値動きを想定したが、見立て通りの流れとなった。
大阪取引所の金先物価格(JPX金)は20日が祝日だったが、19日まで6営業日続伸、18日には終値1万4600円と2月13日に記録していた1万4451円の高値を更新。翌19日には続伸し、取引時間中(1万4736円)及び終値(1万4730円)ともに史上最高値を更新した。21日はNY金の反落に同期する形で下げ週末の取引を1万4672円で終了した。
週足は前週末比304円、2.1%高で3週続伸した。レンジは1万4295~1万4736円で上下の振幅は441円と、ほぼ通常ペースの値動きとなった。なお10%の消費税込みで表記される指標的な店頭小売価格も21日、1万6078円と最高値を更新した。年初来で1332円、9%の上昇となる。
今週(3月24日週)の見通し:3月28日PCEコアデフレーター、関税と外交を巡るトランプ発言に注目 NY金は3,000ドル超を固める展開、JPX金は1万4250~1万4750円を想定
今週(3月24日週)は月末そして早くも四半期末となる。先週19日、パウエルFRB議長は改めて利下げを急がない方針を示した。ニューヨーク地区連銀ウィリアムズ総裁の21日の講演も、移民や貿易、財政の急速な政策変更が経済にどのような変化をもたらすのかを巡って高いレベルの不確実性があるとしつつ、現行の金融政策スタンスは適切であるとして議長の発言に沿ったものとなった。これは、今後発生する変化に適宜対応する準備はできており、かつ金利見通しは年内2回を見込むというものである。金融マクロ環境という点では、当面金市場をサポートする状況が続きそうだ。
今週(3月24日週)の米国関連の指標としては、3月28日(金)に2月の個人消費支出(PCE)価格指数が注目される。食料品とエネルギーを除くコア指数(PCEコアデフレーター)の上昇率が、1月に続き0.3%になると予想されている。仮にそうなれば前年同月比では1月の2.6%から2.7%に加速することになる。
トランプ政権に関税の影響が出るのはまだ先だが、足元では物価が下りにくい状況が続いている。このところ金融市場を中心に、米国経済が一定のインフレと景気減速や後退が併存するスタグフレーションに至るとの見通しが話題だが、その傾向が現時点で顕著になっているわけではない。ただし、発表される指標はその方向を示している。
経済指標以外では、今週もトランプ大統領の発言を中心に政権の関税を含む方針や地政学リスクの動向が金市場に影響を与える状況が続きそうだ。内部要因では金ETFの残高推移に要注目。これは欧米投資マネーの金市場への流出入を見る有力な手掛かりとなる。
今週のNY金は先週と同様に売りを消化しながら3,000ドル超を高める値動きとなりそうだ。国内JPX金は米ドル/円相場に目立った動きがないと見て、NY金に連動する値動きで1万4250~1万4750円を想定している。複合要因が逃避資金を呼び込むマクロ型上昇が続きそうだ。