先週の動き:インフレ指標は警戒された上振れは見られず、さらに米ISM製造業景況指数悪化を受けニューヨーク金先物は高値更新。国内金価格は150円超の円安もあり、終値ベースで最高値更新
先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週末に終値ベースで史上最高値を更新する意外性のある展開となった。週末3月1日の終値(清算値)は2,095.70ドル。週足は46.30ドル、2.26%の続伸となった。2023年12月27日に記録した終値ベースの最高値2,093.10ドルを更新した。
先週のNY金は値動きという点で、まさに静から動という展開となった。注目のインフレ指標である食品とエネルギーを除いた「コア個人消費支出物価指数(PCEデフレーター)」の発表を2月29日に控え、それまでの3日間は市場横断的に模様眺めであった。NY金も連日上下14ドル程度の狭いレンジ相場に終始した。
先行して発表された2月の米消費者物価指数(CPI)、同生産者物価指数(PPI)のいずれも予想比上振れとなったことから、コアPCEデフレーターも上振れを警戒する向きが多かった。ところが、前年同月比2.8%上昇と、伸び率は前月の2.9%から小幅に縮小し、2021年2月以来の低さだった。前月比では伸びが加速したものの、市場予想に沿ったものとなり、総じてインフレは終息の方向にあることが確認された。
米利下げ転換時期は6月以降になるとの見方が織り込まれつつあったが、上半期中の利下げ観測を再び浮上させた。そこに発表されたのが、翌3月1日の2月米ISM(サプライマネジメント協会)製造業景況指数の予想外の下振れだった。前月の49.1から49.5への改善を読んでいた市場予想に対し47.8であった。景気後退を意味する50割れは16ヶ月連続となり、約22年ぶりの長期低迷となった。
「景気後退なきインフレの終息」というソフトランディング(軟着陸)シナリオに大きく傾いていた市場の逆回転は、長期金利の急低下で始まり、ドル指数(DXY)の低下を伴った。NY金は、いったんは2,060ドル前後で売り買い交錯状態となったものの、売りをこなすと買い先行のまま終盤に向け水準を切り上げながら相場は進行した。結局、最高値の更新に至った。
先週はインフレ指標の上振れを警戒し、想定レンジを2,025~2,055ドルと控えめに見積もったが、3月1日の41ドル高で上振れし2,033.40~2,097.10ドルとなった。一方、国内金価格は、物価目標2%達成に向けた日銀植田総裁の慎重発言もあり、ドル円相場が150円台に滞留したことから、円安効果もあって押し上げられた。日本時間3月1日時点の国内金価格の日中取引は9,895円で終了。この時点で2023年12月4日に付けた終値ベースの最高値を更新した。週足は90円、0.9%高の続伸だった。レンジは9,773~9,895円で、先週「高値更新を見込む」として、想定した9,750~9,900円のレンジに収まった。
西から東へ 空飛ぶゴールド
先週末の終値ベース最高値更新で、次は取引時間中の高値(2023年12月4日、2,152.30ドル)更新が視野に入る。一方で、2023年秋以来、欧米投資家によるETF(上場投信)を介したゴールド現物売りが続いてきた。国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシルのデータでは、世界全体のゴールドETFの残高は、2023年6月~2024年1月まで8ヶ月連続で減少している。計301.4トンの減少(売り越し)で、欧米が320トン減、アジアその他が18.6トンの増となっている。2月も全体で50トン近く減少したとみられる。それでもNY金は年始以来2,000~2,050ドルの高値圏で推移してきた。米連邦準備制度理事会(FRB)による早期利下げ観測が大きく後退し、米長期金利が2023年末の3.8%前後から4.3%超まで上昇する中で、欧米機関投資家はゴールドを断続的に手放してきた。その中で異例の底堅さを見せてきた。
背景にあるのは、中国はじめアジア地域を中心とする一般個人の需要の強さだ。というのも2023年以来、スイスから中国、インド、中東地域などへの金輸出がコンスタントに続いていることがある。1月は全体で216トンにも拡大した。ロンドンに保管されているETF保有のラージバー(400オンス、約12キロ)が、売却に伴い精錬所のあるスイスに空輸され、1キロバーなどに精錬された上で需要地に輸出されている。スイスは、その中継基地になっている。
欧米の売りがアジアを中心に引き取られることで、金市場の需給バランスは安定している。現物の買い引き合いの中には、一般個人だけでなく中央銀行も含まれているとみられることは、今や広く知られることになった。
もう一点加えるならば、中国やインドなど需要大国を含め新興国の経済発展の結果、一般の所得水準(可処分所得)が上がっていることもゴールド需要のすそ野を広げている。
2005年頃、米投資銀行ゴールドマン・サックスが「BRICs(ブリックス)」との標語を掲げ、新興国投資ブームを起こすことに成功した。その中でもインド、中国には投資マネーが集中的に流入し、経済は発展、それに伴い両国のゴールド需要も急拡大した。あれから20年近く経過し、新興国個人の所得水準はさらに伸びている。それが足元の、高値をいとわないゴールド買いにつながっている。もちろん国際情勢やそれぞれの国内経済に不透明要因も多いが、購買力が上がっていることがゴールド需要の背景にあるとみられる。今、ゴールド現物が西から東に移動している。ちなみにゴールド現物(金地金)の輸送には貨物機ではなく旅客機が使われるが、国際線搭乗の際に同じ機の貨物室にゴールド現物が搭載されていることがあるかもしれない。
今週の見通し:NY金2,070~2,110ドル、国内金価格9,875~10,175円を想定
今週は月初のイベント週となり、3月8日には2月の米雇用統計が控える。その前にADP全米民間雇用報告、雇用動態調査なども発表される。米経済を支える好調な個人消費の裏に雇用があり、動向が注目される。さらに3月19~20日の連邦公開市場委員会(FOMC)を控え、3月9日からFRB高官が発言を控えるブラックアウト期間入りすることから、今週は最後の発言機会となる。パウエルFRB議長の議会証言が3月6日に下院、7日に上院で予定されており、要注目だ。
週末3月1日のNY金の急伸を受け、国内金価格は一時10,072円と2023年12月4日に付けた史上最高値10,028円を突破している。これを受け週明け3月4日の店頭小売価格(税込み)も1万1,000円超と従来の最高値を更新している。
今週のNY金については、2023年12月4日の急伸の際に2,100円台前半で6時間ほど滞留し相応の取引をこなしていることから、一定の戻り売りがあるとみる。上値は予定されているイベントの結果によるが、予想レンジは2,070~2,110ドルを想定する。国内金価格は為替水準に変化なしとみて、高値更新を見込む9,875~10,175円を想定する。