債券市場に表れ始めた質の評価
9月1日付「【マクロ経済・投資環境2026年9月】金利市場のレジームチェンジ 国と企業による「資金争奪」の行方」では、国と企業の旺盛な資金需要を背景とする金利市場の変化を取り上げました。資源価格の上昇や政府債務への懸念による「悪い金利上昇」と、景気の堅調さや設備投資の拡大を映す「良い金利上昇」が重なり、金利は高止まりの様相です。今回は、債券市場に表れ始めた選別を手がかりに、株式市場にも共通するクオリティの重要性を考えます。
通常、金利上昇は住宅ローンや企業の借入コストを高め、住宅購入、設備投資、消費を抑えます。しかし、足元の米国経済は堅調さを保っています。低金利時代に固定された住宅ローンや大企業の強い財務基盤が、金利上昇の影響を和らげている面もあります。AI関連の設備投資需要、財政支出、資産価格の上昇による消費の下支えも、その背景にあります。
景気の底堅さは、金融当局の見通しにも表れています。9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)の経済見通し(SEP)では、実質GDP成長率のリスクが下振れ方向に傾いていると評価した参加者はゼロとなりました。こうした評価は、2008年の金融危機後の回復局面にあたる2010年4月以来です。景気見通しの底堅さに対する当局の自信を示唆しています。
長期金利が高いからといって、直ちに景気が減速するわけではありません。むしろ経済が高金利に耐えるほど、金融緩和の必要性は薄れ、実質金利も高止まりしやすくなります。ただし、借り換えが進めば利払い負担は徐々に増えます。高金利の影響は遅れて浸透するため、現在の景気の強さだけで判断することはできません。
BIS(国際決済銀行)の9月の四半期報告によると、信用スプレッドは全般に歴史的な低水準圏にとどまり、投資適格債の発行は増加しています。一方、解約や資産評価への圧力を受けてプライベートクレジットの案件が低迷するなか、レバレッジドローンとハイイールド債の発行も減速し始めています。資金調達の弱さが、より広い低信用力の領域に及び始めていると読み取れます。
また、大規模なAI投資を進めるクラウド・データセンター大手や半導体メーカーでは、信用リスクを取る対価を示すCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のスプレッドが上昇しています。他のS&P500構成企業では安定しており、市場全体の信用不安というより、巨額投資と債務拡大への選別的な警戒です。成長期待が強い分野でも、資金調達と投資回収を確認する必要があります。
高金利は、耐えられる資産や企業と、そうではないものの差を広げ得ます。限られた資産の奪い合いの中で、信用市場では、全体の安定の中でクオリティを意識する動きがみられはじめています。株式投資でも、同じ視点が重要になるのではないでしょうか。
株式市場でも有効なクオリティ、金利上昇の形による違い
金利上昇局面では、一般にバリュー株が有利といわれます。バリューファクターは、利益や純資産に対して株価が割安な銘柄に注目する投資の視点です。金利上昇は将来利益の現在価値を押し下げるため、成長期待に高い価格が付いた株式に比べ、現在の利益に対して割安な株式が相対的に評価されやすくなります。景気拡大に伴う金利上昇なら、金融や景気敏感業種の収益改善も追い風です。
出所:Bloomberg
一方、クオリティファクターは、企業の収益性、利益の安定性、財務の健全性を評価します。代表的な指標は、高い自己資本利益率(ROE)、利益変動の小ささ、低い財務レバレッジです。安定して利益を生み、過度な借入に頼らず成長を維持できる企業に着目する考え方です。
借入への依存が低ければ、金利上昇による利払い負担を抑えやすくなります。収益性が高く、安定したキャッシュフローを生む企業には、内部資金で投資を続ける余地もあります。今回のファクターパフォーマンスの分析でも、金利上昇局面では、バリューに加えてクオリティの有効性が確認されました。
出所:マネックス証券作成
イールドカーブの変化によって異なる強み
さらに、金利上昇局面を短期・長期金利の上がり方で分けてみます。長期金利の上昇幅が短期金利を上回り、長短金利差が広がるのがスティープ化です。反対に、短期金利の上昇幅が長期金利を上回り、長短金利差が縮まるのがフラット化です。
今回の分析では、バリューは概してスティープ化局面で有効、クオリティはスティープ・フラット両局面で有効という違いが得られました。
景気拡大への期待が長期金利を押し上げる局面では、景気敏感なバリュー株の利益改善が評価されやすくなります。一方、金融引き締めで短期金利が上がり、先々の成長鈍化が意識される局面では、利益の安定性や財務の強さが重視されやすいと考えられます。
財政不安による金利上昇もスティープ化を起こすため、カーブの形だけで判断はできません。ただ、金利の上昇幅に加え、その背景と上がり方を見ることは、投資スタイルを考えるうえで有用です。
景気の成熟も見据えた投資戦略
米政策金利、引き締めの効果を確認しながら追加対応を判断
米国では9月に政策金利が3.75~4.00%へ引き上げられ、市場では9月下旬にかけて、来年半ばまでにさらに3回程度の利上げを織り込む場面もありました。一方、足元では次の利上げを急がず、経済指標を見極める姿勢も示されています。
中立金利の推計には幅がありますが、政策金利がその上限付近に達したとの見方に立てば、今後は連続的に利上げを進めるというより、引き締めの効果を確認しながら追加対応を判断する段階といえます。
過去にも、景気が成熟し金融引き締めが進む段階では、短期金利の上昇に対して長期金利の上昇が抑えられ、カーブがフラット化してきました。今後もこの方向へ進むなら、利益の拡大だけでなく、その持続性を評価するクオリティへの注目が高まる可能性があります。
企業の収益力と財務基盤を一段と重視したい局面
経済は堅調であり、株式市場も企業利益の成長という追い風を受けられるでしょう。一方、高金利が続くほど、借入負担や設備投資の収益化を巡る企業間の差は広がり得ます。経済全体が高金利に耐えていても、すべての企業が同様に耐えられるわけではありません。
債券市場で表れ始めたクオリティ重視は、株式の選別にも通じる変化です。景気拡大を捉えるバリューの視点に、成熟段階を見据えたクオリティの視点を加える。高金利下で資産や投資スタイルの分散を図りながら、企業の収益力と財務基盤を一段と重視したい局面ではないでしょうか。
