FOMCからファンダメンタルズへ、金利を決める主役の交代

前回のコラム「【マクロ経済・投資環境2026年8月】高止まりする米金利と株式市場への期待の変化」では、米国の長期金利を巡るFOMC(米連邦公開市場委員会)への市場反応が変わりつつあることを取り上げました。

かつて長期金利の低下はFOMC前後に集中していましたが、近年は会合以外の日に金利が上昇する傾向が目立ちます。市場がFRB(米連邦準備制度理事会)の示唆を待つだけでなく、ファンダメンタルズを直接評価するようになった変化であり、ウォーシュ議長の下でさらに強まる可能性があります。

国と企業が限られた投資資金を競い合う「レジームチェンジ」

これまで長期金利は政策金利の見通しを中心に形成されてきました。しかし、足元では財政支出の拡大によって国の資金需要が強まる一方、企業もAI関連を中心に大規模な設備投資と資金調達を進めています。国と企業が同時に資金を求め、限られた投資資金を競い合う構造へ変わりつつあります。

【図表1】米企業の社債発行額
※2026年は8月までで2025年年間分に匹敵する規模。単位は百万ドル
出所:Bloomberg

金利形成の重心がFOMCからファンダメンタルズへ移るだけでなく、そのファンダメンタルズ自体にも構造変化が生じています。金融政策への期待を中心に金利が形成される局面から、旺盛な資金需要と、それを引き受ける投資家需要の均衡によって金利が決まる局面へのレジームチェンジです。

金利上昇にはインフレや財政不安という悪い面だけでなく、将来の成長を見込んだ投資需要を映す良い面もあります。足元の米長期金利上昇は、インフレ期待よりも実質金利の上昇によるところが大きく、旺盛な資金需要を反映した側面もあります。ただし、投資需要が強いことと、高い金利水準を経済が持続的に吸収できることは別問題です。

今後のシナリオを左右する3つのポイント

市場の吸収力:増加する債券発行を吸収できるか

第1は、増加する国債や社債の発行を、投資家需要が吸収できるかです。債券供給が増えても、MMFなどの待機資金や株式からの資金移動によって需要が立ち上がれば、金利は安定しやすくなります。反対に需要が追いつかなければ、一段の金利上昇を通じて株式や景気に負荷がかかります。

これまで米国では、AIへの期待を背景に株式、とりわけ大型グロース株へ資金が集中してきました。しかし、足元では相対的に割安なバリュー株にも資金が向かう兆しがみられます。これはグロース株の成長シナリオが崩れたというより、高金利のもとで投資家が現在の収益やキャッシュフロー、財務の健全性を重視し始めた動きと考えられます。

【図表2】米国株の騰落率―下半期はグロースからバリューへ
※上半期は1~6月、下半期は7~8月。左から下半期の騰落率が高い順
出所:Bloomberg

利回りが高まった債券も有力な選択肢です。現在、米国株の予想益回りと長期債利回りの差はほぼなくなっています。株式には将来の利益成長があるため単純には比較できませんが、利回り面で債券の相対的な魅力が高まっており、MMFなどの待機資金や株式に集中してきた資金が債券へ向かう余地を示しています。

景気が堅調なら、債券は利息収入を積み上げることができます。高金利によって景気が悪化した場合には、金利低下に伴う債券価格の上昇が株式下落への備えになります。今後は株式相場の方向だけでなく、グロース株、バリュー株、債券、現金の間で生じる資金配分の変化が注目されます。

【図表3】米国株の予想益回りと長期債利回りの差
出所:Bloomberg

企業の耐久力:金利上昇を利益成長で吸収できるか

第2は、企業が長期金利の上昇を利益成長で吸収できるかです。金利上昇は将来利益の現在価値を押し下げるだけでなく、借り換えや新規投資のコストも高めます。株価が上昇を続けるには、バリュエーションの拡大よりも、実際の利益成長による裏付けが一段と重要になります。

特に、高い成長期待が織り込まれたグロース株では、AI関連投資を売上高や利益に結びつけられるかが問われます。企業が高い資金調達コストを上回る収益を生み出せれば、投資拡大と高金利は両立します。反対に投資の収益化が遅れれば、借入負担や信用リスクへの警戒が強まり、株式から債券への資金移動を促す可能性があります。

バリュー株への広がりは、少数の大型グロース株に依存してきた相場の安定につながり得ます。こうした動きが一時的な物色の変化にとどまらず、利益成長を伴う持続的なローテーションになるかが焦点です。

経済の転換力:AI投資は生産性向上につながるか

第3は、より長い目線で、AI投資が経済全体の生産性向上とインフレ鈍化につながるかです。短期的には、AI投資は半導体やデータセンター、電力、人材への需要を増やし、資金需要や物価を押し上げます。需要を先に増やすという意味では、当初は金利上昇要因です。

しかし、その投資が企業の生産性を高めれば、より少ない労働やコストで生産を増やせるようになり、潜在成長率の上昇とインフレ圧力の緩和が期待できます。AI投資が需要を押し上げる段階から、供給力を高める段階へ移行できるかが、高金利と成長の両立を左右します。

【図表4】AI投資のインフレ効果―当初の賃金上昇から、その後の生産性向上へ
※AI投資は当初、人材需要を通じて名目賃金を押し上げ、単位労働コストの上昇要因となる。やがてAI活用が労働生産性を高め、その伸びが賃金上昇を上回れば、単位労働コストは抑制され、インフレの鈍化につながる
出所:マネックス証券作成

注意したいのは、実質金利がすでに米国経済の潜在成長率を上回っている可能性です。実質的な資金調達コストが経済の成長力より高い状態が続けば、設備投資や住宅購入、耐久財消費は次第に抑制されます。過去にも、実質金利が潜在成長率を上回った局面は、2000年前後や2008年金融危機前後の市場調整と重なりました。現在の成長投資が、将来の潜在成長率の上昇として結実することが必要です。

【図表5】米国の潜在成長率と10年実質金利の推移
※潜在成長率はHolston-Laubach-Williamsモデルを参照
出所:ニューヨーク連銀

3つの条件を見極め、分散投資で備える局面

増加する債券発行が円滑に吸収され、企業が利益成長を維持し、AI投資が生産性向上へつながれば、高金利と経済成長は両立し得ます。反対に、債券需要、企業利益、生産性のいずれも追いつかなければ、旺盛な資金需要から始まった「良い金利上昇」も、悪い金利上昇と相まって、株式と実体経済を圧迫する方向へ転じます。

図表6の通り、金利の上昇が経済の動揺につながってきたのも確かであり、リスクにも配慮が必要です。この3つの条件を確認しながら、資産や投資スタイルを分散して臨みたい局面です。

【図表6】金利上昇は株式市場の動揺につながる
出所:マネックス証券作成