家族が亡くなり、相続が発生した際、多くの方が直面する重要な手続きが「遺産分割」です。「遺産分割」とは、亡くなった方(被相続人)が遺した財産を、相続人の間で分ける手続きを指します。被相続人が遺言書を残している場合は、原則として、その内容に従って遺産を分けます。

しかし、遺言書がない場合や、遺言書で配分が指定されていない遺産がある場合、その遺産は一旦、相続人全員の「共有財産」となります。この共有状態を話し合いや裁判所の手続きで解消し、最終的に誰がどの財産を取得するのかを取り決めるのが「遺産分割」です。

本コラムでは財産の種類ごとに、どのような財産が遺産分割の対象となるのか、具体的な4つの分割方法とともに解説します。

財産別にみる遺産分割の可否と取り扱い

1. 預貯金債権(銀行預金など)

判例・通説では、金銭債権は相続発生と同時に法定相続分に応じて当然に分割されると考えられており、預貯金も遺産分割の対象外とされていました。しかし、平成28年に行われた最高裁の判例変更により、共同相続人が相続した預貯金債権は、「相続開始と同時に当然に分割されることはなく、遺産分割の対象となる」と判断されました。

これにより、遺産分割が完了するまで預貯金が引き出せなくなる不都合が生じたため、民法改正により「払戻し制度」が創設されました。現在では、遺産分割前であっても、各相続人が単独で、金融機関ごとに150万円を上限として払戻しを受けることが可能となっています。

2. 現金

現金は有体物として扱われ、不動産や動産と同様に遺産分割の対象となります。

3. 不動産・賃借権

被相続人が所有する土地や建物といった不動産は、遺産分割の対象となります。借地権や借家権などの賃借権は、契約で「死亡により終了する」といった特約がない限り、遺産分割の対象となります。

4. 株式・投資信託等

株式会社の株式は、1株ごとに相続人全員で「準共有(一つの権利を複数人で持つこと)」する状態となり、遺産分割の対象となります。 たとえ保有株数が多く、各相続人の相続分に応じてちょうど割り切れる場合であっても、金銭債権のように法律上当然に分割されることはありません。

例えば、2,000株の株式を2人の相続人が2分の1ずつ引き継ぐ場合、計算上は1,000株ずつですが、自動的に名義が分かれるわけではありません。あくまで「2,000株全体を2人で共有している」状態から、話し合いによって誰が何株取得するかを決める必要があります。

5. 生命保険金

生命保険金は、保険契約に基づき受取人に指定された者の「固有の権利」として発生するため、原則として遺産分割の対象外です。

受取人が特定の個人ではなく単に「相続人」と指定されている場合や、約款で「相続人に支払う」と規定されている場合でも、最高裁は「各相続人が法定相続分に応じて取得する固有の権利」としており、遺産分割の手続きには含まれません。

ただし、受取人が「被相続人本人」に指定されている場合は例外です。この場合、保険金請求権は被相続人の財産(遺産)に帰属するため、他の預貯金などと同様に遺産分割の対象となります。この点は、通常の指定がある場合と扱いが真逆になるため、注意が必要です。

6. 死亡退職金

一概に死亡退職金といっても、その法的性質は「賃金の後払い」から「遺族の生活保障」まで多岐にわたるため、事案に応じた個別判断が必要です。法律や就業規則等に支給対象者の規定がある場合は、受取人固有の権利となり、遺産分割の対象にはなりません。

明示的な規定がない場合でも、支給基準や「受給権者の範囲・順序が民法の相続規定と異なる(内縁の配偶者が含まれる等)」といった事情があれば、遺族固有の権利として遺産性が否定される傾向にあります。遺族給付についても同様で、生活保障が目的であれば原則として対象外です。

7. 遺産から生じた果実及び収益(家賃など)

相続開始から遺産分割までの間に、遺産である賃貸不動産から生じた家賃などの収益(法定果実)は、遺産そのものではなく「遺産とは別個の財産」とみなされます。最高裁は、各相続人が相続分に応じて「分割された単独債権」として確定的に取得し、後の遺産分割の影響を受けないと判示しているため、原則としては遺産分割の対象外です。

ただし、口座の管理状況などに応じて、個別に判断されます。例えば、家賃を管理するために新たに開設された専用口座に入金されている場合は、判例に従い、遺産分割とは別に清算します。一方、被相続人名義の預貯金口座にそのまま家賃が入金され続けているような場合は、その後に入金された賃料を含む預貯金債権全体を遺産分割の対象として取り扱うことも可能です。

8. 祭祀財産

系譜、仏壇などの祭具、お墓などの墳墓といった「祭祀財産」は、慣習や被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰する者が承継します。そのため、相続財産にはあたらず、遺産分割の対象外となります。

9. 葬儀費用・香典

通夜・告別式や火葬などの葬儀費用は、被相続人の債務ではなく「相続開始後に生じた債務」であるため、遺産分割の対象外です。喪主が負担すべきとするなどの見解がありますが、明確な法規定や判例はないため、当事者間で負担者を決める必要があります。ただし、相続人全員の合意があれば、遺産分割の際に相続財産から差し引き、併せて精算することが可能です。

また、香典は葬儀主宰者等に対する第三者からの「贈与」と考えられるため、遺産分割の対象にはなりません。葬儀費用を遺産分割で精算する合意をした場合は、葬儀費用から香典分を差し引いて計算するのが一般的な対応です。

遺産を分ける4つの「分割方法」

遺産の範囲を早期に確定させることは、遺産分割の早期解決のために非常に重要です。対象となる財産が確定したら、どのように分けるかを決定します。主な分割方法は以下の4つです。

1. 現物分割(げんぶつぶんかつ)

遺産を現物のままで物理的に分ける方法です。預貯金を分けたり、1つの土地を分割(分筆)したりして別々の土地として各相続人が取得する方法です。

2. 代償分割(だいしょうぶんかつ)

特定の相続人が不動産などの高額な遺産を取得し、他の相続人に対して自己資金で「代償金」を支払う方法です。自宅を長男が単独で相続し、次男に現金を支払うケースなどで使われます。不動産を残したい場合に有効ですが、代償金を払う資金力が必要です。

3. 換価分割(かんかぶんかつ)

遺産を第三者に売却して現金化し、その代金を相続人間で分ける方法です。不動産を物理的に分けられず、代償金を払う資金もない場合に用いられます。公平に分けやすいメリットがありますが、遺産そのものは手放すことになります。

4. 共有分割(きょうゆうぶんかつ)

遺産を複数の相続人の「共有名義」とする方法です。不動産などを共有状態にできますが、将来の売却や賃貸といった活用時に共有者全員の同意が必要となり、新たなトラブルの火種になりやすいため注意が必要です。

遺産分割を円滑に進めるためには、まず相続財産を漏れなく調査し、確定させることが重要な第一歩となります。また、遺産分割の合意がまとまった後にも、不動産の名義変更や金融機関での解約といった煩雑な手続きが多くあります。迅速に進めるため、事前に遺産について家族で話す機会を設けることをおすすめします。