世界各地で地政学リスクが高まる
中東情勢が混迷の度合いを強めています。
米国とイランの間で起きた武力衝突は、発生から半年が過ぎても停戦合意に至らず、ホルムズ海峡に続いてバブエルマンデブ海峡も封鎖されかねない状況です。原油価格の指標となるWTI先物価格は、4ヶ月ぶりに105ドル台に上昇しました。
世界のあらゆる国で物価が上昇し、長期金利も一段と高まっています。原材料価格が高止まりして企業の先行きや業績が脅かされています。
原油やナフサなどエネルギー資源は、日本の経済だけではなく、防衛・軍事にも直結しています。世界各地で地政学リスクが高まるにつれて、日本でも防衛力の強化や諸外国との同盟関係の強靭化がますます進められることになるでしょう。
日本政府、防衛装備品の移転三原則と運用指針を改正
日本政府の防衛力強化および防衛装備品に関する政策は、ここ2~3年で劇的に変わりました。予算配分上、防衛費をGDP比2%まで短期間に大幅に増額し、継戦能力を保つことを主眼としました。
中でも最も大きく変わったのが防衛装備品の海外への輸出解禁です。2026年4月、政府は防衛装備品の移転三原則と運用指針を改正しました。
これまでは防衛装備の完成品の輸出は「救難・輸送・警戒・監視・掃海」の5類型に限定されていました。この制約を撤廃し、現在では完成品・部品・技術・修理に関しては、厳格な審査・管理を前提に海外への移転が可能となっています(ただし紛争当事国への移転は禁止されており、重要な武器に関する案件は国会への通知が必要です)。
世界が注目する「もがみ型」フリゲート艦
この防衛装備移転三原則の改正を象徴するのがフリゲート艦です。
2026年4月、オーストラリア政府は三菱重工業(7011)が建造する「もがみ型」フリゲート艦3隻を契約しました。2029年に1番艦が引き渡される予定です。
艦体だけでなく、日本電気(以下、NEC)(6701)のソーナーや通信アンテナも日本から供給され、維持・整備、乗員教育、部品供給、現地生産、技術協力へとつながってゆく予定です。
三菱重工業、NECだけでなく、三菱電機(6503)、IHI(7013)、ジャパンエンジンコーポレーション(6016)など艦艇、レーダー、ソーナー、通信、推進システムを供給する企業にとって、国内の防衛予算にとどまらない新たな市場が開拓されることとなります。
「もがみ型」フリゲート艦は海上自衛隊が導入している新しい世代の多機能護衛艦です。基本的なスペックは、排水量3900トン、全長133メートル、幅16.3メートル、速力30ノット、乗員90人です。
装備はかなり充実しており、防衛省によれば、5インチ砲、対艦ミサイル、近接防空システム、垂直発射装置、対潜ソーナー、哨戒ヘリを搭載し、無人潜水機や無人水上艇、対機雷ソーナー、機雷敷設装置まで備えています。
従来の護衛艦よりコンパクトになっていますが、対水上・対潜・対空に加えて対機雷までを1隻で担うことができ、しかも従来の乗員数の半分で運用が可能という大幅な省人化が特徴です。
ホルムズ海峡やバブエルマンデブ海峡のような狭く、世界中の要衝(チョークポイント)となっている浅い海域での、潜水艦、対艦ミサイル、機雷、小型艇などあらゆる脅威を想定する必要があります。そのようなケースでも「もがみ型」フリゲート艦は複合的な安全保障能力を発揮することができます。
オーストラリア海軍が次期フリゲート艦として日本の「もがみ型」フリゲート艦を契約した際、日本は韓国、ドイツ、スペインとの受注競争に競り勝ちました。米海軍も艦艇数や建造能力の不足から、同盟国が建造した艦艇の調達を検討していると伝えられており、そこでも日本製フリゲート艦が有力な候補に挙がっていると聞きます。
艦艇1隻の建造には8,000社が関わるとされており、実現すれば海外市場に開かれた防衛装備品市場は、今後も大きく拡大すると見られます。
防衛力の強化、防衛装備品の関連銘柄3選
沖電気工業(6703)
旧電電ファミリーで情報通信機器を強みとしていたが、事業構造改革を行って領域を絞り込む。現在はATMやプリンタ分野の製造、交通・防災・金融など社会インフラを支えるシステムの構築に集中する。防衛・海洋分野も重点強化分野のひとつ。90年以上にわたって水中音響技術に取り組んでおり、海上自衛隊向けのソナーシステムでは設計から保守まで一貫して手がけている。豪州政府が契約した次期「もがみ」型フリゲート艦にも同社の曳航式パッシブソーナーが採用されている。
富士通(6702)
通信、コンピュータなどのITサービスで国内トップ企業。金融、流通、製造、官公庁など広範囲な領域で事業を展開している。社会インフラ企業といってもよい。世界一のスーパーコンピュータ「京」に続いて「富岳」も開発。量子コンピュータでも日本トップを走る。豪州向け「もがみ」型フリゲート艦のプロジェクトにも参加。防衛省向け指揮統制サービス、後方支援サービスをクラウドで提供する。AI・センシングに関する防衛装備品の設計、安全保障領域のサイバーセキュリティも担う。
日清紡ホールディングス(3105)
100年以上の歴史を持つ紡績会社の名門企業。2009年に持株会社となり多角化を進める。現在の売上高は、無線・通信が50%を占め、マイクロデバイス12%、ブレーキ12%、精密機器11%、祖業の繊維は7%となっている。防衛省向けの実績が豊富な日本無線と新日本無線をTOBで買収。防災・監視システム、船舶、自動車向けの無線・通信事業を拡大させている。社長直轄の研究開発体制を敷き、コア技術である無線通信にセンシングとAI、データサイエンスを融合して船舶の自動運航システムを開発中。
