4つの主要取引所を運営
シーエムイー・グループ[CME]は、イリノイ州シカゴに本社を置く世界有数のデリバティブ取引所運営会社。CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)、CBOT(シカゴ商品取引所)、NYMEX(ニューヨーク・マーカンタイル取引所)、COMEX(旧ニューヨーク商品取引所)の4つの主要取引所を運営し、グループ全体で年平均60億枚を超える取引を扱っています。取引所では、金利商品、株式、通貨、エネルギー、農産物、金属、天候、不動産…と、さまざまな資産クラスにわたる先物とオプション商品を幅広く扱っています。
【1】CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)
金利、株価指数、外国為替、農産物など、幅広い先物およびオプションを取り扱っています。世界最大の先物取引所であり、また世界で初めて金融先物取引を開発した取引所として知られます。Globexという電子取引システムによりほぼ24時間稼働しています。
【2】CBOT(シカゴ商品取引所)
現存する米国最古の取引所として知られます。設立は1848年で、安定的な穀物取引を目的に設立されました。現在では、大豆やトウモロコシなど穀物の先物取引に限らず、株価指数先物、債券先物、金利先物など金融デリバティブ商品も取り扱っています。
【3】NYMEX(ナイメックス:ニューヨーク・マーカンタイル取引所)
世界最大の商品・エネルギー先物の取引所として知られます。原油や石油、ガスなどのエネルギー、金や銀、プラチナ、パラジウムなどの金属が取引されています。「WTI原油先物」はナイメックスの代表的な商品です。
【4】COMEX(コメックス:旧ニューヨーク商品取引所)
金、銀、銅など金属製品に特化した取引所です。特に金先物が代表的です。
また、債券取引プラットフォームBrokerTecを介した現金およびレポ債券取引、FX電子仲介システムEBSを介したスポットおよびOTC FX取引も提供しています。さらにデリバティブ清算機関も運営しています。
農作物からあらゆる資産に領域を拡大
同社の始まりは1898年で、「バターと卵の取引所」として誕生しました。1919年にクリアリングハウス(清算機関)を設立してシカゴ・マーカンタイル取引所として改組。もともとは非営利法人でしたが、2000年に株式会社化され、2002年12月に株式を公開しました。その後は、合併と買収を通じて、世界有数のデリバティブ取引所としての地位を確立していきました。
まずは2007年に同地域の競合であるシカゴ商品取引所(CBOT)を買収。2008年には、石炭、原油、電力などの先物を扱うニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)とその傘下でアルミ・金銀銅の先物を扱うニューヨーク商品取引所(COMEX)を買収。2012年には冬小麦の主要取引場所であるカンザスシティ商品取引所を買収、そして2018年に世界最大級の国債および外国為替電子取引プラットフォームを運営するNEXグループを買収し、現金外国為替、債券取引にも業務を拡大しました。
こうした買収によって同社の取扱商品は、バターや卵から、金属、エネルギーとあらゆる資産に広がっていきました。現在では世界で最も多彩なデリバティブ取引商品を取り扱う取引所と評されています。この多彩な商品ラインナップは、巨大な流動性をもたらしており、取引量は年間平均60億枚を超えるまでに拡大してきました。取引の90%以上が電子先物・オプション取引システム「CME Globex(グローベックス)」を通じて行われています。ほぼ24時間アクセスでき、世界150ヶ国以上で利用されています。
取引量拡大で手数料収入増、2024年度業績は3年連続で最高業績更新
主な収益源は、取引手数料と決済手数料で、売上高の80%以上を構成しています。2024年度(売上高61.3億ドル)においては前年比9%増となる50億ドルが手数料収入として計上されました(残りは市場データの提供などによる収入)。
手数料収入の柱は、米国債先物やSOFR(担保付翌日物調達金利)先物、フェデラルファンド先物などの金利先物で、1日平均取引量の約半分を占めています。そしてこの手数料収入は、取引量に連動します。1日あたりの平均取引量(ADV)は過去10年間、年平均7%のペースで増加し、純利益は12%のペースで増加してきました。2024年度におけるADVは、2650万枚と前年から9%増加し、年間取引量は前年比10%の66億8500万件で過去最高を記録しました。
2024年度、ADVは全ての商品ラインで増加し過去最高を記録しました。柱となる金利先物は1370万枚で前年から10%増、3年連続で最高を更新しました。また株価指数は2%増の685万枚、為替は8%増の100万枚、農産物は13%増の171万、エネルギーは17%増の249万、金属は23%増の74万枚といずれも増加しました。
その結果、2024年度の売上高は前年比10%増の61億ドルで過去最高を更新しました。利益面ではコスト管理策も奏功し営業利益率は64.1%と2.5ポイント改善、営業利益は14%増の39億ドルとなりました。一時的利益と費用を調整した営業利益率は68.3%でした。非常に高利益率で、これは業界でも突出しています(ICE 39%、CBOE 29%)。
経済活動に不可欠な性質と新製品上場で取引量は増加を維持
2025年度も不確実性を背景に取引量は増加の見通しです。取引量は、「不確実性」が高まると増加する傾向があります。リスクを軽減しようとヘッジ活動が増加するからです。2024年度は、トランプ大統領の政策をめぐる不確実性、FRBによる金利政策の不確実性、また地政学的緊張が続いていることや天候の不確実性も高まったことなどから、金利商品やエネルギー、金属、農産物、外国為替の取引量が増加しました。
同社の決算発表資料によると、年間取引量は過去52年間のうち45年間で増加。しかも年平均13%増加していました。根本的にデリバティブはリスク管理と回避のための不可欠な手段であり、どんな経済状況下でも行われるからでしょう。農家は先物によって売買価格を固定し、銀行は金利の変化を管理し、航空会社は燃料費の変化を管理し、企業は為替を管理しコスト高騰を避けます。経済活動の重要な部分であることから今後も需要が絶えることはありません。
また、原資産の拡充や新製品の開発も取引量を押し上げています。近年注目されたところでは2017年のビットコイン先物や天候があります。デジタル資産取引へのニーズや地球温暖化による異常気象への対応ニーズの高まりを捉えたところです。仮想通貨関連は注目されており、2024年にはビットコイン・フライデー先物という1BTCの50分の1のサイズの毎週金曜日満期の先物を上場したほか、先日、3月17日にはソラナ先物が上場しました。
2025年度も、財政政策の不確実性と金融政策の不確実性によって金利の変動は大きくなる可能性が高いと思われ、取引量は高水準で推移すると考えます。実際、ADVの月次報告によると、2月は3310万枚(前年比12%増)、さらに3月には3930万に増加しています。
不況に強い構造と高収益性、安定したキャッシュフローと財務
業績は好調。営業利益率は業界でも突出しており、最低だった2021年度においても52%を維持しました。2024年度は64%と最高水準を更新。またフリーキャッシュフロー利益率も44%と業界中央値の2倍以上あります。取引所は規制が厳しく参入障壁が高いこと、また基本的にプラットフォームビジネスで低コストであることから、利益率が高い業界と言えますが、その中でも特に高いことは特筆に値します。実際、投資活動によるキャッシュフローは小さく、2024年度においては8300万ドルの支出で、これは営業キャッシュフローのわずか2%程度でした。2023年度は2100万ドルの収入。ここ数年で多かった2022年度においても営業キャッシュフローの16%でした。
財務も安定的で、S&PからAA-、Moody'sからAa3という世界最高レベルの信用格付けを受けています。同社では2012年から、業績連動型の配当を採用しており、年4回の四半期配当に加えて、1回の変動(特別)配当を出しています。特別配当を出すことで、フリーキャッシュフローの100%を株主に還元する形です。
配当と合わせて最大30億ドル分の自社株買いプログラムも発表されており、株主還元はかなり手厚いです。稼ぐ力の強さの表れと言えるでしょう。株価は高値を維持していますが、変動配当の存在によって配当利回りは4%程度あるのも魅力的です。好況の時も不況の時も手数料収入を得られる構造と、不確実性の高まりを味方にできる性質によって、長期にわたって耐久力がある「構造的競争優位性」、いわゆる「Moat(モート)」を有する企業として注目できると思います。