直近の日経平均は波乱の展開となりました。前回のコラムで関税を採り上げて以降の日経平均は一時5,000円近くの大暴落となり、2年半ぶりに31,000円を割り込む局面も発生しました。一日の値動きも激しいものとなり、極めてボラティリティの大きな推移となっています。狭い範囲で推移していたこれまでと打って変わった様相を呈しています。以前より先行きには慎重なスタンスを伝えていましたが、現実は予想以上の大波乱相場となった印象です。
今後は徐々にショック安的な動きは沈静化してくるでしょうが、振幅が大きいほど旧に復するには時間を要するものです。関税問題も90日のモラトリアム終了後は再びかく乱要因となるリスクもくすぶります。当面の株式相場はまだまだ「荒っぽい」展開が続くものと考えておくべきでしょう。
波乱相場の時期こそ、未来のテーマに目を向ける
株式相場が大荒れとなっている中、今回はそうした短期的なニュースフローとは無縁の新しいテクノロジーに注目してみましょう。今回テーマとして取り上げるのは、潜在注目度の高い「量子コンピュータ」です。
実はこのテーマは2021年4月に一度取り上げています。この時は「相場のテーマとして認識されるにはまだ至っていないというのが現状」とし、「技術的なブレイクスルーを頭では理解できても、それによって世の中がどう変わるかの具体的な想像ができないために、まだまだ株式市場にはピンと来ていない段階」と位置付けていました。
この時から4年が経過しました。まだ株式市場のテーマとして注目を浴びる状況には至っていませんが、この技術のリアリティは着実に高まっていると感じています。
そこで、量子コンピュータの現状をアップデートし、遠くない将来に株式市場で注目される局面に備えておきたいと思います。関税のニュースフローに振り回されている現状から、少し頭を冷やすきっかけになれば幸いです。
「量子コンピュータ」とは?今までのコンピュータとは何が違うのか?
まずは量子コンピュータのおさらいです。量子コンピュータは量子力学を応用したコンピュータで、これまでのコンピュータ(古典コンピュータ)が情報単位(ビット)一つ一つに「0」か「1」が割り当てられ、演算処理を入力毎に全て実行するというのに対し、量子コンピュータでは情報単位(量子ビット)に「0」か「1」を明確に割り当てることなく、一定の確率を認知した上で計算時にどちらかに確定して計算するというものです。これにより、古典コンピュータでは複雑過ぎて解にたどり着くまでにとてつもない時間と電力を要していた問題も、量子コンピュータではより効果的かつ現実的な時間で解くことができるとされています。
間違えてはいけないのは、量子コンピュータは処理速度が極めて速いというものではないということです。古典コンピュータが「ブルドーザー的に」全ての演算処理を行って解を導き出すのに対し、量子コンピュータは量子力学の原理を用いて計算ステップを大幅に減らして解を得るというものであり、その結果、計算に要する電力や時間を劇的に短縮できるというシロモノなのです。古典コンピュータの進化や性能強化ではなく、全く異なる思考プロセスにあるというところが量子コンピュータのキモと言えるでしょう。
実際、2019年に米アルファベット(グーグル)[GOOGL]は当時の最先端スパコンで1万年を要する計算を量子コンピュータが3分20秒で実行できたとし、世界で量子コンピュータのすごさを初めて実験で証明しました。いかに革新的な可能性を秘めているかの端的な実例と言えるでしょう。その後、世界中の研究機関、企業においてこれらの研究が推進され、続々と研究成果が発表されています。
実用化はまだ先だが、今から動向を注視しておきたい
とはいえ、量子コンピュータの発展はまだ途上です、現在は量子ゲートと量子アニーリングという2つの方式が開発提唱されていますが、どちらも一長一短があり、量子コンピュータの実用化に向けてはまだ試行錯誤の域を超えていないように思えます。
そのため、今後どのような形で社会に普及浸透・貢献していくかの予測がつかないという状況は前回コラムを執筆した4年前と変わりがありません。具体的なイメージが出てこない以上、株式市場においてもテーマとして取り沙汰される可能性は大きくないというのが現実でしょう。それがどれだけ素晴らしい技術であっても、ビジネスとして成立しなければ資本市場で資金を集めることは難しいからです。
しかし、テーマを先取りするという観点では、注目度の低いうちに銘柄やニュースへの注視を続けておくことも重要です。今後の技術動向によっては彗星のごとく有力なベンチャー企業が出現する可能性もありますが、現時点においては、おそらくこれらの基礎技術の蓄積を進めているテクノロジーの巨人とも言える企業群に注しておきたいところです。ここではそのような企業群を紹介しておきましょう。
現時点で注目したい「テクノロジーの巨人」たち
まず、量子コンピュータの研究を積極的に進めている企業としては、アイビーエム[IBM]、アルファベット(グーグル)[GOOGL]、マイクロソフト[MSFT]、インテル[INTC]、アマゾン・ドットコム[AMZN]、Atom Computing、Dウェーブ クオンタム[QBTS]などが挙げられます。いずれもIT界の巨人と言える企業群であり、量子コンピュータの世界においても他社に一歩先んじたポジションにあると考えます。
日本企業においては、フィックスターズ(3687)、NTTデータグループ(9613)、日本電気(NEC)(6701)、アルバック(6728)などの上場企業に加え、Blueqat、QunaSys、Jijといったスタートアップ/ベンチャーに出資/パートナーシップ関係にあるKDDI(9433)、長瀬産業(8012)、三菱ケミカルグループ(4188)、豊田通商(8015)、HPCシステムズ(6597)、テラスカイ(3915)、シンデン・ハイテックス(3131)、三井化学(4183)、非上場企業のJSR、プロテリアルなどの企業群が挙げられるのではないでしょうか。
また、前述の2つの方式の弱点を緩和できる第3の方式として期待される中性原子(冷却原子)方式について、2024年に自然科学研究機構分子科学研究所(分子研)を中心に、富士通(6702)、浜松ホトニクス(6965)、日立製作所(6501)、NECなど10社が連携し、「事業化検討プラットフォーム」を設立するといった動きが出ていることも覚えておきたいことです。
量子コンピュータが株式市場で本格的に注目されるのはまだ先でしょうが、これらの銘柄やその他新たに挑戦を始める企業などには注意を払って見ておきたいところです。