相互関税に関するサプライズで、S&P500も9.52%上昇、ナスダック100は12%の急騰

先週(4月7日週)の米国株式市場は、数日間にわたる金融危機への恐怖から一転し、記録的な株価上昇に沸きました。背景にあったのは、先週4月9日(水)にトランプ米大統領が相互関税の大部分を90日間限定で停止したというサプライズです。トランプ政権は、中国以外の貿易相手国に対する関税を突然一律10%に引き下げ、90日間の猶予期間を設ける方針を発表しました。

一方、中国に対しては、依然として145%の高関税を維持すると発表しました。これを受けこの日、ナスダック100は12%の急騰を記録し、史上2番目の上昇率となりました。S&P500も9.52%上昇し、2008年10月のリーマン・ショック以来で最大の上昇率となりました。

翌日4月10日(木)の米国株式市場では利益確定の動きが見られましたが、11日(金)にはボストン連銀のスーザン・コリンズ総裁がファイナンシャル・タイムズ紙で「必要があればFRB(米連邦準備制度理事会)は介入のための手段を行使する準備が完全に整っている」と発言し、市場に安堵感を与え、株価は再び上昇しました。

時価総額ベースでも米国上場株式V字反転、「強気相場」復帰の兆し

その結果、先週1週間でS&P500は5.7%、ナスダック100は7.43%の上昇となりました。主要株価指数もすべて上昇し、2週続いた下落に歯止めがかかりました。さらに、10年債の入札では堅調な需要が確認され、「国債すら売れないのでは」との懸念が後退しました。

時価総額ベースでは、4月2日から8日までの6営業日で米国上場株式は7.7兆ドルを失いましたが、その後わずか1日で5.1兆ドルを取り戻すというV字反転を見せました。

トランプ米大統領は自身のSNS「Truth Social」で、「近い将来、中国が米国や他国を搾取し続ける時代が終わったことを理解するようになると、私は信じている」と投稿しています。

トランプ米大統領による相互関税転換の発表前、S&P500先物は弱気相場入りを示唆する水準にまで沈んでいました。しかし、発表を契機に直近安値から10%近い上昇圏に回復し、明確な反騰シグナルが点灯した格好となりました。

Business As Usual(従来通り)─不確実性の渦中、米銀決算が始動

関税の衝撃が残る中、4月第2週の米国株式市場は力強い反発で締めくくられました。米国では先週後半から第2四半期の決算発表が本格化しました。先週4月11日(金)の焦点は、銀行の決算発表でした。とはいえ、関税問題が市場心理を大きく支配していたことに変わりはありません。

ジェイピー・モルガン・チェース[JPM]、ウェルズ・ファーゴ[WFC]、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン[BK]、モルガン・スタンレー[MS]といった大手金融機関の第1四半期決算は、いずれも市場予想を上回る好調な内容となりました。ただし、銀行経営者たちは今後の経済見通しに自信を持ちきれていない様子です。

モルガン・スタンレーのテッド・ピックCEOは、決算説明会で「貿易政策がどこに落ち着くのか、その影響が経済にどう現れるのか、私たちにも分からないのが正直なところだ」と発言しました。ブラックロックのラリー・フィンクCEOも「先週発表された関税政策は、私の金融キャリア49年の中でも想像を超える内容だった。不確実性がすべての顧客との会話を支配している」と述べています。

当初は決算を受けて銀行株が売られる場面もありましたが、4月11日の午後にかけて市場全体が上昇へと転じ、それにつられる形で銀行株も反発しました。

材料株主導の上昇、中国の報復関税は重しに

注目すべき点として、中国が米国製品に対する関税を84%から125%へと引き上げたことが挙げられます。米中間の貿易戦争は一段と激しさを増していますが、株式市場は底堅さを維持しました。このことにより、最終的に両国が何らかの合意に達することができるという期待感が市場にあるのではと考えています。

一方で、米ミシガン大学が発表した消費者信頼感指数(速報値)は予想を下回り、インフレ期待は3月の5.0%から6.7%へと急上昇し、1981年以来の高水準となりました。ミシガン大学のジョアン・スー氏は「2024年12月からこれまでに消費者心理は30%以上悪化しており、その背景には通年にわたる貿易摩擦への不安がある」と指摘しています。

債券市場では、株価の上昇とは裏腹に「キャッシュ確保のための売却」が広がり、長期金利が急上昇しました。TCWグループのブライアン・ウェーレンCIOは「一部の投資家は現金を確保するために債券資産を売らざるを得なかった」と語っています。

外交と市場のバランス、「妥協」の90日間が始まる

現在、関税引き上げ対象国の多くは米国との間で90日間の個別交渉に入り、貿易赤字の是正や公平な競争条件の整備、関税・非関税障壁の撤廃に向けた協議が行われています。米中間の交渉についても、トランプ米大統領は「メンツを潰さずに妥協点を探る」姿勢を取っていると見られています。

株式市場の声を無視しているように見えるトランプ米大統領ですが、今回の下落局面では「トランプ・プット」──S&P500では5,000ポイント付近で下値支援が入るとの見方──が確認されました。トランプ氏は大きな政治的リスクを背負う一方で、「株価は自らの評価指標」であることを十分に理解しているようです。現時点では、リーマン・ショック時のような金融システム全体を脅かすようなリスクは確認されていません。

トランプ大統領の柔軟姿勢、市場が注目するトランプ政権の「一時停止」

今後解決しなければならない米中間の摩擦は存在するものの、先週からはっきりしてきた重要な点は、トランプ米大統領が世論の懸念に全く耳を貸さない人物ではないという事実です。必要に応じて政策の修正を行う柔軟性を持っているという姿勢が明確になったのです。

先週執筆した記事でも述べましたが、仮にiPhoneの製造をすべてアメリカ国内で行うようになれば、その価格は大幅に上昇し、「高すぎて買えないiPhone」が社会問題化するでしょう。そうなれば、国内消費者の不満が噴出することになり、それをトランプ大統領が許容するとは到底思えません。

もちろん、今回の関税問題がこれで終わるわけではありません。現在、議会は関税に関する決定権を大統領から取り戻そうと動いており、今後の展開は不透明です。再び「ネガティブサプライズ」が市場を襲う可能性もゼロではありません。

しかし、世界中を驚かせ、株式市場に暴落を引き起こした4月2日の関税発表は、あまりにも過激な内容でした。今後、それを上回るような悪材料が出る可能性は低いと私はみています。

株式市場はすでに「最悪シナリオ」を織り込んだか?

現在も中国との交渉は継続中ですが、株式市場は常に「未来」を先読みして動きます。事実、株価はすでに2割超の調整を経験しており、かなりの悲観的シナリオを織り込んでいると考えられます。とは言ってもリセッションリスクが完全に消えたわけではありません。

しかし、何をおいても、トランプ米大統領が景気後退を引き起こすわけにはいかない立場であることは明らかです。そして今回、彼の関税政策に一定の柔軟性があることが確認された点は、マーケットにとって大きな安心材料となるかもしれません。

マグニフィセント7は再び市場の主役となるか?

今回の関税騒動の中で、これまで米国株式市場を牽引してきた「マグニフィセント(※7)」と呼ばれるグローバル・テクノロジー企業群は、軒並み大きく売られました。多くの銘柄は、すでに「これ以上は下がりようがない」ほどの水準まで調整し、市場全体の下げをも牽引する格好となりました。

しかし私は、米国株が再び上昇トレンドを取り戻す局面では、そのけん引役もまたマグニフィセント7を中心とするテクノロジー銘柄になると考えています。なぜマグニフィセント7が再浮上すると考えるのか?その理由は非常にシンプルです。

トランプ米大統領にとって、アップル[AAPL]やエヌビディア[NVDA]、テスラ[TSLA]といった「アメリカを代表するグローバル企業」を軽視するという選択肢はないからです。こうした企業は、単なる民間企業ではなく、「米国の競争力」そのものであり、同時に「株式市場の象徴」でもあります。2026年の中間選挙を控え、景気後退を絶対に避けたいトランプ政権にとって、株価の反発と企業の安定成長は不可欠な前提なのです。

(※)マグニフィセント7:アップル[AAPL]、マイクロソフト[MSFT]、アルファベット[GOOGL]、アマゾン・ドットコム[AMZN]、メタ・プラットフォームズ[META]、エヌビディア[NVDA]、テスラ[TSLA