先週(4月14日週)の米国株市場は4日間の短縮取引の中、大きな波乱に見舞われて、S&P500は週間で1.5%下落、ナスダック100は2.3%下落と軟調に推移しました。

先週もマーケットを支配したのは、地政学的・政策的不確実性とFRB(米連邦準備制度理事会)による金融政策転換への失望、そして、ここからの業績への懸念です。

利下げ期待に冷や水、パウエルFRB議長が「市場の味方」ではないと宣言

先週のマーケットで最大のインパクトを与えたのは、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の発言でしょう。

パウエル議長は、「株価下落や債券利回りの上昇という市場変動が、直ちに政策変更を促すものではない」と明言。金融市場が期待していた「パウエル・プット」(市場が下落すれば、パウエル議長が株価を支えるような政策や発言を行う、と投資家が期待する現象のこと)は明確に否定されました。

パウエル議長は、トランプ政権による大規模関税がインフレ抑制の進捗を遅らせており、2%の物価目標に対する「より確かな自信」が得られるまでは利下げは困難だと指摘しました。また、「市場は不確実性の高い状況に相応しい動きをしている」とし、FRBの使命は株価を守ることではなく、雇用の最大化と物価の安定であることを改めて強調したのです。

結果として、利下げ期待が後退し、長期金利は上昇、IT銘柄を中心に売り圧力が強まりました。

国家安全保障が焦点に、エヌビディア[NVDA]のH20輸出規制がテック株に打撃

先週、市場の投資家心理をさらに冷やしたのは、アメリカ政府による中国への半導体輸出規制の強化でした。

というのは、エヌビディア[NVDA]の「H20チップ」に関する発表についてです。このH20チップは、AI(人工知能)向けに設計された非常に高性能な半導体で、中国市場専用に性能を少し落として開発されたものです。しかし、それでも十分に強力なチップであり、多数をまとめて使えば、世界有数のスーパーコンピュータ並みの性能を発揮する可能性があるとされています。

アメリカの政府機関、特にエネルギー省では、こうしたスーパーコンピュータを使って核兵器のシミュレーションや軍事演習の予測などを行っています。同じような性能をもし中国が手に入れると、アメリカの国家安全保障にとっては大きな脅威になると懸念されているのです。

そのためアメリカ商務省は、このH20チップを中国に販売するには政府の特別な許可(ライセンス)が必要とする規制を設けました。この結果、エヌビディアが第1四半期中に約55億ドル(約7,850億円)の費用を計上すると発表したことを受け、同社の株価や半導体セクター全体に売りが広がりました。同様にアドバンスト・マイクロ・デバイシズ[AMD]も、中国市場向けのMI308チップ販売で不透明感が強まっており、両社の株価は週間で8.5%、 6.3%前後下落しました。

これを受けて、iシェアーズ・セミコンダクターETF (SOXX)は週間で3.3%下落。テック主導で成長をけん引してきた米国株にとって、収益の地政学的リスクが顕在化したことは重く、投資家の間ではリスク回避姿勢が一段と強まりました。

決算シーズン本格化、ユナイテッドヘルス・グループ[UNH]の株価は25年ぶりの下げ幅に

四半期決算シーズンも本格化し始めましたが、内容はさまざまです。先週、注目を集めたユナイテッドヘルス・グループ[UNH]は、バイデン政権下でのメディケア給付削減の影響が想定以上に大きく、ガイダンスを下方修正。株価は1日で22%下落し、25年ぶりの下げ幅となりました。

一方、イーライリリー・アンド・カンパニー[LLY]はGLP-1経口薬「orforglipron」の第3相試験で好結果を発表し、同社株は14%上昇。注射薬Ozempicと同等の効果を経口投与で得られることから、GLP-1市場の拡大期待を加速させました。結果的に、同じヘルスケアセクター内でも強弱が鮮明に分かれる形となりました。ただし、全体的には「コンセンサスとの乖離」が目立ち始めており、市場の予想修正が必要なフェーズに差し掛かっていると判断しています。

過大な期待が残るEPSコンセンサス、下方修正を余儀なくされる可能性も

現在、S&P500構成企業の2025年通期EPS(1株当たり利益)コンセンサスは、前年比7.26%の伸びを見込んでいます。また、第2四半期(6月期)についても、前期比5.42%の増益が予想されています。2025年初の成長見通しは11%の伸びでしたが、これまで下方修正が起きています。

しかし、これらの数字はまだ足元の不確実性を十分に織り込んでいるとは言えません。関税によるコスト増加、個人消費や企業の設備投資の減速など複数の逆風が、企業収益にじわじわと影響を及ぼし始めています。今後、企業側による業績ガイダンスの見直しが本格化するにつれ、EPSコンセンサスは一段の下方修正を余儀なくされる可能性が高いとみています。

ホワイトハウスは現在、75ヶ国以上との貿易交渉を進めているとしていますが、企業経営者にとっては依然として「先が見えないトンネル」の中にあるのが現実です。政策の方向性が不透明な中では、企業も慎重姿勢を崩せず、ガイダンスの提示そのものが困難な状況です。

こうした環境を踏まえると、今回の株価調整局面については、最悪期はひとまず通過した可能性はあるものの、当面は企業決算やガイダンスに一喜一憂する展開が続くでしょう。市場は下値を意識しながら、決算を材料に短期的に上下動を繰り返す「レンジ相場」に入ると考えられます。

テスラ[TSLA]などの決算発表に注目、現在の株価水準は「維持可能」か「調整局面入り」か?

今週から決算発表は正念場となります。今週は4月22日のテスラ[TSLA]や4月24日のアルファベット[GOOGL]をはじめ、S&P500の時価総額の22%に相当する企業が決算を発表します。

注目は、各社のガイダンスが現在のマクロ環境─関税、インフレ、需要鈍化─をどこまで織り込んでいるかです。これにより、投資家が現在の株価水準を「維持可能」と見るか、それとも「調整局面入り」と見るかが分かれてくることになります。