強まる円の「買われ過ぎ」懸念

ヘッジファンドの取引を反映するCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、4月15日時点で買い越し(米ドル売り越し)が17万枚となり過去最高を大きく更新した(図表1参照)。低金利の円は、2024年までは買い越しが5万枚以上に拡大することも少なかった。それを考えると、足下は異例の大幅な買い越しで、「買われ過ぎ」懸念もかなり強くなっているようだ。

【図表1】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2005年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

足下とは逆に円の売り越しが過去最高規模の18万枚まで拡大したのは2024年7月のことだった。この円「売られ過ぎ」が逆流する中で、米ドル/円は161円から1ヶ月もしないうちに141円まで約20円も大暴落するところとなった(図表2参照)。こうした記憶もあることから、今度は円「買われ過ぎ」の反動で急激な米ドル高・円安が起こることへの警戒もあるのではないか。

【図表2】CFTC統計の投機筋の円ポジションと米ドル/円(2024年5月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

2024年「売られ過ぎ」逆流が円急騰をもたらした2つの理由

2024年7月からの円「売られ過ぎ」反動が急激なものになった主な理由は2つあったようだ。

1つは円「売られ過ぎ」逆流の最初のきっかけが日本の通貨当局による米ドル売り・円買い介入だったということ。当時為替介入が行われると1日で5円程度もの米ドル/円急落が起こるのが基本だったため、為替介入をきっかけに急激に米ドル安・円高へ戻すところとなった。

もう1つの重要なポイントは、損益分岐点との関係だっただろう。米ドル買い・円売りポジションの手仕舞いも、それが含み益の確定の段階では焦る必要はないだろう。ただ保有している米ドル買い・円売りポジションが含み損に転落し、その損失が拡大する懸念が浮上すると、少しでも米ドルが高いうちに売ろうとすることで、米ドル売り・円買いが急拡大する可能性が高まる。

ヘッジファンドの場合、過去半年間の平均値である120日MA(移動平均線)などが売買の転換点、損益分岐点の目安になっていると見られている。120日MAを完全に米ドル/円が割り込んできたのが2024年7月下旬だったが、そこから米ドル安・円高が急加速したのは、まさに損失拡大回避のために米ドル買い・円売りが急拡大したと考えると辻褄が合うだろう(図表3参照)。

【図表3】米ドル/円と120日MA(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

円買いポジション手仕舞いは150円超えないと加速しない?

以上、2024年7月に円「売られ過ぎ」が逆流する中で急激な米ドル安・円高が起こった理由について見てきた。

足下はそれとは逆に円「買われ過ぎ」懸念が強くなっている。米ドル安・円高が続く中で、投機筋も米ドル売り・円買いが続いた結果と言えそうだが、ではこの行き過ぎたポジションの逆流で、今度は急激な米ドル高・円安が起こるだろうか(図表4参照)。

【図表4】CFTC統計の投機筋の円ポジションと米ドル/円(2025年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

行き過ぎたポジションの逆流が急激な相場変動をもたらす大きな鍵は、損益分岐点との関係だろう。行き過ぎたポジションの場合でも、それが含み益の状態ならポジションの手仕舞いは余裕をもって行われる可能性が高い。ポジションの手仕舞いを急ぐ必要が出てくるのは損益分岐点をブレークして、損失拡大を回避する必要が出てきた場合だ。

その損益分岐点、120日MAを目安にするなら、それは足下で152円程度だ。以上からすると、急激に150円を大きく上回る米ドル高・円安の可能性が出てこない限り、米ドル買い・円売りポジションの手仕舞いは緩やかなものにとどまるため、急激な米ドル高・円安を後押しすることにはならないのではないか。