デューク・エナジー[DUK]は、エネルギー事業を展開する持株会社です。南東部と中西部に広がる6州(インディアナ州、オハイオ州、ケンタッキー州、フロリダ州、ノースカロライナ州とサウスカロライナ州)で約860万の顧客に電力を供給するほか、ガスも170万の顧客に供給しています。電力会社として米国最大の売上高、公益事業会社として時価総額で米国第3位を誇ります。事業は電力・インフラ(EU&I)とガス・インフラ(GU&I)の2つのセグメントで展開しています。なお、商業用再生可能エネルギーは非継続事業として報告されています。

好調な経済エリアでの事業展開

主力は電力・インフラ事業で、2024年度売上の92%を構成しました。電力・インフラ事業では、発電、送電、配電、販売を通じて約860万の顧客にサービスを提供しています。同社が電力を供給する地域は、米南東部~中西部の6州(ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、フロリダ州、オハイオ州、ケンタッキー州、インディアナ州)で、オハイオ州を除いては、サービス地域内では唯一の電力供給業者となっています。

S&P Global Market Intelligenceによる管轄区域の規制環境評価(「Aa1」から「Ba3」)では、公益事業に有利か、少なくとも中立的と評価されています(フロリダ州「Aa3」、ノースカロライナ州「A1」、サウスカロライナ州「A3」、インディアナ州「A1」、ケンタッキー州「A1」、オハイオ州「A3」)。公益企業に投資を考える時の参考にするといいかと思います。

2024年の発電容量は約55GW(55,139MW)でした。同社ではオール・オブ・アバブ発電戦略を実行しており、電源構成は多様で、天然ガス・石油が35%、原子力が28%、石炭が14%、水力・太陽光が2%、買電が22%でした。

近年は、クリーンエネルギー発電を目指し、天然ガス、原子力、また太陽光発電を拡充しています。2050年までにネットゼロ(二酸化炭素など温室効果ガスの排出量から森林吸収量などを差し引いてゼロにすること)を目指しており、2030年までにカロライナ州の石炭火力発電所をすべて廃止する予定です。

設備投資拡大:料金設定活動も順調

公益事業会社が成長するための主な原動力は、人口増加や経済成長による需要増と、規制当局から得られる料金の引き上げの2つです。特に料金の引き上げは公益会社が成長を続けるための最も大きな原動力となっています。

米国では、公益事業会社の多くは民間企業であるため、料金設定は通常、州の規制機関を通じて行われます。申請して承認を得ることをレートケース活動と呼びます。公共料金の計算方法は複雑ですが、単純化すると、施設の資産価値(レートベース)に一定の利益を確保する算定レート(ROEなどが元になる)を掛け、燃料費や特別のコストをプラスして設定されます。施設の資産価値が上がるほどに、料金が上がることになります。

例えば、同社が最近承認を受けたインディアナ州のレートケースでは、9.75%のROEを得ることが承認されました(Allowed ROE)。これは、プロジェクトに100ドルの資本が必要な場合、同社は9.75ドルを得られるということになります。またインフレなどの影響で必要資本が100ドルから120ドルに上がった場合には、規制当局から承認を得ることで、得られる資本も増えます。設備のアップグレードは公益企業にとって重要な運営戦略ということになります。

2024年度にはカロライナ州で2ギガワット超の天然ガス発電の建設が承認され、すでに建設が開始されています。また、すでに1,500MWの太陽光発電が稼働するフロリダ州で300MWが追加されたほか、カロライナ州とインディアナ州で次のガス発電所の建設許可を申請しています。

こうした構造から公益事業会社は、投資を拡大し資産価値を上げ続けています。同社も発電・配電システムを強化するための投資によってレートケースを推進しています。過去3年間で同社は9件のレートケースが承認され、現在1件が承認待ちとなっています。投資は、スマートメーターや、暴風雨耐性、地中化などの電力グリッドの近代化、クリーンエネルギーへの移行に対応する新しい再生可能発電の導入に向けた投資、というようにかなりテーマが充実しており、設備投資は長期にわたるものとなります。同社においては、今後10年間で、規制対象事業に約1,900億ドル~2,000億ドルの資本を投入する計画です。

AI市場の成長とオンショアリング

また最近は、電力を大量に消費するデータセンター投資の拡大や製造業のオンショアリング(国内回帰)の動きが電力需要の見通しを高めています。ゴールドマン・サックス[GS]は、データセンターの電力需要は、2023年から2030年にかけて年平均成長率15%で増加し、米国の電力の1割をデータセンターが消費していると予想しています。

また、製造業のオンショアリングも電力需要を高める要因です。例えばノースカロライナ州のトヨタ電池製造工場やインディアナ州の63億ドルのステランティス/サムスン電池製造工場などです。これらによって同社の電力負荷は、2024年から2028年の間に1万~1万8000ギガワット時(GWh)増加すると予想されています。

このように、人口増加(特にカロライナとフロリダ)と経済活動(特にカロライナ)により、同社の年間電力負荷増加率は、2025年と2026年は1.5~2%、その後2027年から2029年の間に増加率は3~4%上がると予想されています。これを牽引するのはカロライナです。カロライナはアマゾン・ドットコム[AMZN]、アルファベット(グーグル)[GOOGL]、マイクロソフト[MSFT]と炭素排出ゼロのエネルギー発電投資のための新たな電力契約条件を策定するクリーンエネルギー契約を締結するなど経済開発が活発で、カロライナの負荷増加率は2%から4~5%に上がるとみられています。

こうした電力需要の見通しを踏まえ、同社は中期設備投資計画(2024~2029年)を前回から12%引き上げ、830億ドルとしました。この設備投資計画の上方修正に伴い、収益ベースとなる資本価値の年間成長率も7.7%と前回から0.5ポイント引き上げられました。

堅調な業績と明るい見通し、投資適格を付与されたBS、配当還元の堅実性を評価

業績は堅調。データセンターの拡大、製造業の国内回帰を背景に拡大する電力需要を享受していることが映し出されている印象です。今後についても、設備投資計画が引き上げられレートケース活動と認可取得も順調で、パイプラインは充実度が増していることを考えると、業績は堅調に推移することが期待できます。

収益のベースとなるレートベースが拡大し、料金が上がると利益が伸びることから、経済活動が活発な区域で事業を展開する同社は堅調に成長し続けています。実際、過去20年間、コロナによるパンデミックで経済が停止した2020年度を除いては一貫して成長を続けてきました。20年間における年間平均成長率は2%ですが、この3年間においては7%まで勢いが増しています。これはクラウドやAIの成長に伴ってデータセンター市場が拡大し、電力需要が拡大してきたことが反映されているとみられます。

電力販売事業による堅実な収益増によって営業キャッシュフローは長年プラスで推移しています。一方、毎年営業キャッシュフローを超える設備投資を行うことから、通常フリーキャッシュフローはマイナスで推移しています。設備投資は借り入れも利用して行っており、純有利子負債は2024年12月末時点で、840億ドルで自己資本の1.7倍となっています。

負債レベルについてはFFO負債倍率が指標に使われています。FFOはFunds From Operationsの略で、運転資本増減調整前の営業キャッシュフローのことです。FFO負債倍率は、負債をFFOでどれくらい賄えるかを意味します。同社のFFO負債倍率は13.9%で、公益事業会社にとって一般的に15%で強いと評価されることから見て、財務リスクに問題はないと見てよいでしょう。同社では2025年末までのFFO負債倍率を14%とし、今後4年間で14%超を維持することを目標としています。この14%という数字は、S&Pの格下げ基準を2ポイント、Moody'sの格下げ基準を1ポイント上回ります。安全な水準が維持されており、同社はS&PからBBB+、Moody'sからBaa2の信用格付けを受けています。

また、設備投資は借入に加えて株式発行によっても資金を調達しているので、発行済み株式数は増加傾向にあります。この20年間において2倍以上に増えました。そのため、1株当たりの利益(EPS)の成長率が純利益成長率を大きく上回るような効果はありません。とはいえ、同社は現在から2029年まで、年間EPS成長率を5~7%と予測しています。そしてこのEPS成長に沿った配当を行う方針としています。

【図表1】デューク・エナジー[DUK]年間配当推移
出所:Bloombergより筆者作成(1990年~2024年)
【図表2】デューク・エナジー[DUK]とS&P500の株価推移比
出所:Bloombergより筆者作成 ※デューク・エナジー[DUK]株価は1980年7月31日を1とした数値