先週(3月3日週)の動き:NY金は自律反発し2.900ドル台前半で滞留、国内金価格は円急伸の影響で週末にかけて上げ幅失う
先週(3月3日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)週足は反発となった。NY金は前週(2月24日週)1週間で3.55%もの大幅安となったが、ファンドによる手じまい売りが一定の下落モメンタムを帯びたことから(アルゴリズムの)プログラム売りが膨らんだものだった。
先週(3月3日週)は、その反動とも言える自律反発が想定できたが、まさに週明け3月3日には前週末比52.60ドル1.85%の反発となった。その後5日まで3営業日続伸で計77.50ドル2.72%と2,950ドルに接近する勢いを見せた。週末にかけて、さすがに戻り売りが優勢となり小幅に続落し7日の終値は2,914.10ドルとなった。週足は前週末比65.60ドル2.3%の反発となった。取引レンジは2,848.50~2,941.30ドルと相変わらず上下(75ドル)に荒い展開となった。
一方、国内金価格は後述するように米ドル/円相場が週末に掛けて急落(円急伸)したことから、週前半の上げ幅を後半にすべて失うことになった。大阪取引所の金先物価格(JPX金)の3月7日の終値は1万3906円と2週連続で1万4000円割れとなった。週足は前週末比わずかに1円高で一応反発だが、横ばいとなった。レンジは1万3853~1万4166円と値幅は前週(2月24日週)の501円から313円へと縮小した。
先週(3月3日週)の市場はトランプ米大統領の関税を巡る発言が二転三転し、米国株式市場はじめ金融市場を揺るがした。日替わりベースで関税計画の発表とその撤回が相次ぎ、市場は世界的な貿易戦争とともに米国経済の悪化懸念を強め、米株式市場の急落を引き起こした。
先行きの不確実性の高まりを最も警戒するのが株式市場であり、その急落はリスクオフ(リスク資産回避)センチメントを強め、個人の消費マインドを傷つける。折しも民間人ながら政権入りしたイーロン・マスク氏率いる政府効率化省(DOGE)が、様々な省庁で人員削減を強引に進めていること自体が、個人のみならず企業マインドにも悪影響を及ぼしている。
先週発表された2月の米ISM(サプライマネジメント協会)製造業及び非製造業景況指数の調査コメントはそれを示唆するものだった。
方向定まらぬトランプ関税で株価急落
こうした中で先週(3月3日週)の米株式市場は大きく下げた。
いずれも週足でダウ平均は1,039ドル2.37%下落した。1,000ドル超の下げはトランプ政権スタート後2回目となる。
ナスダック総合は3週連続で下落し下落率は3.45%だった。
多くの機関投資家が運用指標とするS&P500は3.1%で週間ベースでは2024年9月以来の大幅安となった。3月7日は一時5,600台まで下げ、下値の目途とされる200日移動平均を割り込む場面があった。
7日の米株式市場は、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長の発言が下支え要因となり終盤に反発した。議長は、午後の早い時間にニューヨークで開かれた経済フォーラムでの演説で米経済について「堅調なペースで成長している」との認識を示した。
株安にともなうNY金の手じまい売りは目立たず
先週(3月3 日週)のような株安に象徴されるリスクオフ(リスク資産回避)センチメントの拡大時に、2月までは金市場ではキャッシュ捻出(キャッシュアウト)の売りが先行し、下げに見舞われていた。最高値圏にあり利益が乗っていることもあるが、ファンドの買い越し残(ネットロング)が積み増しされていたことがある。
ただし、先週は大幅株安にもかかわらず目立った売りはなかった。2月末に掛けて大きくファンドの買い(ロング)ポジションの整理が進み、足元で手じまい売りは一巡していることがある。
現地7日夕刻にCFTC(米商品先物取引委員会)が発表したデータでは、3月4日時点のNY金のファンドのポジションは、重量換算で774トン(小数点以下切り捨て)の買い越しだった。1ヶ月前の2月4日時点では964トンだったので、190トン約20%の減少となる。
ファンドの買い残整理は、一巡していると言える。
トランプ政策への信認低下、米ドル買いから売りに
リスクオフセンチメントに関連してもう一つ。こうした環境はトランプ2次政権がスタートした直後までは為替市場では米ドル買いにつながっていた。しかし、足元では米国経済の後退懸念が高まっていることから、最近ではむしろ米ドル売りとなっている。先週(3月3日週)米ドルはユーロと円に対して数ヶ月ぶりの安値に沈み、大半の通貨に対しても下落した。
3月7日発表の2月の米雇用統計を受け、米ドルは下げ幅を拡大した。非農業部門雇用者数は15万1000人増加と、市場予想の16万人増(ロイター調べ)を下回った。失業率は4.1%と、1月の4.0%から上昇した。おおむね好調と言えるが、政府部門の人員削減加速もあり先行きへの懸念は高まっている。
結果を受け、ユーロは対米ドル一時、4ヶ月ぶりの高値となる1.0890ドルを記録した。米ドル/円は一時、146.94円と2024年10月以来5ヶ月ぶりの安値を付けた。この結果ドル指数(DXY)も一時103.458と4ヶ月ぶりの安値を付け103.838で終了。週足では3.5%安と2022年11月7日週以来の大幅下落となった。DXYの下げはNY金のサポート要因となる。
今週(3月10日週)の見通し:つなぎ予算を巡る米与野党協議に注目、経済指標では3月ミシガン大消費者調査に注目
今週(3月10日週)もトランプ大統領の発言はじめ政治的な動きに反応する流れが続きそうだ。
週末3月14日(金)には2025会計年度のつなぎ予算の期限が到来する。米下院共和党は、つなぎ予算について、2025会計年度が終了する9月末まで延長する歳出法案(前年並み規模)を発表した。
民主党は、議会が決めた予算を次々と執行停止に追い込むイーロン・マスク氏率いる政府効率化省(DOGE)を問題視し、反発も強い。民主党は反対票を投じるとみられ、つなぎ予算は成立せず3月15日に政府機関閉鎖となるリスクもありそうだ。
下院共和党の中にも財政拡張に反対するフリーダムコーカスと呼ばれる議員団が存在することから、勢力が拮抗する中でどうなるか、上院での成立も危ぶまれる。関税策など不透明な中でその動向の金融市場への影響が懸念される。
経済指標では3月12日(水)発表の2月の消費者物価指数(CPI)、13日(木)発表の同米生産者物価指数(PPI)に注目したい。インフレ指標は3月18、19日でFOMC(連邦公開市場委員会)が予定されており、インフレ率が鈍化しているだけにどうなるか。また、14日(金)発表の3月の米ミシガン大学消費者態度指数(速報値)はこのところ消費者心理が落ちているだけに注目度はいつになく上がっている。
こうした中でNY金は引き続き2,900ドル台前半での滞留から節目の2,950ドルを伺う堅調展開を予想する。一方、米ドル/円相場は円買い圧力の強さから、JPX金は1万3800~1万4100円のレンジを想定している。