先週(3月2日週)の動き:週前半は米利下げ観測の後退と米ドル高で売り先行、2月の米雇用統計と原油高で水準回復/国内金価格は円安効果で4週小幅続伸

2月28日に米・イスラエル両国がイランへの空爆を開始し、イラン情勢が一気に流動化した。これを受け、先週(3月2日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週初から買いが先行し、値が飛ぶ荒れた展開となった。

戦域にはホルムズ海峡という原油輸送の要衝を含むため、市場では輸送の遮断が懸念された。その結果、原油価格が高騰し、インフレ再燃への警戒感が高まった。一方で、2025年6月のイスラエルによるイラン本土空爆と米国によるイラン核施設への空爆の経過から、紛争の短期終結への期待もあり、週前半のNY金の上値は限定的なものとなった。

相場が方向感を見出しにくかった一因は、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ観測が後退したことである。中東地域で戦域が拡大すると原油輸送が滞り、ガソリンなど幅広い石油製品の供給不足につながる。その結果、インフレが進みやすくなり、利下げ政策は難しくなる。さらに、リスクオフ(リスク資産回避)による株安が進んだ。

早晩一巡が見込まれる換金売り

一方で、本来なら安全資産としてNY金に買いが入りやすい局面だが、実際にはむしろ売りが出ていた。これもNY金の戻りを限定的なものにした。2025年来、予想を大きく超えるAI(人工知能)関連株の高騰を受け、将来の株価反落に備えたヘッジとしての金買いが進んでいた。ところが足元では、地政学リスクの高まりを受けた株価急落により、他の金融取引の清算のために現金を捻出する動き(キャッシュアウト)が強まった。その手段として、保有する金を売却する投資家が増え、NY金の戻りを抑えた。

利益確定売りを行った投資家にとって、金の保有はまさに「備えとしての金(ゴールド)」だった。足元の混乱局面で、その効果が表れたとも言える。NY金にしても現物の金地金にしても、過去1年間の上昇率は70%を超えている。その結果、資産の守りを主眼とした「備えとしての金(ゴールド)」の保有が、気付いた時には「攻めの資産」に転じていたことになる。

株価が急落すると、こうした売りが出やすい。しかし、以前も書いたとおり、このような類の売りは資金の必要な投資家が売り切れば終わるもので、ここまでの上昇トレンドを変えるほどの材料ではないと思われる。

スタグフレーション環境は歴史的に上昇で反応

足元の市場に話を戻すと、先週末3月6日のNY金は、主要通貨に対する米ドル高が一服したことを受けて反発し、取引を終えた。

NY時間3月6日の朝方に発表された2月の米雇用統計では、雇用者数が市場予想(増加)に反して減少した。これを受け、いったんは大きく後退していたFRBの利下げ観測が復活し、買い戻されることになった。

米国景気の先行き懸念が台頭し、米国株は続落した。一方で、イラン戦争の戦域の拡大観測から原油相場が大きく続伸し、インフレへの警戒も強まった。トランプ米大統領はイランに対して全面降伏を要求し、「戦争終結をめぐる交渉は望んでいない」と語ったことは、戦争の長期化を印象付けた。実際に米国・イスラエルによる対イラン空爆は続いており、事態が収束に向かう兆しはほとんどみられない。

3月6日の米国産原油WTIの終値は、前日比9.89ドル高の90.9ドルで終了。前日比12.2%高は、6年ぶりの大幅高となる(FactSet)。原油価格の高騰は、ガソリン価格を押し上げるだけでなく、幅広い石油化学製品の価格も上昇させ、インフレにつながりやすい。ガソリン価格の上昇はとりわけ米国市民にとって増税に匹敵するとされ、個人消費を抑制する要因でもある。インフレが進む中での景気減速・後退はスタグフレーションを思わせ、中央銀行は難しい判断を迫られる環境と言える。金融政策自体が方向感を出しにくい経済環境は、さらに先行きの不透明感を高めることになる。歴史的にも金価格を押し上げる経済環境として知られる。

こうした中で3月6日のNY金は前日比80.00ドル高の5,158.7ドルで終了した。その後の時間外取引でも、戻り売りを消化しながら水準を切り上げ5,181.3ドルで週末の取引を終了した。

一方で先週(3月2日週)のNY金は5,000ドル割れを回避したものの、週前半を中心としたFRBの利下げ観測の後退と米ドル高を映した下げ幅を埋められず、週足は前週末比89.2ドル(1.7%)安となり5週間ぶりの下げとなった。レンジは5,005.0~5,434.1ドルで値幅は429.1ドルと、前週の189.5ドルから大きく拡大した。

国内金価格4週続伸も価格変動高まる

NY金の値動きを受け、国内金価格も売りが先行し、水準を切り下げた。ただし、イラン戦争による原油供給のひっ迫観測は、中東原油の輸入に頼る日本にはダメージが大きいことから、円安傾向が強まり、国内金価格には一定の下支え要因となった。

大阪取引所の金先物価格(JPX金)の3月6日の終値は、2万7065円と前週末とほぼ同じ水準となった。週足は前週末比25円高(0.09%)と、形の上では4週続伸となった。レンジは2万6400~2万8420円で値幅は2020円と過去4週で最大となった。中東情勢が一気に流動化し、市場全般が荒れたことが金市場にも反映された。

今週(3月9日週)の動き:原油価格暴騰が示す波乱相場、換金売りを消化しNY金は5,000ドルを維持の見込み

スタグフレーションを警戒する市場

イラン戦争の長期化観測を受け、週初めのアジア時間では米国産原油WTIが大幅続伸となり、株式市場は急落、波乱の幕開けとなった。NY時間外で取引が薄いこともあるが、98.0ドルで取引を開始し、日本時間の午前中までに一時119.48ドルまで急伸している。前述したように、インフレと景気後退が同時に発生するスタグフレーションが意識され、株式などの売りが強まった。その結果、日経平均の午前の取引は、前週末比3880円(6.98%)安の5万1740円となった。

こうした中で、NY金は時間外取引を前週末比プラスで開始したものの、その後は売りが先行し、前週末比マイナス圏となる5,100ドルを挟んだ値動きとなっている。米国株式の先物は主要指標全てが大きく下げており、週明けの米国株式も大きく売られることになりそうだ。

NY金は換金売りで5000ドルをめぐる攻防

NY金の値動きは、やはりキャッシュアウトの売りと危機対応の買いが交差する状況が続きそうだ。換金売りが出ていることは、先週(3月2日週)に金ETF(上場投信)の残高が大きく減少したことからもうかがえる。一方で、イランでは新たな指導者が指名されたと報じられており、状況からは戦争の長期化は避けられないとみられる。

目先はテクニカル面で5,000ドルを維持できるかどうかが注目点となる。環境は言うまでもなく流動的で予断を許さぬが、5,000ドルは維持するだろうとみている。仮に5,000ドルを割り込んだ場合でも、下値を買い向かう投資家は存在するため、下げは限定的と思われる。