先週(2月23日週)の動き:NY金は週足4週続伸、月足で9ヶ月連続上昇/国内金価格は3週続伸/不透明要因の重なりやAI脅威論を巡る信用リスクへの関心を背景に上昇
先週(2月23日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週末2月27日にかけて水準を切り上げた。具体的には、相場は1月29日に記録していた終値ベースでの過去最高値(5,354.8ドル)に対する戻り高値を更新しながら進行した。2月27日の終値は5,247.9ドルで週足は前週末比167ドル(3.29%)高の4週続伸となった。つまり、1日で前日比609.7ドル(11.39%)と過去最大の下げ幅を記録した1月30日を基点に、4週連続で上げていることになる。
その結果、月間ベースで見ると502.8ドル(10.6%)高となり、NY金の月足は9ヶ月連続の上昇となった。年初来では906.80ドル(20.89%)高である。先週の取引レンジは5,109.5~5,299.0ドルで、値幅は189.5ドルだった。前週の276.8ドルから縮小し、過去5週間でも最小となった。値動きは比較的落ち着きつつあるが、手掛かり材料次第では再び拡大が予想される。
先週(2月23日週)は、米関税政策の先行きと地政学リスクに代表される不透明要因の重なりがNY金の買い手掛かりとなった。さらに米株式市場では、AI(人工知能)関連株式の下げに象徴されるリスクオフ(リスク資産回避)センチメントの高まりも、NY金の押し上げ要因となった。
違憲判断により、方向転換を余儀なくされたトランプ関税
まず米関税政策の先行きについては、前週(2月16日週)に米最高裁がトランプ関税の多くの部分について違憲判断を下したことで、トランプ米大統領は方向転換せざるを得なくなった。トランプ米大統領は、新たに10%の新関税を課す大統領令に署名し、早晩15%に引き上げる意向を表明した。すでに徴収済みの関税を巡っては、米国内で払い戻しを求める訴訟が増加していると伝えられる。
米国内では、歳入に関連して連邦政府財政に対する懸念が、対外的には、すでに合意済の通商交渉を見直す可能性(特に対EU、欧州連合)などが懸念事項として浮上した。2025年4月に発表されたトランプ関税は、第2次政権のいわばコアな政策である。それが否定されたことで、11月の中間選挙をにらみ、何らかの対応策を講じるのではとの見方があった。
対応策の一つとして、外交が考えられた。折しもイランとの核交渉を巡り、中東地域への空母打撃群の派遣など顕著な動きが、地政学上の懸念事項として挙がっていた。
AI脅威論により、業務用ソフトウェア関連株の売りが拡大
また米株式市場を巡ってはAI(人工知能)脅威論が意識され、市況は不安定化していた。もともとAIが巨額の設備投資に見合うだけの収益を上げられるのかという疑問があった。これに加えて急速に浮上したのが、AIが既存のビジネスを破壊するのではないかという懸念である。AIの高度化と普及により、業務用ソフトウェアのビジネスモデルが崩壊するとの懸念が広がった。その結果、関連株が大きく売られ、この数週間は、株式市場の波乱要因となっていた。
これらの懸念事項が金市場に反映されたのが、週末と月末が重なった2月27日の市況だった。特筆したいのは、株式市場で金融株が売られ、リスクオフ・センチメントが高まった点だ。プライベート・クレジット関連での信用リスクの高まりが意識されていた。この日は、米国株式市場でAI関連株に加え、ゴールドマン・サックスなど金融株にも幅広く売りが広がった。一方で、逃避資金は米国債に流れ、米長期金利(米10年債利回り)は低下。2025年11月以来(FactSet)の4%割れとなった。これが冒頭で触れたNY金の戻り高値更新につながった。
国内金価格は3週続伸
先週(2月23日週)の国内金価格も、こうしたNY金の値動きを反映し週足は続伸した。米ドル/円相場に目立った動きがない中、週末2月27日の大阪取引所の金先物価格(JPX金)は2万7040円で終了した。前週末比1154円(4.46%)高で、3週続伸となった。NY金(週足の前週末比3.29%)に比べて上昇率が高いのは、前週末2月20日のJPX金の終値が、時差の関係で同日のNY金の終値を反映していないためである。
レンジは2万5721~2万7185円で、高値は急落した1月30日以来、約1ヶ月ぶりの高値となる。2月26日の終値2万7095円は1月29日以来の高値で、いずれも戻り高値更新となった。先週(2月23日週)の値幅は1464円と、前週1260円からはやや拡大した。なおJPX金は2月月間で前月比450円(1.69%)高となった。
今週(3月2日週)の動き:急変したイラン情勢を受け終値ベースでの最高値更新の有無に注目/2月の米雇用統計と1月の米小売売上高、ウィリアムズNY地区連銀総裁発言に注目
先週末2月27日のNY金に表れていたイラン情勢の影響
先週末の2月27日、米国とイスラエルがイランに対する空爆を開始し、事態が急変した。これを受けて、今週(3月2日週)の金市場は、週初めのアジア時間からいわゆるジャンプスタートとなり、大きく値を飛ばしている。日本時間午後1時までの時点で一時5,409.7ドルまで買われ、その後値動きの荒い展開となっている。
イラン情勢については、すでに先週末2月27日のNY金の値動きに影響が現れていた。この日は通常取引終了後の時間外で上値追いに転じた。2月24日に付けていた戻り高値5,269.4ドルを上抜く(=売りを消化する)と騰勢を強め、一時5,299.0ドルまで上昇し、時間外取引は5,296.5ドルで終了していた。ほぼ高値引け状態で、テクニカル上は買い圧力の強さを表すシグナルでもある。
週末を控え、イラン情勢への警戒が時間外の買いを促したとみられた。年初のベネズエラでも、戦端が開かれたのは土曜日だった。当時は金融市場に対する不測の影響を考慮したと考えられた。そうした前例もあり、NYコメックスでは、終盤に向け特に売り建て(ショート)のポジションが買い戻され(ショートカバー)、終盤の高値追いにつながったとみられた。そして警戒されたように、先週末2月27日にイラン攻撃が実行された。
金市場における有事反応は予断を持たずに静観を
イラン情勢については、2025年6月に米軍が集中爆撃を加えたイラン中部のウラン濃縮施設で、定期的かつ説明のない活動が続けられていると、国際原子力機関(IAEA)が先週報告していた経緯がある。活動内容の説明がないというIAEAの報告が、米・イラン間の協議合意の難しさを示唆していた。それでも交渉は継続しており、3月2日に次の交渉が予定されていると報じられていた。
伝えられるところでは、イランの最高指導者ハメネイ師のほか、側近など政権中枢部の幹部も同時に殺害されたとされる。ハメネイ師の家族も含まれるとのことで、諜報活動の結果を踏まえて攻撃スケジュールが決まったとされるが、それにしてもイラン側の警戒感の薄さが印象に残る。いずれにしても予断を持たず推移を見守りたい。
金市場における有事反応は、強弱感が対立し、伝えられるニュースの解釈を巡って乱高下しやすい。予断を持たず静観したい。
2月の米雇用統計と1月の米小売売上高、ウィリアムズNY地区連銀総裁発言
イラン情勢に目を奪われがちだが、今週(3月2日週)は月初の米国重要経済指標の発表が予定されている。3月6日発表の2月の米雇用統計と1月の米小売売上高に注目したい。また、3月2日の2月ISM製造業景況指数、3月4日(水)同非製造業景況指数も注目指標となる。
また3月7日(土)からは、3月17~18日のFOMC(連邦公開市場委員会)を控え、FRB(米連邦準備制度理事会)高官はブラックアウト(金融政策に対する公式発言を自粛する)期間に入る。ブラックアウトに入る前のFRB高官発言では、3月3日(火)のウィリアムズNY地区連銀総裁の発言に注目している。
金価格については、イラン情勢を受けた買いの中でNY金が、1月29日に付けた終値ベースでの過去最高値5,354.8ドルを上回って取引を終了できるか否かに注目している。
