2024年は、ビットコインの半減期イヤーとして幕を開け、期待通り暗号資産市場全体が活気づいた年となった。1月には米国でビットコイン現物ETFが上場し、これを契機に機関投資家を含む幅広い投資家層から新たな資金が流入した。マウントゴックスやドイツ政府など大口保有機関に関連した売却リスクが懸念される局面もあったが、米国の利下げ転換が市場を下支えし、相場は持ち直した。

その後、11月の米大統領選挙では暗号資産推進派であるトランプ氏が勝利。「トランプ・トレード」とも呼ばれるリスク資産への資金流入が加速し、ビットコインは1BTCあたり1,500万円を超えて史上最高値を更新した。

半減期アノマリーに従えば、ビットコインは2025年にかけてさらに上昇する可能性がある。世界的なインフレが鈍化する中、欧米各国が利下げに動いており、株式や暗号資産にとって追い風となる金融環境が整いつつある。加えて、トランプ次期米大統領の政策が進展することにより、暗号資産を取り巻く環境が大きく改善することが期待されている。こうした状況を踏まえ、以下ではビットコインのさらなる上昇を後押しする要因と、今後警戒すべき下落リスクについて述べる。

米国の暗号資産規制の見直しとアルトコインブームの可能性

米国では今回の大統領選挙で共和党のトランプ氏が勝利したことで、暗号資産規制の抜本的な見直しが進むとの期待が高まっている。これまでのバイデン民主党政権では暗号資産に対して不合理な取り締まりが続いてきたが、トランプ次期大統領はこの状況を批判し、新たな暗号資産規制ガイダンスを策定する計画を打ち出している。

具体的な方針はまだ定かではないが、共和党主導で議論している法案「Financial Innovation and Technology for the 21st Century Act(FIT21)」に準じた内容になることが予想される。この法案は、米証券取引委員会(SEC)が監督するデジタル資産と、商品先物取引委員会(CFTC)が監督するデジタル商品を定義し、暗号資産の監督当局を明確化する狙いがある。これにより、不当な訴訟リスクを抱えてきた暗号資産関連企業の事業環境が大きく好転する。また、ビットコインとイーサリアム以外にもコモディティに分類される暗号資産が増えれば、アルトコイン現物ETFの道が大きく開かれる。

このような動きを見越して、米大統領選挙後にはアルトコイン現物ETFを申請する動きが増えており、その実現に向けた期待からソラナやリップルなど一部の銘柄が大きく値上がりしている。2025年以降、米国でイーサリアムに続いて複数のアルトコイン現物ETFが承認され、それに伴ってアルトコインブームが再来する可能性はあるだろう。その上で注目しているのがステーキング(資産を預託して検証者になることで利回りを得る仕組み)に関する規制緩和である。

現在のイーサリアム現物ETFはキャピタルゲインのみとなっているが、ステーキングが解禁されることでインカムゲインも得られる金融商品になる。それにより、金融関係者の間でデジタル債券としての価値が再認識されれば、ビットコインのように機関投資家の大きな需要を集めることが期待される。

【図表1】ビットコインのドミナンス推移
出所:Tradingview

2025年1月には、米国で暗号資産業界と対立する姿勢を見せてきたゲンスラーSEC委員長が退任し、新しく共和党寄りのメンバーが次期委員長に指名される予定だ。新体制への移行に伴い、これまで規制の影響で低迷していたアルトコインの取引が活発化し、多くの新規プロジェクトが誕生するだろう。すでに市場ではアルトコインの物色が始まっており、ビットコインのドミナンス(市場全体に占める時価総額割合)は60%から55%まで急落している。

また、ハイパーリキッドというプロジェクトでは億万円単位のトークン配布イベントが行われ、2017年や2021年のアルトコイン熱狂を彷彿とさせる動きが出てきている。一方で、アルトコインブームは、投資家がリスクオンに傾いていることを意味しており、市場の過熱に伴う急激な調整リスクを警戒する必要がある。

ステーブルコインの利用拡大と規制リスク

米国では、2022年にテラショックが起きたことを背景に、ステーブルコインに関する法案「Clarity for Payment Stablecoins Act」が議論されている。この法案は、ステーブルコインの発行体に対してライセンス制度を導入し、銀行規制に類似した要件を課すことで、市場の健全性と透明性を向上することを目的としている。

トランプ次期大統領は、国が発行する中銀デジタル通貨(CBDC)よりも、民間のステーブルコインを推進する姿勢を明確にしている。このため、共和党政権下では、ステーブルコインについても規制整備が進む可能性が高い。その結果、金融機関やフィンテック企業がステーブルコイン事業に参入し、市場の成長が加速すると期待される。

【図表2】ビットコイン価格とステーブルコイン市場流通量(USDT+USDC)の推移
出所:Glassnode

ステーブルコインは、暗号資産市場における決済通貨としての役割を果たしており、その発行総額はブロックチェーン上の「マネタリーベース」とも言える存在だ。実際、2024年に入ってからはビットコインが上昇する中でステーブルコインの発行総額が増えており、それだけビットコインやアルトコインの買い需要が高まっていることを示唆している。

また、ショッピファイ[SHOP]やペイパル・ホールディングス[PYPL]などの企業が小売りや事業者間の決済にステーブルコインを活用する事例も増えている。こうした実需面での利用が拡大すれば、暗号資産市場に流通する“現金”の総量が増え、ビットコインなどの暗号資産への資金流入がさらに促進されるだろう。

一方、米国での規制強化は一部のステーブルコイン発行体にとって大きなリスクとなりうる。特に、世界最大のステーブルコインUSDTを発行するテザー社への影響は注視する必要がある。同社は、最大手の暗号資産取引所バイナンスのように、これまで各国規制への対応を最小限に留めながら事業規模を拡大してきた。

しかし、米国居住者に合法的なサービスを提供するには、厳格な規制基準を満たすことが求められる。実際、テザー社はユーロ圏でMiCA規制に準拠できず撤退を余儀なくされた経緯があり、米国でも同様の事態に直面する可能性がある。また、USDTが制裁回避やマネーロンダリングに利用されているとの疑いも市場には根強い。仮にトランプ次期大統領がUSDTを対象にした金融制裁や取引禁止措置を講じた場合、その流動性低下が市場全体に波及し、暗号資産市場に大きな混乱を招く恐れがある。

RWAトークンの利用拡大とシステマティックリスク

2024年に大きく成長したテーマの一つが、現実資産(Real World Asset)のトークン化である。国債やプライベートクレジット、コモディティなど伝統的な金融資産をトークン化する動きが世界的に広がっており、JPモルガン・チェース[JPM]やシティバンク(シティグループ)[C]、ビザ[V]など大手金融機関がデジタル資産プラットフォームの開発に継続して取り組んでいる。

2024年3月にブラックロックが米国債をトークン化したファンド「BlackRock USD Institutional Digital Liquidity Fund(BUIDL)」を立ち上げたことで、RWAトークンへの注目度が高まり、その市場規模は約130億ドルまで拡大している。マッキンゼー&カンパニーはRWAトークンの市場が2030年までに2兆ドルに達するとの分析レポートを出しており、2025年以降も様々な資産をブロックチェーン上で取引するための動きが続いていくだろう。

トークン化のメリットとして、資産の取引効率や透明性、流動性の向上が挙げられるが、今後はRWAトークンが様々な形で暗号資産関連のサービスに組み込まれると予想する。すでに、一部の暗号資産取引業者ではブラックロックが提供するBUIDLをデリバティブ取引の証拠金として受け入れており、ステーブルコインの裏付け資産としてBUIDLを活用する事例も出ている。

さらに、RWAトークンは特に分散型金融(DeFi)サービスの信頼性向上に役立つと考えられる。FTXショックやテラショックの失敗が示すように、これまでは価値の不安定なトークンを担保にした金融取引が繰り返され、相場の下落とともにDeFiエコシステムが大きく揺らいできた。しかし、BUIDLのような価値の安定した裏付け資産を持つトークンが担保資産の選択肢に入ることで、DeFiサービスの持続性が向上し、幅広い投資家からの関心を集めることが期待される。

一方で、RWAトークンの普及にはいくつもの課題が存在する。たとえば、各国規制においてトークン化された現実資産がどのように位置づけられるのか、またそれが既存の法律とどのように整合するのかといった点を整理する必要がある。また、トークン化された資産を安全かつ効率的に運用するためには、ブロックチェーンのスケーラビリティやセキュリティの確保、そして異なるプラットフォーム間での互換性を向上させる技術的な課題も存在する。

さらに、RWAトークンは伝統的な金融市場と暗号資産市場の架け橋となる可能性を秘めているが、その普及が進むほど、大規模なシステマティックリスクを抱えることになる。新型コロナウイルスのような世界的な経済危機によって裏付け資産の価値が急落した時には、暗号資産の相場がこれまで以上に崩れる可能性があるだろう。

ビットコイン準備金への期待とカストディリスク

米国では国家財政におけるビットコイン準備金の導入検討が大きな話題である。トランプ次期米大統領が選挙活動でその可能性に言及したことで、市場ではビットコインの価格を押し上げる大きな材料として意識されており、国によるビットコイン保有は2025年以降の一大テーマになるだろう。

2024年7月に米国の上院で提出されたビットコイン準備金の設立に関する法案では、5年間で100万枚のビットコインを購入する計画が含まれている。この法案は、米国の国家債務がGDPの120%を超える中、ビットコインの将来的な価値向上によって返済原資を確保する試みとして注目されている。一方で、実務的な課題やリスクを指摘する声も多く、米国が正式にビットコインの購入に動くまでには相応の期間を要すると考えるのが自然だろう。

しかし、米国の動きを見て、カナダやブラジルなど他の国でもビットコイン準備金を議論する動きが広がっており、国が金に並ぶデジタルゴールドとしてビットコインを保有し始めるのは時間の問題だと考える。ロシアのプーチン大統領もビットコイン準備金の可能性を言及しており、脱米ドル化を進める国々がビットコインを代替資産として購入する動きが広がる可能性もある。

このように企業や機関投資家、さらには国といった大口保有者の参入によって暗号資産市場の厚みが増す一方で、それらの大規模な資産を管理するカストディリスクが高まっている。特に米国では、コインベース[COIN]がビットコインの主要なカストディアンとしての地位を確立しており、現在、米国で1,000億ドル規模に拡大したビットコイン現物ETFの大半は同社がカストディアンを務めている。

もし米国がビットコインの購入に動く場合、国が保有するビットコインのカストディアンもおそらくコインベースが大部分を担うことが予想される。これは同社にとって大きなビジネスチャンスである一方、国家規模の資産管理におけるサイバーセキュリティや運用面での透明性がこれまで以上に厳しく問われることになる。万が一、米国で数千億円以上の不正流出事件が起きた時はビットコインの暴落は避けられないだろう。

ビットコイン準備金については、相場のポジティブな面ばかりが注目されているが、それによって国の資産が流出するリスクを抱えることも見過ごせない課題である。米国がその対策をリードすることで、国によるビットコイン保有が広がりを見せることを期待したい。

2025年のビットコイン価格のレンジ予想

最後に2025年のビットコイン価格のレンジ予想を説明する。

【図表3】半減期サイクルごとのビットコイン価格の推移
出所:Glassnode

ビットコイン 上値:2,925万円(195,000ドル)  下値:1,125万円(75,000ドル) 

ビットコインの上値目標は半減期時点の価格から約3倍の水準に設定した。過去3回の半減期サイクルでは、半減期時点の価格から約94倍、約30倍、約8倍の水準まで価格が高騰しており、その上昇率は徐々に小さくなっているものの、今回もアノマリー通りにいけば2~3倍の上昇は見込まれるだろう。下値についてはBTC=100,000ドル前後で20~30%の調整が入った場合の水準に設定した。直近、トランプ次期米大統領への期待でビットコインが急上昇している分、就任日となる2025年1月20日前後の事実売りには警戒したい。

2025年以降の暗号資産市場は米国の暗号資産推進の流れによってビットコインだけでなくアルトコインも強気相場になると予想する。一方で、金融市場ではトランプ次期大統領の再選によってインフレが再燃するリスクや米中対立などの地政学リスクが指摘されており、予想外の展開によってリスク資産全体が売られる局面もあるだろう。

ビットコインは半減期サイクルの価格ピークを付けた後に暴落を繰り返してきた歴史があり、調子が良い時こそ市場の熱狂に流されず、その先の下落に備えて冷静な判断と適切なリスク管理を維持することが重要である。

※1ドル=150.00円で換算(2024年12月6日時点)