先週(4月7日週)の振り返り=「悪い金利上昇」の中、米ドル142円まで急落
米ドル/円の下落再燃で一時142円割れ寸前まで円高が進行
4月3日、トランプ米大統領の相互関税発表をきっかけに、世界的な株価暴落「トランプ・ショック」が広がり、米ドル/円は急落した。4月9日にトランプ大統領が一部の関税発動を90日間停止すると発表すると、米ドル/円は、148円台まで反発したもののすぐに下落が再燃、この間の安値も更新し一時142円割れ寸前まで一段安となりました(図表1参照)。

株価暴落の中、米金利急上昇
こうした中で、異例の動きになったのが米金利でした。教科書的には、株安、リスクオフ局面では金利は低下する可能性が高いと説明されます。ところが、記録的な株価暴落「トランプ・ショック」の中で米金利は逆に急上昇となりました。
このように米金利が急上昇する中で、日米金利差(米ドル優位・円劣位)は急拡大しましたが、それを尻目に起こったのが「トランプ・ショック」局面での米ドル安・円高でした(図表2参照)。ではなぜ、「トランプ・ショック」という記録的なリスクオフ局面で、教科書と異なる米金利上昇となったのでしょうか、そして米金利上昇にもかかわらず米ドル安・円高になったのはなぜなのでしょうか。

ユーロ/米ドルでも金利差と為替相場が逆方向に動く
このような為替相場と金利差が逆方向に動いたのは米ドル/円に限ったことではなく、ユーロ/米ドルなどにも顕著に確認できるものでした。ユーロ/米ドルは4月9日、トランプ大統領が関税の一部停止を発表した後から1.1米ドルの大台を完全に上放れ、この間の高値を大きく更新し、一気に1.15米ドルに迫る一段高となりましたが、これは独米金利差(ユーロ劣位)が急拡大したのを尻目に起こったものでした(図表3参照)。

この独米金利差拡大の中身を見ると、米金利が大きく上昇したのに対し、独金利は逆に低下に向かっていました(図表4参照)。このことは、独など欧州の投資家が対米債券投資を自国内へ引き揚げた(米国債売り、独国債買い)可能性も感じさせるものでしょう。

米ドル売り、2つの理由
ここまでについて整理してみます。先週、米ドル/円などが一段安となったのは、米金利が上昇し、日米金利差が拡大する中でのことでした。この米ドル売りは、まず1)米国人の米ドル売りと2)海外勢の米ドル売りに分けて考える必要があるでしょう。1)で考えられるのは、資本逃避(キャピタル・フライト)の可能性です。2)としては、上述のような対米投資の引き揚げ、または特に関税引き上げ合戦の構図で米国と激しく対立している中国が報復行為として保有している米国債の売却を拡大した可能性などが考えられるでしょう。
米ドルの下落は、3月までは米金利の低下で基本的に説明できるものでした。ただ4月に入り、相互関税発表以降は株価の下落リスクが拡大し、米金利上昇でも米ドルが売られるという「悪い金利上昇」の構図も浮上してきました。以上のように米金融市場の不安定化要素も浮上してきたことから、米ドルの上値はこれまで以上に重くなってきた印象が否めません。
今週(4月14日週)の注目点=米金融市場は安定化できるか?
投機筋の円ポジション、買い越しが過去最高を更新
今週は3月の米小売売上高など注目度の高い米経済指標発表が多く予定されています。これらの結果を受けて、米景気減速の程度を確認するのが基本になるでしょう。ただしすでに見てきたように、米国の株式、債券市場の急落など、金融市場が急に不安定化したことにより、それを安定化させることができるかが、景気動向以上に大きな焦点になってきた可能性があるでしょう。
ヘッジファンドの取引を反映しているCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、4月8日時点で買い越しが14.7万枚に拡大し、過去最高を更新しました(図表5参照)。為替市場が記録的な規模で米ドル売り・円買いに傾斜している可能性があることから、何かの拍子でこの修正が本格化した場合、米ドル高・円安に大きく戻す可能性はあるでしょう。この鍵になるのは、米金融市場の安定化だと思いますが、これまで見てきたことから推察すると簡単ではないのかもしれません。

米ドル/円、上値が重く不安定な展開
以上を踏まえると、今週も米ドル/円は基本的に上値が重く、値動きの荒い不安定な展開が続く可能性が高いのではないでしょうか。今週の米ドル/円の予想レンジは140~146.5円で想定したいと思います。