先週(3月31日週)に発表されたトランプ米大統領による関税の引き上げは、市場参加者の最悪の想定すら超える内容となり、米国株式市場は大きく下落しました。これを受け、中国政府は4月10日からすべてのアメリカ製品に34%の関税を課すとの報復処置を発表。これにより経済減速への懸念が一層強まり、米国株の売りが加速しました。

壊滅的な2日間、米国株式市場は史上最大の下落額を記録

4月3日(木)と4日(金)の2日間の下落で、米国株式市場からは約6.6兆ドル(約990兆円)の株主価値が失われました。これは2日間の下落額としては史上最大です。こうしたトランプ関税に対するマーケットの反応により、歴史に残る最悪の週となりました。 

このところ堅調に推移していたウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイ[BRK.B]の株式ですら、マーケットの下げに耐えられず、先週4日(金)は1日で6.9%も下落。先週1週間でS&P500は9.08%と、2020年3月(新型コロナパンデミック初期)以来最大の下落率を記録しました。ナスダック100は9.77%の下げとなり、史上最高値から21.5%下げ、ベアマーケット入りとなりました。

恐怖指数とも呼ばれるCBOEボラティリティ指数(VIX)は先週109%急騰して45.31を記録、一方、米ドルや原油価格は下落しましした。

FRBへの利下げ期待もかなわない結果に

期待以上に好調だった4月4日(金)の雇用統計ですら、関税悲観論を打ち消すには不十分でした。米労働省の発表によれば、3月の非農業部門雇用者数は22.8万人増で、予想(13万人増)を大幅に上回りました。特にサービス分野での雇用増が顕著で、医療、小売、運輸が伸びました。労働市場の底堅さを示す結果であったものの、株式市場の売りを止めるには至りませんでした。

失業率については、4.2%と予想の4.1%をやや上回る結果となり、一部ではFRB(米連邦準備制度理事会)が利下げに動く余地があるのではとの見方も浮上しました。

「パウエルプット」(株式市場において中央銀行が株価下落を抑えるために金融緩和などの政策で支援してくれるだろうという期待・安心感)への期待が膨らんでいたものの、それは裏切られる結果となりました。インフレリスクがある限り、FRBは簡単に市場の味方になれないということでしょう。

「不確実性」は終わるどころか、企業は新たな混迷

トランプ関税の発表までは、どのような内容が起きるか不確実性の高まりがあり、市場に不安を与えていました。その不安を終わらせるだろうと思われていた関税の発表でしたが、予想を遥かに上回る関税引き上げが、将来に対する新たな不確実な環境を生み出してしまったのです。

企業側にとって、最大の問題は先行きの不透明さです。関税が続くのか、解除されるのか、どの国に適用されるのか、そして、どの業種や企業が恩恵を受けるのかが全く見えてきません。これにより、彼らも業績の見通しが立たなくなっているはずです。

今回の関税発表は少しずつ企業の事業に影響を与え始めています。米国で任天堂(7974)は4月2日(水)に新型「Nintendo Switch 2」コンソールを発表し、4月9日から予約を開始すると案内しました。しかし、わずか2日後の4日(金)にこの方針を撤回し、予約開始を延期すると発表しました。米国による関税の影響を評価するための時間が必要だと説明しており、これが今回の発表延期の理由とされています。この事例は、トランプ米大統領の関税政策がどのように企業に与えるかの分かりやすい例でしょう。

トランプ関税の維持は「現実的でない」理由

今回の関税引き上げを受けて、アップル[AAPL]がiPhoneの生産拠点を中国から米国内に移転する場合、そのコストは少なくとも300億ドル(約4.5兆円)に達し、移転には最低でも3年を要するとみられています。私が信頼するアナリストは、製造原価の上昇でiPhoneの価格が1台あたり3,500~4,000ドル(約50万~60万円)に跳ね上がる可能性を指摘しています。

これは、「明日からアメリカで作ります」といった簡単な話ではありません。仮に現在のように1,000ドル前後で販売を継続したいのであれば、中国での製造を続ける以外に選択肢はないというのが現実です。もちろん、アップルのような高利益率企業であれば、ある程度のコスト増は吸収できる余地がありますが、今回の関税引き上げはその許容範囲を超えており、常識的な水準ではないと言えます。

結局のところ、その負担を最終的に背負うのはアメリカの消費者です。したがって、現行のトランプ関税がこのまま長期的に維持される可能性は極めて低いでしょう。現行のトランプ関税がこのまま維持されるのは現実的ではないと思われます。

一方、株式市場は、そのような最悪の状況を織り込んでいる過程です。現状、アップルの株価はすでに10―15%の業績予想カットを織り込み始めており、さらに利益率の悪化も見込まれています。

株価急落の裏で、交渉は着実に進んでいる

米国のテレビニュースでは、トランプ関税により小売店であらゆるものの値段が上がるのだと解説しています。また、全米黒人農業者協会の会長によると、トランプ米大統領が「関税」と発言するたびに、トウモロコシ、小麦、大豆の価格が下落し、作付けの時期にも関わらず市場は混乱、アメリカの農家を恐怖に陥れていると言います。このような状況で困っているのは株式投資家だけではないのです。トランプ米大統領が気にしているはずの国民がトランプ関税に懸念を表明し始めているのです。

強気の姿勢を壊さないトランプ米大統領ですが、すでに日本を含む多くの国はトランプ政権との交渉によって最悪の状況を回避しようとしています。先週(3月31日週)末の報道番組に出演したベッセント財務長官によると、すでに50ヶ国を超える国々がホワイトハウスにアプローチし、改善策を模索しようとしていると言います。

しかし、ここまで騒ぎを大きくしてしまったトランプ米大統領にとって、少しくらいの譲歩に満足するとは考えられません。また、話し合いでの解決を目指すという欧州連合(EU)ですが、報復関税を発表するような事態となる可能性も全くない訳ではありません。

マーケットの下落はいつ止まるのか?

投資家にとっての最大の関心事は、このマーケットの下落がいつ止まるのかということです。FRBのパウエル議長でさえ、今後何が起こるのかを明言できない状況です。

今のマーケットの下げを止められるのはトランプ米大統領だけです。先週4月4日(金)には、トランプ米大統領がベトナムとの貿易交渉についてSNSに投稿しただけで、市場が大暴落している中、ナイキ[NKE](+3.0%)、ルルレモン・アスレティカ[LULU](+3.15%)などの株が上がりました。

市場は上がるきっかけを欲しがっているのです。日本時間4月7日(月)の朝8時の段階で、米国株先物は大きく下落しています。このままNO NEWSであれば、米国株の下落は続くはずです。

現在市場で起きているのは、「株価下落」と「トランプ米大統領の忍耐力」の我慢比べに他なりません。今回の株式市場の反応に最も驚いているのはトランプ米大統領自身ではないかと思います。トランプ米大統領は、株価下落の連鎖を断ち切るためにも、何らかの対策を講じるべき局面に来ています。

優良企業も例外なく売られる今、長期投資家が取るべき姿勢は?

大きく下落した結果、米国の株式市場はテクニカル的にはかなり売られ過ぎの状況になっています。現在、S&P500採用銘柄の1年後のアナリスト予想株価(コンセンサス・ターゲット)を合算し、現在の実勢株価と比較すると、指数全体で約34%のディスカウントが確認されます。これは、通常の割安感(10%前後)と比較しても約24パーセンテージ・ポイント上乗せされた過剰なディスカウント水準であり、以下の2通りの解釈が可能です。

市場は今後S&P500企業の利益が平均して24%程度減少するという悲観シナリオを織り込んでいる、または、現在の株価はファンダメンタルズに対して過度に売り込まれている可能性がある。業績の下方修正は起きるものの、今のマーケットは「不確実性の高まり」による下落であり、過度に売り込まれていると見ています。

個人投資家のセンチメント調査である、AAII(全米個人投資家協会)によると、回答者の弱気度は2009年3月以来の水準に達しています。これは過去の経験則からすると「買いシグナル」とも見なされます。また、S&P500採用企業の約75%が200日移動平均線を下回っており、2022年10月のベアマーケット底に近づきつつあります。当時は約83%が下回っていました。

現在の株価は経済の実態ではなく、あくまで「政治の不確実性」によって動かされています。不確実性が高まる中、多くの投資家にとって株の買いや保有は魅力的に映らないかもしれません。しかし、短期的な値動きに耐えられる投資家であれば、将来的により高いリターンを得られるというのがこれまでの米国株の歴史です。それが今回で終わることは考えられません。

企業の実力とは関係なく、優良銘柄までもが無差別に売られている状況です。本来の企業価値以下で取引がされているこうした局面こそ、長期投資家にとっては魅力的な買い場であることを忘れてはなりません。米国株の歴史をみると、マーケットの大きなリバウンドの多くは、マーケットが大きく下落した直後に起きています。長期投資家は、トランプ関税の進展に注目するも、マーケットのリバウンドに備えておくことが必要です。株式市場の反発はいつも「過度の悲観」の中で始まることを忘れてはいけません。