先週の動き:ニューヨーク金先物価格週足上昇も方向感出ず FOMCは保守的スタンスを維持、一方市場はインフレ鈍化を織り込み

 先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は強弱相半する手掛かり材料の中で、方向感なく上下した。振れ幅は前週より小さくなった。前週末6月7日に65.90ドル安と1日としては4月22日以来の大きさとなる下げに見舞われたにもかかわらず、週初から自律反発の動きも見られず、5月中旬までの上昇相場のモメンタムの喪失を喪失を感じさせた。もっとも値動きの鈍さは、週央6月12日が午前早々に5月の米消費者物価指数(CPI)、午後には米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果発表を控えるイベントデーだったことにも関係していた可能性がある。それを割り引いたとしても、戻りの鈍さから調整局面入りの印象を与えた。出来高も減少している。

6月11~12日に開かれたFOMCは、四半期に1度公開される参加メンバーの予測から年内の利下げ見通しが1回であることが示された。少なくとも2回、状況によっては3回との読みがあった金市場では、ファンドと見られる売りに押され終値ベースで約1ヶ月ぶりの安値(2,318.00ドル)を付けた。

一方で、同日発表の5月消費者物価指数(CPI)および翌6月13日発表の5月生産者物価指数(PPI)のいずれも予想以上の鈍化を示したことから、市場では早期利下げ観測(9月着手)が早くも復活することになった。あたかも米連邦準備制度理事会(FRB)の判断は、過去のデータに沿ったものと言わんばかりの反応が市場で広がった。

さらに週末にかけて加わったのが、フランスの政治危機への警戒感の高まりだった。急きょ6月30日に国民議会(下院)の選挙実施となったが、世論調査では7月7日の決選投票でもマクロン大統領率いる与党連合の負けは濃厚とされる。仮に国内政治の主導権が右派連合などに移行すると、今後のフランス財政はじめ同国内政全般の混乱が懸念されることから、リスク回避型投資行動(質への逃避)が表面化しつつある。欧州連合(EU)中軸国の政治リスクの高まりは、英国のEU離脱(ブレグジット)をはるかに上回るリスク要因と認識されている。

6月14日は安全通貨として米ドルが買われ、ユーロは対ドルで、一時1.0668ドルと、5月1日以来の安値水準を付けた。ユーロ安はそのままドル指数(DXY)に反映され、105.550と4月30日以来の高値で終了。一方、米10年債利回りは、一時2ヶ月半ぶりの低水準となる4.191%まで低下し4.228%で終了した。

こうした中でNY金は2,349.10ドルで終了した。週足は前週末比24.10ドル、1.04%の上昇となった。先週のレンジは2,304.50~2,358.80ドルとなった。前回のコラムで想定レンジを2,285~2,355ドルと、取引時間中の2,300ドル割れを想定したが、そこまでには至らなかった。

一方、大阪取引所の国内金価格は、週足で反落となった。時差の関係で前週末のNY金の大幅下落を反映したのが、週明け6月10日の取引となったことから、週初に付けた1万1552円が安値となった。週後半には米ドル円が一時158円と円安方向に動いたものの、上値は限定的だった。6月14日まで2日間の日程で開かれた日銀の政策決定会合では、市場予想通り国債の買い入れの減額を決めたものの、具体的内容を次回会合(7月30~31日)に先送りしたことから、円は売られた。国内金価格の週足は前週末比120円、1.0%安の1万1776円で終了した。想定レンジを1万1380~1万1730円としていたが、先週のレンジは1万1552~1万1894円だった。ただし、高値については前週末の夜間取引で付けており、予想段階で明らかになっていたことから想定から外していた。実質的には高値は週末の1万1776円となる。

金市場で投資スタンス定まらない欧米勢

フランスの政治リスクから米国債など安全資産への資金移動が指摘されている。前日比31.10ドル高の2,349.10ドルで終了した6月14日のNY金について、米ブルームバーグ通信は、金市況に「フランスで政治危機が深まっていることが支援した」と書いた。ただし、この日金ETF(上場投信)の最大銘柄「SPDRゴールド・シェア(1326)」に4.03トンの大口売りが見られている。前日にも1.44トンの売りが出ており、FOMCが示した利下げ時期の後送りに反応した売りがETFを経由して出ているとみられる。

国際的な金の調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(本部ロンドン)によると、金ETFについては、2024年第1四半期に至る8四半期連続でネット売り越し状態が続いており、その累計は736トンに上る。欧米投資家の売りが残高減の背景だが、これを月次ベースで見ると、5月は8.2トン純増と12ヶ月ぶりに買い越しに転じていた。ここまで欧米の金ETF売りは、新興国の中央銀行の買いに吸収され、下げ要因にはなってこなかった。その中で、5月に買い越しに転じた欧米勢のETFの動向に注目していた。先週の展開は、再び売りに傾いていることを思わせる動きと言える。

先週末6月14日に米商品先物取引委員会(CFTC)が発表したデータでは、前々週の大幅下落にもかかわらずファンドのロング(買い建て)は高水準の買い越し(734トン)を維持しており、依然として売り優勢のETFの動向とは相反する動きが続いている。フューチャーズ(先物)は買い越し、現物由来のETFは売り越しの欧米勢。投資スタンスは定まらない。

今週の見通し:週前半に多数予定されているFRB高官の発言機会、5月小売売上高に注目 ニューヨーク金先物価格は2,325~2.385ドル、国内金価格は1万1680~1万1980円を想定

今週は米国にしては珍しく、週央6月19日に祭日(ジューンティーンス=奴隷解放の日)が控える。その前半にFRB高官による発言機会が集中している。6月18日には少なくとも5名の高官の講演やパネル登壇が予定されており、この発言に注目したい。というのも、6月12日のFOMCで公開された各人の経済見通しには、同日の午前に発表された5月CPIの結果を受けた修正が可能であるにもかかわらず、ほとんどされていなかったとみられるからだ。さらに翌13日発表の5月PPIは予想外の前月比マイナスになったが、月末に発表される個人消費支出(PCE)価格指数(デフレーター)に反映される要素を含むことから、これらの指標を受け市場が前のめりに織り込み始めた9月利下げ観測に対して、どのような発言をするかに注目したい。

個別の指標では6月18日に発表される5月小売売上高も注目だ。米経済のコアとなる個人消費の動向を推察する。さらに6月20日発表の週次の米新規失業保険申請件数も注目したい。前々週のデータが24万2000件と、2023年8月以来の高水準となった経緯がある。米労働市場で見られる変化の継続性を見る。

こうした中で今週の金市場は全般的に底堅さを見せると思われる。そこでNY金に関してはレンジを広くし2,325~2,385ドル、国内金価格は米ドル円相場を1ドル=156円を中心線として1万1680~1万1980円を想定している。

【図表】金 縦軸:円建て金/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券