キャシー・ウッド氏「ロボタクシーでテスラの株価は今後10倍になる見通し」

3月26日、米国のトランプ大統領は「我々はアメリカで製造されていないすべての自動車に25%の関税を課す」と述べ、輸入自動車に25%の関税を課すと正式に発表した。現在、米国は海外から輸入される乗用車に2.5%の関税をかけており、その輸入関税が10倍となる。現地時間の4月3日から新たな関税の徴収を始めるとしていて、期限を設けない恒久的措置にすると説明した。

ブルームバーグの3月27日付けの記事「トランプ自動車関税、数少ない勝者はテスラ -大半はコスト増に直面」は、ほとんどの自動車メーカーが敗者となる中、完全に影響を受けないわけではないものの、イーロン・マスク氏率いる米EV(電気自動車)メーカー、テスラ[TSLA]が数少ない勝者の一つとして際立っていると指摘している。

運用会社アーク・インベストメント・マネジメント(以下、アーク)を率いるキャシー・ウッド氏は、テスラ株について今後5年で2600ドルと、現在の約10倍に達するとの見通しを示した。ウッド氏は3月25日、ブルームバーグテレビジョンとのインタビューにおいて、「2030年頃にはテスラの事業価値の9割をロボタクシー(無人タクシー)が占めることになる」とコメント。また、低迷する中国事業について「テスラ株にとっては「短期的な打撃」に過ぎず、アークの目標株価が損なわれることはない」と述べた。

アークは「破壊的イノベーション」に特化したファンドを組成しており、自社のETF(上場投資信託)に組み入れている銘柄をホームページで公表している。それによると、旗艦ETFであるアーク・イノベーションETFの最大保有銘柄は依然としてテスラで、約60億ドルの運用資産全体のうち11%あまりを占めている。

【図表1】アーク・イノベーションETFの組入銘柄上位10社(2025年3月28日時点)
出所:アーク・イノベーションETFの資料より筆者作成

テスラのロボタクシー、6月にも運行開始か

テスラが1月29日に発表した2024年第4四半期(2024年10月-12月)は、売上高が前年同期比2%増の257億700万ドル、一方、純利益は前年同期比53%減の23億1700万ドルだった。2023年第4四半期は一時的な税額控除により利益が膨らんでいたため、比較すると大幅な減益となった。また、図表3で分かるように、AIなどの研究開発費を含む営業費用の増加で四半期の営業利益率は6%台前半となった。

【図表2】テスラの売上高と純利益の推移
出所:決算資料より筆者作成
【図表3】テスラの営業利益率
出所:決算資料より筆者作成

イーロン・マスクCEOは1月29日の決算発表後に開かれた投資家とのアーニングス・コールにおいて、6月にもテキサス州オースティンでロボタクシーの運行を開始する計画について言及した。マスク氏は「これは夢物語ではない。文字通りあと5ヶ月だ」と述べた。ロボタクシーは他の都市においても年内に運行がスタートする予定だ。

「最も先進的なAI開発企業」の座を見据えるテスラ

2024年末、テスラはFSD(フルセルフドライビング:完全自動運転)のバージョン13を北米でローンチした。テスラはFSDを含めたロボタクシーや人型ロボット、オプティマスなどAI分野への投資を加速させている。ハードとしてのEV製造だけではなく、AIを通じて新たな収益エコシステムを構築させ、自動運転市場でリーダーシップを確立することを見据えている。

決算発表資料によると、テスラは2024年第4四半期にテキサス州にあるギガファクトリーに5万個のエヌビディア[NVDA]のGPU、H100を用いた世界最大級のAIスーパーコンピュータクラスタ「Cortex(コルテックス)」の整備を完了した。FSDやオプティマスのようなAIアプリケーションで使用される複雑なニューラルネットワークをトレーニングするための大規模な計算を行う高度なインフラ設備である。

このことはテスラが他の自動車メーカーよりも競争力を高めるだけでなく、世界最速のスーパーコンピューターの1つを所有することを意味している。マスク氏は何年も前から、テスラが最も先進的なAI開発企業の一つだとの見方を示してきた。

【図表4】テスラの設備投資額
出所:決算資料より筆者作成

イーロン・マスク氏は人工知能の活用に向けた新時代を切り開こうとしている

2024年度の設備投資額は113億ドルだったが、2025年も100億ドルを上回るペースが続く見通しだ。マスク氏は以前、「自動車のために開発されたAI技術は、ヒューマノイド・ロボットにも十分に応用できる、なぜなら車は4つの車輪がついたロボットだからだ」と述べていた。そして、「テスラは間違いなくすでに世界最大のロボットメーカーであり、私たちは本当に未来をつくっている」とコメントしていた。

【図表5】テスラの現金残高の推移
出所:決算資料より筆者作成

2023年に世界で同時発売された伝記『イーロン・マスク』の著者であるウォルター・アイザックソン氏は、米Time誌に寄稿した記事「Inside Elon Musk's Struggle for the Future of AI(AIの未来をめぐるイーロン・マスクの闘いの内幕)」の中で、マスク氏によるさまざまな新興企業への投資や事業は一見バラバラに見えるが、それは「人工知能(artificial general intelligence)」、つまりAGIの活用に向けた新時代を切り開こうとするマスクの広範な計画の一部であると述べている。

過去10年にわたり、マスク氏は、テスラ、スペースX、ニューラリンク、X社(ツイッター)そしてxAIなど、技術革新の最前線にあるさまざまな企業の経営に携わってきた。X社(ツイッター)には長年にわたって投稿された1兆以上のツイートがあり、毎日5億件が追加されている。それはいわゆる人類の集合知であり、現実の人間の会話、ニュース、興味、トレンド、議論、専門用語の世界で最もタイムリーなデータセットである。

また、テスラ車の走行を通じて受信した1日あたり1600億フレームのビデオを持っている。これらは物理的なロボットのためのAIを作成するのに役立つ情報の宝となる。今後、自動運転ソフトウェアの性能がデータ量とそれを処理するスパコンの性能に依存することになれば、この分野の投資で先行しているテスラの競争優位が確立することになる。テスラは高性能な自動運転ソフトウェアを提供するプラットフォーマーとなりうる可能性を秘めているのだ。

石原順の注目5銘柄

テスラ[TSLA
出所:トレードステーション
エヌビディア[NVDA
出所:トレードステーション
ロク[ROKU
出所:トレードステーション 
ロブロックス[RBLX
出所:トレードステーション
コインベース[COIN
出所:トレードステーション