悪材料に対する「耐性の強さ」、S&P500とナスダックはともに2週連続で上昇
先週(7月6日週)の米国株式市場は、中東における地政学リスクの再燃、原油価格と米長期金利の上昇、半導体株の急落など、相場を崩しかねない材料が相次いだにもかかわらず底堅さを維持。週間ではS&P500が+1.23%、ナスダック100が+1.7%となり、ともに2週連続で上昇しました。
マーケットは先週(7月6日週)一直線に上昇したわけではありません。AI関連株への買い戻しで上向いた後、好決算を発表した韓国のサムスン電子まで売られ、半導体株全体に利益確定売りが広がるという展開となりました。好材料にもかかわらず株価が下落したことは、業績そのものよりも市場の期待値が先行していたことを示しています。さらに、米国とイランの攻撃再開を受けて原油価格が急騰し、長期金利も上昇しました。
通常であれば株式市場が大きく崩れても不思議ではない組み合わせでしたが、主要指数の下落は限定的でした。売りが一巡すると押し目買いが入り、週後半にはテクノロジー株を中心に切り返しました。悪材料に対する耐性の強さこそが、先週(7月6日週)のマーケットを理解するうえで最も重要な点と言えます。
一部銘柄への集中から幅広い業種へ、健全な資金ローテーションが特徴
このところのマーケットで注目すべき点は、AI関連株の調整そのものではなく、その背後で投資資金の受け皿が広がっていることです。過去1ヶ月を振り返ると、テクノロジー株の上昇が一服する一方、金融、資本財、ヘルスケアなどの業種は相対的に堅調に推移しました。これは、これまでのように一部の大型テクノロジー株だけが株価指数を押し上げる相場から、業績拡大が確認できる幅広い業種へと資金が移り始めていることを示しています。
実際、テクノロジー株が調整する局面でもS&P500が最高値圏を維持できたのは、相場を支える銘柄や業種の裾野が広がったためです。重要なのは、この動きをAI相場の終焉と捉えるべきではないという点です。むしろ、特定の大型株に過度に集中していた資金が、利益成長や業績改善の見込める他の業種へ再配分される、健全なローテーションと考えられます。
相場の上昇が少数の銘柄に依存する局面では、主力株の調整が市場全体の下落につながりやすくなります。一方、上昇銘柄や好調業種が広がれば、特定銘柄への依存度は低下し、市場全体の安定性は高まります。したがって、足元の変化はAI投資テーマの後退ではなく、AI関連株を中核に据えながら、景気敏感株やディフェンシブ株にも資金が広がる、より持続性の高い相場構造への移行とみています。
半導体・モメンタム株は週後半に切り返し、今回の下落は「過熱感の整理」か
半導体、メモリー、モメンタム株は週半ばまで大きく売られましたが、週後半には切り返し、結果的に週間ではプラスを確保しました。短期間に急騰していた銘柄から利益を確定する動きが重なった面が大きく、AI投資の長期成長シナリオが崩れたわけではありません。実際、フィラデルフィア半導体指数(SOX指数)も、50日移動平均線の上にあり、その水準で止まりつつあります。これは上昇再開の強い兆候です。
また、モメンタム株が5日間で7%以上下落した後は、中期的に高い確率で反発してきたというデータがあります。直近3年間に限れば、その後6ヶ月の成績は特に強くなっています。もちろん過去のパターンが将来を保証するものではありませんが、今回の下落は需要の崩壊というより、過熱したポジションの整理とみる方が自然です。
メタ・プラットフォームズ[META]が象徴するAI投資の裾野拡大
AI投資の裾野が、半導体メーカーだけでなく、このところ売られていたプラットフォーマー企業にも広がり始めていることを象徴したのが、メタ・プラットフォームズ[META](以下メタ)です。先週(7月6日週)の株価は約15%上昇し、7月10日(金)だけでも6%高となりました。
これまで市場では、巨額のAI設備投資が短期的な利益率を圧迫するとの懸念から、メタをはじめとする大手プラットフォーマー企業に慎重な見方が広がっていました。しかし、足元では、AI投資を単なるコストではなく、将来の収益源として評価し直す動きが強まっています。
メタは独自AI半導体の開発を進める一方、膨大な計算資源を自社サービスの高度化に利用するだけでなく、外部企業へ提供して収益化する可能性も示しました。つまり、AIインフラへの投資が広告事業の競争力向上にとどまらず、新たなインフラ事業へ発展する可能性があるということです。
ザッカーバーグCEOは最近のインタビューで、業界内で「計算能力を持ちすぎている」と感じている経営者を知らないと述べました。この発言は、AI需要に対して計算資源がなお不足しており、積極的な設備投資には十分な経済合理性があるとの見方を示したものです。
マーケットが好感したのは、設備投資の規模そのものではありません。巨額のAI投資を自社の成長に活用するだけでなく、外部への提供を通じて投下資本の回収手段を増やせる可能性が示されたことです。メタの株価上昇は、AI相場の主役が半導体株に限らず、これまで売られていた大手プラットフォーマー企業にも再び広がり始めたことを示しています。
アップル[AAPL]とブロードコム[AVGO]提携延長のインパクト
また、アップル[AAPL]はブロードコム[AVGO]との半導体提携を2031年まで延長し、米国内でネットワーク通信用ASICを増産する計画です。AIの主戦場はGPUだけでなく、カスタム半導体、ネットワーク、メモリー、データセンター運用へと着実に広がっています。こうしたなか、しばらく株価が伸び悩んでいたアップルは、先週(7月6日週)、史上最高値を更新しました。
過去最大級の歴史的案件、SKハイニックスの米国上場
その流れを象徴する最大の出来事が、SKハイニックスの米国上場です。同社は1億7800万ADRを公開価格149ドルで売り出し、調達額は約265億ドルに達しました。外国企業による米国での株式売り出しとして過去最大級で、2014年のアリババ上場を上回る歴史的案件です。
初値は170ドル前後と公開価格を大きく上回り、韓国市場の原株に対して約18%のプレミアムが付いたにもかかわらず、強い需要を集めました。韓国市場では外国人投資家による取得に制約があるため、米国ADRの登場によって、世界の機関投資家が同社へ直接投資しやすくなった意義は極めて大きいと考えます。
SKハイニックスの最大の強みはAIのボトルネックを解消する「HBM」
SKハイニックスの最大の強みは、単なるメモリーメーカーではなく、AI向け高帯域幅メモリー(HBM)の世界的リーダーであることです。HBMは、複数のDRAMを縦に積み重ねることで、大量のデータを高速で処理できるようにした高性能メモリーです。生成AIの学習や推論では、GPUの数を増やすだけでは十分ではありません。GPUに必要なデータを高速で送り続けなければ、本来の処理能力を引き出せないためです。
このデータ供給のボトルネックを解消するのがHBMです。エヌビディア[NVDA]のAIアクセラレーターにとっても欠かせない中核部品であり、AIサーバーの性能が高まるほど、1台当たりのHBM搭載量も増えていきます。そのため、AIサーバーの出荷台数以上のペースで、HBM需要が拡大する構造にあります。
つまりSKハイニックスは、AI設備投資の拡大を最も直接的に取り込める企業の一つといえます。
同社株は韓国市場で過去1年間に大きく上昇しましたが、米国上場時点でも、市場予想利益に対する株価収益率は約7倍程度にとどまっています。高い成長性を考えれば、米国の主要AI半導体銘柄と比べても、なお評価が切り上がる余地が残されている可能性があります。米国上場によって投資家層が広がり、オプションや関連ETFなどの取引手段が整えば、売買の流動性が高まり、バリュエーションの見直しにつながることも期待されます。
さらに経営陣は、メモリー不足が2030年以降も続く可能性を示しています。これは現在の需要の強さが、単なる半導体景気の一時的な上昇局面ではなく、AIインフラ拡大に伴う構造的な変化であることを示唆しています。
今回の米国上場は、単なる大型IPOではありません。AI相場の主役がGPUだけでなく、HBMを含む高性能メモリーへと広がる転換点です。これは、AI半導体相場の次の上昇波が始まりつつあることを示す、強いシグナルとみています。
短期的な最大リスクは原油価格と金利の動向、米大手銀行の決算発表にも注目
一方、短期的な最大のリスクは原油価格と金利です。米国とイランの攻撃再開を受け、ブレント原油は一時1日で5%超上昇しました。原油高が長引けば、ガソリン価格や輸送費を押し上げ、インフレ再加速と長期金利上昇を通じて株価のバリュエーションを圧迫します。
先週(7月6日週)発表されたFOMC(米連邦公開市場委員会)議事要旨でも、商品価格や供給制約によるインフレ上振れへの警戒が示されました。ただし、週後半には原油価格が反落し、株式市場も持ち直しました。現時点では地政学リスクは上昇トレンドを転換させる要因というより、日々の値動きを増幅する要因と言えます。
今週(7月13日週)から、2026年4~6月期決算の発表が本格化します。例年どおり、まず先陣を切るのは米大手銀行です。
7月14日にはジェイピー・モルガン・チェース[JPM]、シティグループ[C]、ゴールドマン・サックス[GS]、翌15日にはモルガン・スタンレー[MS]が決算を発表します。これらの銀行では、前年同期比で売上高・利益ともに力強い伸びが見込まれています。今後、イールドカーブのスティープ化が進めば、純金利マージンや貸出スプレッドは2027年に向けて改善する可能性があります。加えて、資本市場業務、トレーディング、資産運用部門の成長も期待されており、銀行株を取り巻く事業環境は総じて良好とみられます。
また、今週(7月13日週)は銀行決算に加え、インフレ指標にも注目が集まります。7月14日には6月の消費者物価指数(CPI)、翌15日には生産者物価指数(PPI)が発表されます。
