スペースX[SPCX]、売上成長と収益改善が同時に進行
スペースX[SPCX]が上場後初の決算発表を行いました。ひと言でいえば「予想以上に伸び、赤字も縮小した」内容でした。売上高は約78億ドルと市場予想を上回り、前年同期からほぼ倍増しました。純損失も前年の約半分まで縮小し、調整後EBITDAは大きく増加しています。細かな数字以上に重要なのは、売上成長と収益改善が同時に進んだことです。
それでも、株価は時間外取引で約7%下落しました。最近の投資家は決算発表に対する評価が非常に厳しく、好決算は「出て当然」と受け止められ、期待を大幅に上回る内容でなければ売られやすい傾向があります。今回、市場が警戒したのも足元の業績そのものではなく、今後予定されている投資額の大きさだったといえるでしょう。
四半期の設備投資は約184億ドルに達し、その大部分がAIコンピュート(AIモデルを学習・推論させるための計算能力と、その計算を提供する設備・サービス全体)向けでした。つまり、足元の事業は強い一方、将来の成長を取りに行くための資金投入も極めて大きく、その重さが株価を押し下げました。
もっとも、設備投資が大きいこと自体が直ちに悪いわけではありません。経営陣は、AI設備への投資を1年未満で回収できると説明し、すでに追加の大型契約も獲得しています。今後の焦点は、投資額の多寡ではなく、契約、稼働率、価格を通じて本当に短期間で回収できるかです。
利益を生んでいるのはスターリンク
現在のスペースXで利益を生んでいるのは、ロケットではなくスターリンクです。スターリンク(Starlink)とは、スペースXが運営する地上から比較的近い低軌道に多数の小型衛星を配置し、利用者のアンテナと衛星を直接つなぐ高速インターネット通信サービスです。
スターリンクを主とする通信部門の売上高は約43億ドルまで拡大し、営業黒字を拡大しました。一方、宇宙部門とAI部門は依然として赤字です。つまり、スターリンクが稼ぎ、その利益をスターシップとAIへ再投資する構造が鮮明になっています。
スターリンク加入者は約1,200万人に達し、第2四半期だけで170万人超が純増しました。平均単価は横ばいでしたが、より重要なのは、法人、航空会社、政府・防衛分野の売上が急速に伸びていることです。今後は加入者数だけでなく、高付加価値の法人・政府需要が利益率をどこまで押し上げるかが焦点になります。
特に航空市場では、アメリカン航空との大型契約に加え、サウスウエスト航空、ヴァージン・アトランティック航空、イベリア航空、エアリンガスなどでサービスを開始、または予定をしています。
経営陣によれば、航空市場での浸透率はまだ10%未満です。スターリンクはこれまで、通信環境の悪い地域を補うサービスとして見られてきました。しかし現在は、航空機、船舶、企業拠点、政府機関で、予備回線ではなく主要な通信回線として採用され始めています。これは事業の質が一段変わったことを意味します。
スターシップはロケットではなく、すべての事業を変える基盤
今回、コンファレンスコールでマスクCEOが最も強く語ったのはスターシップでした。スターシップは、スペースXが開発する大型の完全再使用型ロケットで、人や大量の貨物を月・火星・地球周回軌道へ運ぶことを目指しています。
直近の試験飛行は相次いで成功し、次回はスターリンクV3衛星を実運用軌道へ投入する計画です。スターリンクV3とは、V2より通信能力が約10倍高い次世代衛星で、スターシップによる大量打ち上げを前提に設計されています。
衛星数と性能の拡大により、ネットワーク全体の提供帯域を大幅に増やすことを目指しています。
さらに、早ければ次回飛行で宇宙船のタワー・キャッチ(発射塔の巨大なアームで、帰還したスターシップやスーパーヘビーを空中で受け止める回収方式)を試み、年内には機体全体の再使用化へ大きく近づくことを目指しています。
現在、スペースXが年間に軌道へ運ぶ物量は約2,500トンです。マスク氏は、スターシップによって将来これを100万トン規模、最終的には1,000万トン規模へ拡大する構想を示しました。重要なのは数字の大きさそのものではなく、輸送能力が桁違いに増えることで、宇宙工場、月面輸送、軌道上データセンターなど、これまで採算が合わなかった市場が初めて成立し得ることです。
マスク氏はさらに、1年後には少なくとも1日1回、場合によってはそれ以上の頻度でスターシップを飛ばす可能性に言及しました。実現すれば、ロケットは受注ごとに製造して打ち上げる特殊製品ではなく、航空機に近い高頻度運航インフラへ変わります。スペースXの企業価値をロケット会社の売上倍率だけで測れない理由は、ここにあります。
スターリンクV3がもたらす通信容量の飛躍
スターシップの実用化は、そのままスターリンクの成長加速につながります。V3衛星は現行世代より大幅に高性能で、打ち上げ数も増えるため、経営陣は通信容量が最終的に約100倍へ拡大する可能性を示しました。これにより、利用者を増やしながら速度を改善し、より高付加価値のサービスを提供できるようになります。
ただし、V3の効果が利用者に本格的に表れるには、一定数の衛星を軌道へそろえる必要があります。経営陣は2027年第2四半期ごろを一つの節目としています。したがって投資家が見るべきなのは、発表ではなく、スターシップの飛行頻度とV3衛星の実際の投入ペースです。
マスク氏は「10年以内にスターリンクが世界のインターネット通信の過半を担う可能性がある」と述べました。非常に大胆な発言ですが、AI、ロボット、自動運転車が常時大量のデータを送受信する時代になれば、世界の通信需要そのものが現在とは比較にならないほど大きくなります。スターリンクの狙いは、既存通信会社の一部を置き換えることではなく、AIとロボティクス時代の世界通信網を押さえることだと考えるべきでしょう。
携帯電話事業にも直接参入
スターリンク・モバイルも具体化しています。スペースXはNTTドコモ、Sparkなどとの提携を進め、EchoStarから取得する周波数帯を活用して、2027年末までの単独モバイルサービス開始を目指しています。
これまでの衛星直接通信は、圏外地域での緊急メッセージなど、限定的な機能が中心でした。スペースXが狙っているのは、それを通常の音声・データ通信へ拡張し、衛星と地上局を組み合わせて圏外を実質的になくすことです。成功すれば、スターリンクは固定ブロードバンド、航空・船舶通信に加え、携帯通信市場にも参入します。世界の通信インフラに対するスペースXの存在感は、さらに大きくなります。
AIコンピュートは新たな収益源に
AI事業は、売上高が前年同期の3倍を大きく超えるペースで拡大し、調整後EBITDAも黒字へ転換しました。まだ営業赤字ではあるものの、外部企業へ計算能力を貸し出すクラウド事業が立ち上がり、AI投資が将来構想から実際の売上へ変わり始めたことが確認できました。
コンピュート能力は現在約1.4GWで、年末に2GW超、2027年末には10GWに近い水準を目指しています。今後はエヌビディア[NVDA]のVera Rubinへ一本化し、設備の拡張速度と運用効率をさらに高める方針です。
重要なのは、計算能力の大半を自社のGrokだけでなく、外部顧客にも提供できる点です。高い稼働率を維持できれば、AIコンピュートはスターリンクに続く第二の大きな収益源になり得ます。一方で、需要や価格が弱まれば、巨額設備投資はすぐに重荷へ変わります。
一方で、AI設備投資には明確なリスクがあります。GPUの供給不足が解消し、クラウド価格が下落すれば、現在の高い収益性は維持できないかもしれません。
また、短期間で設備を増やすほど、電力、冷却、ネットワーク、資金調達の負担も増します。AI事業の評価では、売上高成長率だけでなく、設備稼働率、契約期間、投資回収期間が本当に1年未満を維持できるかを確認する必要があります。
軌道上データセンターは実証段階へ
さらにスペースXは、エヌビディアの計算装置を搭載したSTARMIND AI衛星を2027年から打ち上げる計画です。これは、太陽光を使って宇宙空間でAI計算を行う「軌道上データセンター」の第一歩です。遠い未来の構想ではなく、実証段階へ進もうとしている点が重要です。
宇宙には、太陽光発電を長時間利用できることや、地上の土地・送電網制約を回避できる利点があります。一方、放射線、冷却、修理、デブリ、通信遅延、打ち上げコストなど、解決すべき問題は多くあります。したがって、現時点で軌道上データセンターの利益を企業価値へ全面的に織り込むのは危険です。
しかし、スターシップによって大量の機材を安く運び、スターリンクでデータを伝送し、エヌビディアの計算装置を運用するという組み合わせを実行できる企業は、現状スペースX以外にほとんどありません。
マスク氏の発言からみえるスペースXの自己認識
今回の説明会では、マスク氏らしい大胆な発言が相次ぎました。スターリンクが10年以内に世界のインターネットの過半を担う可能性、スターシップが毎日飛ぶ未来、宇宙輸送能力が桁違いに増える構想です。数字は壮大ですが、重要なのは、それらが単なる夢ではなく、現在の設備投資と工程表を決める前提になっていることです。
しかしスペースXでは、遠い将来の目標が、現在の設備投資と事業統合を決める出発点になっています。スターシップを作る理由は、ロケット販売を増やすためではありません。大量のスターリンク衛星とAI衛星を安く運ぶためです。
スターリンクを拡大する理由は、通信収入だけではなく、AI、ロボット、自動運転車を常時接続するためです。AIコンピュートを増強する理由は、Grokを育てるだけではなく、外部顧客へ貸し出し、将来は宇宙へ運ぶためです。
このように事業が互いを支えることが、スペースXの最大の魅力です。同時に、どこか一つが遅れると全体へ影響することが最大のリスクでもあります。スターシップが遅れればV3衛星が遅れ、スターリンクの容量増加が遅れます。AI需要が弱まれば巨額設備投資の回収が遅れます。したがって、マスク氏の発言は夢として聞くだけでなく、どの発言が具体的な工程表と契約へ切り替わっていくかを見極める必要があります。
ロックアップ解除は、企業価値ではなく株式の需給を動かす
ここで、短期的な株価リスクとして、ロックアップ解除に触れておく必要があります。8月6日から「ロックアップ」の解除が始まります。実は、最近スペースXの株価が弱含んでいた主な理由の一つが、このロックアップ解除への警戒です。
IPOでは、社員、創業者、初期投資家などが、一定期間、保有株を市場で売却できない契約を結びます。その制限が解除されると、それまで売却できなかった株式が市場に出てくる可能性があります。
マーケットでは、ロックアップ制限の解除が始まり、大量の株式が市場へ流入する可能性が懸念されています。スペースXの社員や初期投資家の多くは、大きな含み益を持っていると考えられます。会社の将来を信じていたとしても、納税、住宅購入、資産分散、生活設計などのために、一部を売却するのは自然なことです。
したがって、内部者による売却を、直ちに会社の将来に対する弱気の表れと解釈するべきではありません。8月6日(木)には、約9億1,100万株、発行済み株式全体のおよそ20%に相当する株式が売却可能となります。
比較のために説明すると、スペースXがIPOで売り出した株式は約6億2,900万株でした。今回のロックアップ解除によって、市場で取引可能な浮動株が大幅に増える可能性があり、その後も2027年6月まで段階的に増加していく見通しです。
一方、空売り投資家も、さらなる株価下落に賭けています。現在、スペースXの空売り残高は、公開浮動株の約32%に相当します。空売り残高が高い銘柄では、悪材料が出た際に新たな売りを呼び込み、株価下落に拍車がかかる可能性があります。反対に、好材料が発表された場合には、空売り投資家による買い戻し、いわゆる「ショートカバー」が集中し、株価上昇を加速させる要因にもなります。
ロックアップ解除により株式が市場に出てくることが、必ずしもネガティブとは限りません。浮動株が増えれば、株価指数への採用や指数内での組入比率の上昇につながる可能性があります。実際に指数へ採用された場合には、パッシブファンドなどから機械的な買い需要が発生するからです。
スペースXへの投資、向こう半年程度の時間分散が合理的
「未来成長枠」として位置づけ、複数の局面に分けて投資を
以前、マネクリの「億万長者を生んだスペースX IPO――次に株価を動かす4つの材料」で執筆した通り、スペースXについては、最初から大きなポジションを作るのではなく、今後3ヶ月から半年程度をかけ、時間を分散しながら少しずつ買う方法が合理的だと考えます。
今回の決算を受けても、この考え方は変わりません。むしろ、AI関連の設備投資の大きさとロックアップ解除を考えれば、時間分散の必要性は一段と高まったと言えます。
買うタイミングを一つに決める必要はありません。決算後の株価調整、ロックアップ解除の前後、スターシップの次回飛行、V3衛星の実運用への投入、次回の決算発表など、異なるイベントの後に少しずつポジションを増やす方法が考えられます。
株価が上昇した日に焦って買うのではなく、複数の局面に分けて投資することで、短期的なFOMO、つまり「乗り遅れることへの恐怖」に巻き込まれるのを避けることができます。また、これも以前述べましたが、スペースXは生活資金やポートフォリオの中心となるコア資産ではなく、「未来成長枠」として位置づけるのが現実的です。
アルファベット[GOOGL]、マイクロソフト[MSFT]、アップル[AAPL]のように、すでに安定した利益とキャッシュフローを生み出している企業とは異なります。スペースXの企業価値には、まだ実現していないスターシップの高頻度運航、世界規模の衛星通信、携帯通信、AIコンピュート、軌道上データセンターなどの可能性が織り込まれています。
期待が大きい分、計画が遅れたり、技術的な失敗が起きたりした場合の株価下落も大きくなる可能性があります。
保有期間は四半期ではなく10年単位でみる
スペースXの本質は、次の四半期の利益が何%増えるかということではありません。スターシップによって宇宙輸送コストを引き下げ、スターリンクによって世界中を接続する。その通信網をAIやロボットが利用し、さらにAI計算設備を宇宙へ運ぶという長期構想にあります。
これらが完成するまでには、5年、10年、場合によっては20年かかる可能性があります。したがって、保有後に毎日の株価を追い続けるよりも、事業の節目を確認する方が重要です。具体的には、スターシップのタワーキャッチ(回収技術)と再飛行、Starlink V3衛星の投入数、スターリンクの加入者数、法人・政府向け売上高、モバイルサービスの商用化、AI設備の稼働率と投資回収期間などを追う必要があります。
これらが着実に前進している限り、短期的な株価下落だけで投資判断を変える必要はありません。
反対に、株価が上昇していても、技術開発や事業の進捗が止まっているのであれば注意が必要です。
今回の決算は、スペースXが単なるロケット会社ではなく、宇宙輸送、通信、モバイル、AIコンピュート、軌道上インフラを一つの企業内で結び付ける、次世代インフラ企業へ移行していることを示しました。
同時に、その構想を実現するためには、前例のない規模の資本投下と、複数の技術的成功が必要です。結論として、短期的な株価変動には時間分散で対応し、保有後はスターシップ、Starlink V3、モバイル、AIコンピュートの進展を10年単位で追うべきだと考えます。スペースXへの投資は、誰も見たことのない世界への投資なのですから。
最後に参考までに、現時点でスペースXをカバーするウォール街のアナリスト35人の平均目標株価は223.89ドルとなっています。投資判断の内訳は、「買い」が77%、「ホールド」が18%、「売り」が5%であり、アナリストの見方は総じて強気です。
