2026年末のS&P500目標を、従来の7,700ポイントから8,000ポイントへ引き上げます。ただし、そこへ向かう道のりは平坦ではありません。企業利益が相場を支える一方、8~10月には大きな揺れが起こり得ます。
年末8,000ポイントという数字だけを聞くと、楽観的すぎると感じる方もいるかもしれません。しかし、この水準は2027年の予想EPS(1株当たり利益)403.8ドルの約20倍です。利益成長が想定どおり進めば、PERの過度な上昇に頼らず到達できる水準だと考えています。
動かないS&P500の裏で進む「主役交代」
まず、足元の相場を指数の表面だけで判断しないことが重要です。例年8月は市場参加者が減りやすく、薄い出来高の中で小さな売買が値動きを大きく見せることがあります。短期の上下だけを追うと、相場の本当の変化を見落としかねません。
S&P500は2026年6月2日の取引期間中に7,620.9ポイントで史上最高値を更新した後、7,500ポイント前後で推移してきました。一見すると、相場は足踏みしているように見えます。ところが水面下では、資金が大型テクノロジー株から中型株、小型株、別の業種へと移り、主役交代が進んでいます。ここで個人投資家に知っていただきたいのは、「S&P500が動かないこと」と「米国株全体が動かないこと」は同じではない、という点です。
一般に報道されるS&P500は時価総額加重指数であり、巨大企業の値動きが指数を大きく左右します。一方、S&P500均等加重指数では500社を同じ比率で組み入れるため、企業規模にかかわらず一社一社の動きが同じ重みで反映されます。
この二つを並べると、相場の裾野がどこまで広がっているかが見えてきます。大型株が調整して指数を押し下げていても、その裏側で中型株や小型株が静かに上昇していることがあるからです。
2026年7月末までの騰落率は、通常のS&P500が+9.41%、S&P500均等加重指数が+12.1%、ラッセル2000が+18.11%でした。ニュースの主役は大型株でも、実際の上昇はより幅広い銘柄へ広がっています。これは年末に向けた相場の土台が、大型株数社だけに依存していないことを示しています。
株価が上昇しても、PERは低下する
次に、株価が高いのかどうかをPERで確認します。図1の通り、2025年に25.6倍だったS&P500のPERは、2026年には21.0倍、2027年の予想EPSを基準にすると18.4倍、2028年には16.3倍へ低下する見通しです。株価が上昇しても、それ以上のペースで利益が伸びれば、評価倍率はむしろ落ち着きます。
米国株には長らく「割高」という印象が付きまとってきました。しかし、ブルームバーグ集計の2027年予想EPSを使うと、日経平均の予想PERは20.8倍で、S&P500の18.4倍を上回ります。利益予想を基準にすれば、米国株だけが突出して割高だとは言いにくくなっています。
AI相場を支えるのは「期待」ではなく「利益」
AI相場はすでにバブルの終盤なのでしょうか。私は、今回のAI投資サイクルはまだ前半にあると考えています。AIを中心とした株価の上昇が、引き続きS&P500を押し上げていくと考えています。生成AIの普及に続き、目標に向かって自律的に行動する「エージェント型AI」が本格化し始めました。さらに、自動車やロボットなど現実世界で動く機器にAIを組み込む「フィジカルAI」は、投資機会としてまだ入口に立った段階です。
AIバブルとドットコムバブルとの違い
もっとも、「新しい技術だから株価は上がり続ける」という説明だけでは不十分です。見極めるべきなのは、株価上昇を支えているのが期待なのか、それとも実際の企業利益なのかです。
ITブームが頂点に近づいた1999年、S&P500のPERは29.5倍まで上昇しました(図表2)。その後、市場は2000年3月にピークを付け、およそ3年間下落しました。当時は利益の伸び以上にPERが拡大し、期待が株価を先に押し上げていました。
現在は状況が異なります。S&P500のPERは21.0倍で、2027年には18.4倍、2028年には16.3倍へ低下する見通しです(図表1)。つまり、今回の上昇を支えている主役はPERの拡大ではなく、企業利益の成長です。
S&P500構成企業のEPS成長率は29%へ上方修正
決算が強気シナリオを支える
その利益成長は、単なる予想にとどまりません。第2四半期決算では、S&P500構成企業の61%が発表を終え、そのうち86%が市場予想を上回るEPSを報告しました。これは5年平均の78%、10年平均の76%をいずれも上回る水準です。仮に86%で着地すれば、2021年第2四半期の87%以来の高水準となります。
ただし、決算を見るときに「予想を上回った企業の数」だけを追うのは十分ではありません。より重要なのは、決算を通じて市場全体の利益見通しが引き上げられているかどうかです。
第2四半期の利益成長率は、決算発表前には前年同期比+23.2%と予想されていました。それが7月30日時点では+29%へ上方修正されています。企業が期待を上回り、その結果として市場全体の利益予想も切り上がっている。この流れこそ、年末8,000ポイントを支える最も重要な材料です。
指数の水準だけを見れば、高値警戒感が出るのは自然です。しかし、利益予想が株価以上のペースで伸びれば、PERは低下します。現在の相場では、株価上昇と割高感の後退が同時に起きているのです。
大幅下落は、成長物語の終わりなのか
ここまでの話だけを聞けば、相場は順調に見えるかもしれません。けれども、AI関連株の値動きは決して穏やかではありません。「成長期待は大きすぎないか」「巨額投資は本当に利益につながるのか」という疑念が浮かぶたびに、関連銘柄は大きく売られます。
ただ、大幅な下落と長期成長シナリオの崩壊は同じものではありません。株価が何%下がったかだけでなく、利益見通しが下方修正されたのか、PERがどこまで変化したのかを分けて考える必要があります。
シスコが経験した「上昇途中の急落」
1990年代のITブームを代表したシスコシステムズ(CSCO)は、1994年以降の上昇過程で40%程度の調整を2回経験しました。長期テーマが正しくても、株価は一直線には進みません。市場は期待を先取りし、行き過ぎれば修正し、業績を確認して再び前へ進むからです。
投資家にとって大切なのは、下落の大きさに反応して結論を急がないことです。利益見通しと評価倍率が保たれているなら、価格調整はテーマの終焉ではなく、期待の過熱を冷ます過程かもしれません。期待の修正、利益確定、金利上昇。どれも魅力的な成長株を一時的に大きく押し下げます。だからこそ、株価だけでなく、その背後にある利益の変化を見る必要があります。
マイクロン・テクノロジー[MU]の評価は利益の回復を映す
大幅な下落と長期成長シナリオの崩壊は同じものではないという典型例として、直近のメモリー半導体株で中心的な存在だったマイクロン・テクノロジー[MU]も挙げられます。2022年11月のChatGPT公開をAIブームの起点とすると、マイクロン株はその後、直近高値から平均約15%下落する調整を繰り返してきました。2025年のトランプ関税を巡る局面では58%、直近の半導体株上昇後には約41%下落しています。
これほど下がれば、「AI相場は終わった」と感じるのも無理はありません。しかし、成長相場の途中で40%前後の調整が起きること自体は、歴史的に見て例外ではありません。
マイクロンは2022年にPER974.6倍で取引され、2023年には赤字となりました。しかし、その後は業績が急回復し、PERは2024年に11.5倍、2025年に9.2倍へ低下しています。2026年の予想EPSを使ったPERは12.0倍、2027年予想では5.7倍です。株価が上昇してきたにもかかわらず、利益の伸びによって評価倍率は低位に保たれています。
メモリー半導体やデータセンター関連部品の供給制約は、少なくとも2028年まで続く可能性が高いとみています。需給環境と利益見通しが維持されるなら、足元の株価調整には相当部分の悪材料がすでに織り込まれた可能性があります。
年末8,000ポイントへの道を阻む3つのリスク
もちろん、年末8,000ポイントという見通しにリスクもあります。企業利益が強くても、金利や原油価格が急上昇すれば、相場の評価は短期間で変わります。特に注視すべきなのが、FRBの金融政策と中東情勢、そして、11月の中間選挙です。
インフレの粘着性が続き、金融緩和への期待が後退すれば、長期金利が上昇し、株式のPERには下押し圧力がかかります。企業業績が好調でも、金利上昇によるバリュエーション圧縮が利益成長の効果を相殺する可能性があります。
イラン情勢も予断を許しません。原油価格が再び上昇すれば、インフレ期待と長期金利を押し上げます。その結果、企業の好決算が続いても、株式市場全体の上値が抑えられる可能性があります。
季節性の影響も、8~10月の調整をどう受け止めるか
そして、もう一つ忘れてはならないのが季節性です。8月から10月は、S&P500にとって一年の中で最も不安定になりやすい3ヶ月間です。
1928年以降のデータでは、この期間は年間で最もパフォーマンスが弱い傾向があります。上昇する確率そのものは55%ですが、平均リターンはマイナス0.02%で、ほぼ横ばいです。数字が示しているのは、「必ず下がる」ということではありません。むしろ、上昇する年も半分以上あります。ただし、下がるときの値幅が大きいことが、この時期の特徴です。
実際、下落したケースに限ると、平均下落率はマイナス7.35%です。これは一年の中で最も大きな下落幅です。下落率の中央値もマイナス4.94%で、こちらも年間を通じて最も厳しい数字となっています。したがって、8~10月にボラティリティが高まり、大きな調整が起きることは、あらかじめ投資計画に織り込んでおくべきです。
2026年、この季節にマーケットが荒れるとすると、11月の中間選挙を意識してのことでしょう。それは、議会の多数派が変わる可能性があり、税制・規制・政府支出などの見通しが不透明になるからです。
また、この季節性にはもう一つの側面があります。夏から秋の調整は、その後の年末ラリーに先行する傾向があるのです。11月から翌年1月までの3ヶ月間の平均リターンはプラス3.54%で、一年の中で最も強い期間です。
つまり、8~10月の下落を見て相場の終わりと決めつける必要はありません。企業利益の上昇シナリオが維持されているなら、その揺れは年末から翌年に向けた投資機会になり得ます。大切なのは、下落を予言することではなく、下落が来ても行動を誤らない準備をしておくことです。
