>>前編:【古澤満宏氏インタビュー前編】「為替介入リスク」で米ドル/円相場は当面150円台前半~半ばの推移か、実質実効為替レートベースでは行き過ぎた円安
注目されるFRBの「次の一手」
吉田:では、続いて米国の金融政策についてうかがいます。FRBは2025年9月から3回連続で利下げを実施しました。しかし、年が明けた2026年1月のFOMC(連邦公開市場委員会)では、さらなる利下げを見送りました。先ほどもお話にありましたが、米国経済はかなり強いですよね。
古澤氏:主要国の中では依然として相対的に強いですね。
吉田:そうなると、FRBの「次の一手」は、利下げを続けるのか、あるいは状況次第で利上げに転換するのか、どちらになるとお考えですか?
古澤氏:FRBは2026年5月にパウエル議長から、元FRB理事のケビン・ウォーシュ氏に交代します。これまで、トランプ米大統領が事あるごとに利下げしろ、利下げしろと言い続けている中で、FRBの議長に就任するわけですから、さすがに一度も利下げをしないというのはないんじゃないでしょうか。
トランプ米大統領は、新議長を決めるのに候補者との面接をしていますが、その面接でまさか経済のイロハを聞いたわけでもないでしょう。「利下げをするか」という問いに対して、その答えを聞いたうえで選出したはずです。
吉田:トランプ氏が大統領の座に就いている限り、2026年も利下げ方向であることに変わりはないということですね。
古澤氏:何回利下げに踏み切るのかはわかりませんが、当面の利下げ方向は変わらないでしょう。
吉田:2025年は「トランプ関税」が世界経済をかき回しました。現在、「トランプ関税」が違法か違法ではないかについて、米最高裁の判決が出るのを待っているわけですが、一向に判決が出ません。早ければ、2025年末にでも判決が出ると言われていたのですが……かなり遅れていますよね。ご専門外かもしれませんが、なぜこのように判決が遅れているのか、またトランプ関税が違法かそうでないかについても、可能ならご意見をうかがえますか。
古澤氏:なにも確証はありませんが、なぜ判決が遅れているかについては、おそらく最高裁の中でも意見が割れているからでしょう。違憲かそうでないかについても、私個人では判断しかねるところですが、仮に違憲の判決が出たとしても、トランプ米大統領はあの手この手を使って関税を徴収しようとしてくると思います。ただ、実際に徴収した関税を返すとなると、相当な混乱が生じるのは間違いないでしょうね。とはいえ、やはり私の知見が及ばない部分です。
日本の長期金利は2.5%を超える展開もあり得る
吉田:次に、日本の長期金利の動向、見通しについてご意見をうかがえればと思います。ここ1ヶ月ほど、日本の長期金利は歴史的な上昇となり、2026年1月20日には長期金利の指標となる10年物国債の利回りは、一時2.3%台半ばまで上がりました。その後は2.2%台半ばまで下落していますが、2026年の長期金利はどれくらいの水準まで上がるとお考えでしょうか。
古澤氏:私は、2.5%は超える可能性はあるのではないかと考えています。ただ、さすがに3%までいかないと思いますが。
長期金利は、市場が想定する将来の政策金利と、タームプレミアム(短期債の代わりに長期債を保有することで得られる追加の利回り)で決まります。「消費税は下げるけど、その財源の見込みがつかない」とか「国債の発行額が増えて需給が悪化する」などが原因で財政懸念が高まり、将来の経済の不確実性が高まれば、タームプレミアムは上がるでしょう。
吉田:日本の債券市場の暴落、長期金利急騰の歴史を振り返ると、1990年代後半の「資金運用部ショック」が思い起こされます。1998年、「当時の大蔵省(現財務省)の資金運用部が国債の買い入れを停止する」と伝わり、10年物国債の利回りは1%未満から、たった数ヶ月で2.5%をうかがう水準まで急騰しました。
当時、2.5%は「限界ライン」とされ、このラインを超えると金融機関の経営破綻が続出するのではないかと言われていましたが、この金利急騰をストップしたのが、1999年2月の日銀のゼロ金利政策。当時のことをいまでもよく記憶しているのですが、日銀がゼロ金利政策を取ったことで、金利の上昇はピタっと止まりました。
当時とは時代も経済状況も大きく変わっているので、現在も2.5%が「限界ライン」なのかはわかりませんが、いまの「2.5%は超えるのでは」という見方をうかがったことで、2.5%を超える金利上昇が経済や民間企業に与える悪影響、たとえば金融機関や民間企業の破綻につながるのではないかと考えてしまうのですが、いかがでしょうか。
古澤氏:一般的に考えれば、金利が上昇すれば企業の資金調達コストは上がりますし、国債を保有している金融機関は含み損を抱えるということになりますから当然、経済への影響は出てくるでしょう。
吉田:そうなると、先ほどの「資金運用部ショック」による金利急騰をゼロ金利政策でストップしたように、「どのように金利上昇を抑えるのか」という話になると思いますが、現状で金利上昇を止める手段はあるのでしょうか。
古澤氏:実際にそう動くかどうかはわかりませんが、2025年12月、植田和男日銀総裁は衆院予算委員会で「通常の動きと異なる形で、急激に金利が上昇するような例外的な状況では、国債買い入れの増額などを機動的に実施する」と言っていましたし、金利上昇を止める方法はあるでしょう。
吉田:国債の買い入れオペで金利上昇は止まるでしょうか?
古澤氏:2013年の「異次元の金融緩和」実施以降、日銀は国債の買い入れを続けた結果、長期金利はベタっと大底に張り付いていたわけです。2024年7月以降は買い入れ額を減らしてきましたが、一番の国債の大口所有者が「やるぞ」となれば、それなりのインパクトはあるでしょう。
吉田:なるほど。今回も、金利上昇を止める手段はあるということですね。
古澤氏:私はそう思います。ただ日銀のアクションはあくまでは緊急避難的なものですから、より重要なのは財政悪化懸念や国債需給悪化懸念を払拭できる政策を明示するということでしょう。
2026年も日米の株高は継続する可能性が高いと考える理由
吉田:株式相場の動向についても聞かせてください。この1、2年、「米国市場はAIバブル状態」と言われ続けてきましたが、一向にバブルは崩壊せず、株式相場は上昇を続けています。「いつバブルが弾けるのか」については見極めるのが難しいと思いますが、米国相場を中心とした世界的な株高は、2026年も続くと思われますか?
古澤氏:株式は専門外なのであまり踏み込んだ話はできませんが、世界中で金余りの状況が続いていることを考えると、私はまだ株高が続くのではないかと思います。肝心なのは、「余った資金がどこに向かうかと」、「投資先はどこがいいか」いうこと。先進国の中では、米国のGDP成長率が相対的に高いわけですから、やはり米国市場は依然魅力的ということになると思います。
「AIバブルが弾ける」リスクについては、かなり前から言われている話です。一部のハイテク銘柄に関しては2025年秋ごろから既に調整されていますが、反対に上がっている銘柄もあります。そういう意味では、1つのネガティブサプライズだけで、相場全体のバブルが弾けることにはならないと思いますね。株式相場は、日米ともに比較的堅調に推移するのではないでしょうか。
いまトランプ米大統領が必死な理由
吉田: 2026年は米国で中間選挙が行われます。報道によると、トランプ米大統領の支持率が若干、下がっている印象ですが、中間選挙の行方についてはどうみていますか?
古澤氏:株式と同様、選挙についても専門家ではないので深い分析はできませんが、あくまで報道ベースで考えれば、下院は民主党が優勢と言えそうですね。現在は、大統領と上院、下院を同じ党が握る「トリプルレッド」状態ですが、米国では、基本的に大統領選挙の年は大統領が所属する党が有利になる一方、中間選挙ではねじれが生じやすいんです。それは、大統領が共和党でも民主党でも同じです。
全議席の3分の1しか改選されない上院は共和党が過半数を維持するでしょうが、全議席改選となる下院は、今年の中間選挙では民主党が過半数を取ると思います。米国では、下院の過半数で大統領の弾劾訴追が可能です。実際に罷免が成立するためには、上院の3分の2以上の賛成票が必要なので、罷免まで行くことはないでしょうが、ノイズにはなります。
トランプ大統領としてはそうした事態を避けるべく、現在は中間選挙で勝利するために、国内では物価対策や先ほどの住宅ローン対策、対外的には「強いアメリカ」を標榜しようと、しゃかりきになっているんでしょう。まあ、まだ中間選挙まで半年以上あるわけですから、何が起きるかはわかりませんけどね。
吉田:これまでの傾向通りなら、中間選挙では民主党が過半数を取ることになりそうですね。果たして、民主党が過半数を握り、トランプ米大統領の独断専行に待ったをかけることができるのか、あるいはそうはならずに独断専行が続くのか、興味深いポイントになりそうですね。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
古澤 満宏 氏:三井住友銀行国際金融研究所理事長
1979年に大蔵省(現財務省)入省し、1990年に主計局主計官補佐、1991年に国際局課長補佐、1997年に在仏日本国大使館参事官を経て、2002年に主計局主計官に就任。その後、2007年に在米日本国大使館公使、2009年に国際局次長、2010年に国際通貨基金(IMF)日本代表理事、2012年に理財局長、2013年には財務官を務める。2014年に安倍晋三内閣官房参与及び財務省顧問、2015年にIMF副専務理事を務めた後、2021年12月に三井住友銀行国際金融研究所理事長に就任。国内外の幅広い知見、経験を活かし、情報発信や情報収集を行う。
(※)本インタビューは2026年1月30日に実施しました。
撮影/竹井俊晴、文/新井奈央 、編集/マネクリ編集部(西條玄香)
