2024年とは「行き過ぎ」懸念が異なる円安160円
日本の通貨当局は、2024年に160円から米ドル売り・円買い介入を開始、その上で米ドル高・円安は161円で終了した。当時の160円は、米ドル/円の過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)を3割程度と大きく上回っていた(図表1参照)。その意味では、経験的にかなり米ドル高・円安の「行き過ぎ」懸念が強くなっていた。
また、2024年7月、161円で円安の進行が終了した頃、CFTC(米商品先物取引委員会)統計における投機筋の円ポジションの売り越し(米ドル買い超し)は約18万枚と過去最高規模に拡大していた(図表2参照)。つまり、投機的な円売りの「行き過ぎ」懸念もかなり強くなっていたわけだ。以上のように「行き過ぎ」懸念が強くなっていた局面だっただけに、米ドル売り・円買い介入が効果的になった可能性があっただろう。
これに対して、足下の160円は、5年MAを2割も上回らない程度にとどまっている。また、CFTC統計の投機筋の円売り越しも、3月3日時点で1万枚程度の小幅な水準にとどまっていた。同じ160円近辺でも、円安や円売りの「行き過ぎ」懸念は、2024年とはかなり異なっている可能性がある。そうした中で日本の当局が米ドル売り・円買い介入に動いても米ドル高・円安は止まらない懸念があるだろう。
1月「レートチェック」は日本の選挙中という特例か
それでも1月23日、160円手前で日本、そして米通貨当局も為替介入の前段階とされる「レートチェック」に動いたことで、米ドル高・円安は大きく反転し、一時152円まで米ドル安・円高に戻った。ただ、これは日本が衆院選挙中だったという政治的要因の影響が大きかったのではないか。選挙中に160円を超えて円安が拡大すると、さすがに与党にとっては選挙にマイナスになってしまう懸念があっただろう。
そうした中でも、2024年まではあくまで日本単独で円安阻止に動いてきたが、上述のように米国が協力する形となったのは、すでにこの時点で、日本の当局には160円程度では日本単独での円安阻止は難しいとの自覚があったことをうかがわせる。また、衆院選挙も終わったことを踏まえると、あえて失敗するリスクのある160円程度の水準で、日本単独で米ドル売り・円買い介入には動かない可能性が高いのではないか。
「レートチェック」後の急落であからさまになった米ドルの脆弱性
一方で、米政府が円安やそれに伴う日本の金利上昇が米経済に与える影響への懸念から円安阻止にこだわる可能性もある。ではその場合、「レートチェック」から一歩踏み込み、実際に米ドル売り・円買いを行う日米協調介入となるだろうか。
1月23日の米当局による「レートチェック」の後、米ドルは円以外の通貨に対しても急落した。一部報道によると、この「レートチェック」を主導したとされるベッセント米財務長官は、米ドル売り介入や「強い米ドル政策」変更について強く否定した。つまり円安けん制の「レートチェック」から、一転して米ドル安けん制に動いたわけだ。
実際に米国が米ドル売り介入したわけではなく、あくまで円安けん制を示しただけで米ドルが円以外の通貨に対しても急落したことで、米ドル自体の脆弱性を再確認させた。
160円は円暴落の始まりか、それとも米ドル暴落への大転換か
トランプ政権発足以降の国際秩序を無視した言動を受けて、トランプ米大統領への不信感から「米ドル離れ」が広がり、何かの拍子に米ドルが暴落しかねないという危険性も、改めて浮き彫りになったのではないか。そうであれば、米国による米ドル売り介入は、円安阻止どころか、米ドル暴落のトリガーを引く危険もあるのかもしれない。
160円でも日本の当局が米ドル売り介入に動かなければ、暴落の始まりとなるか、それとも円安阻止を目的とした日米協調の米ドル売り介入が、米ドル暴落へ転換するきっかけになるか。円安160円攻防は、その重大岐路になる可能性もあるのかもしれない。
