2025年12月、日銀は政策金利の誘導目標を0.5%から0.75%へと、0.25%引き上げる「利上げ」を実施しました。2025年は1月と12月にわたって、2度の利上げに踏み切ったことになります。日銀の植田和男総裁は賃金水準や経済動向を確認しながら、今後も利上げを継続する方針です。2026年に入って、米ドル/円相場における円安が加速したことに加え、長期金利が急上昇するなど金融市場が大きく変動しています。

今回は、マネックス証券チーフ・FXコンサルタントの吉田恒が、財務省で40年近く理財局長や財務官などの重職を歴任し、現在は三井住友銀行国際金融研究所理事長の古澤満宏氏に金利や為替相場、株式相場の現状などについて、現在の動向や今後の見通しをうかがいました。

1米ドル=160円接近で為替介入リスクが増大

吉田 恒(以下、吉田):2026年の為替、金利、株価の動向や見通しなどについてお話をうかがっていきます。まずは、為替相場の動向について。米ドル/円相場は、2025年10月頃から急速に円安が進み、年明けには1ドル=160円目前に迫りました。

ところが、1月23日から24日にかけて、日米の金融当局が銀行など市場参加者に為替水準に対する問い合わせ、いわゆる「レートチェック」をしたとの報道が広がり、その後は一時152円台まで円高が進みました。1月半ばにつけた1米ドル=159円台半ばで、円安のトレンドは一旦止まったと考えていいのでしょうか。

古澤 満宏 氏(以下、古澤氏):その後に発表された日銀の「介入実績」では、結局、実弾介入はなかったことが判明しています。とはいえ、実弾介入の有無に関わらず、今回のレートチェックを通して市場は「日米の金融当局のスタンス」を理解したのではないかと思います。

これまでも、1米ドル=160円に近付くと介入のリスクがあると考えられていましたが、今回の一連の動きによって、市場はより明確に、当局の考えを感じ取ることができたでしょう。その点で、少なくとも当面の間は、160円を突破してどんどん円安が進むというシナリオは考えにくいでしょう。

 

吉田:そもそも、現在の円安の背景にあるのはなんでしょうか。現在、日米の金利差は縮小傾向ですが、これは経済の教科書(金利差の縮小=円高)に反した円安進行と言えますよね。高市首相や片山財務大臣は、「ファンダメンタルズからは乖離した、投機的な動きによる円安」という言い方をしていますが、これについてはどうお考えですか。

古澤氏:さまざまなデータを見ると、現在の「実質実効為替レート」は円安に振れ過ぎていると思います。少し前まで、米ドル/円相場は日米金利差に相関する動きとなっていましたが、いまはそうなっていません。米国のFRB(連邦準備制度理事会)は金利を下げる方向へ動いているのに対し、日銀は利上げの方向に動いているわけですから、「これから日米金利差は縮小していくから、徐々に円高方向に動いていくだろう」と、私を含む金融関係者はみな、そう考えていましたが、現状はそうなっていません。

日本国債の需給の緩みは円安要因のひとつ

吉田:金利差に相関した動きとはならず、米ドル高・円安が進んでいるのは、やはり投機によって行き過ぎた動きなのか、それとも長期金利の上昇と円安が連動していることを考えると、巷間言われるような「日本の財政悪化の懸念」を反映した動きなのでしょうか。

もし、財政悪化の懸念を反映した動きであれば、片山財務大臣の「ファンダメンタルズに反する動き」という指摘には当たらないということになります。そうなると、財政悪化のリスクが後退しない限り、円安トレンドは変わりませんよね。

 

古澤氏:お互い長い間、為替相場を見てきましたが、為替相場はひとつの要因だけで動くわけではありません。また、「ファンダメンタルズ」と一口に言っても、さまざまな要素があります。「この指標がこうなればこう動く」といった明確な指標はないわけです。

さらに言うと、「どこまでならファンダメンタルズで説明可能な範囲なのか」についても、はっきりとはわかりません。ただ、高市政権の積極財政による財政悪化懸念から長期金利が上昇しているのは確かです。日銀は国債の買い入れ額を減らそうとしている一方で、銀行も以前ほど大量の国債を買わなくなっていますから、どうしても国債マーケットの「需給の緩み」は出てきます。

吉田:その需給の緩みに対する懸念も、「円安要因のひとつ」であるということですね。

実質実効為替レートベースでは行き過ぎた円安

古澤氏:貿易収支、つまり日本円の実需(投機目的ではない、企業の輸出入で生じる決済)を見ても、月単位で黒字になったり赤字になったりしていて、これからどんどん黒字が膨らんでいく状況ではありません。いくらインバウンド需要が増えているとはいえ、デジタル赤字(クラウドやインターネット広告など、海外のデジタルサービスの利用で国際収支が赤字になること)の方が大きいので、サービス収支は赤字続きです。

吉田:足元の中国人訪日客の減少も、国際収支にはマイナスですね。

古澤氏:米国への投資も、一時期よりは落ち着いているものの、引き続き活発です。IMF(国際通貨基金)によると、米国の2026年のGDP成長率の見通しは2.4%。一方、日本の見通しは小幅に上方修正されたとはいえ0.7%と、成長率は米国が大きく上回っています。

米国の株式市場について、「AI関連株への投資が過熱しており、近いうちに調整局面が訪れる」などと言われていますが、日米を比較して「どちらの市場がより力強く上昇しそうか」を考えると、やはり米国市場に軍配が上がるのではないでしょうか。要は、実需面でも日本企業の米ドル需要は引き続き強いと思われるわけです。そう考えると、今後どんどん円高が進むような状況にはなりにくいと思います。

吉田:先ほどは「米ドル/円相場は1ドル=160円を大幅に超えるような円安は想定しにくい」とのお話でしたが、円高がどんどん進行する状況でもないということですね。では、年内の米ドル/円相場は、どの程度の水準での推移をイメージされているのでしょうか。

古澤氏:しばらくは150円台前半から半ば程度の推移が続くとみています。一時的に円高が進んだとしても、140円台後半というイメージです。ただし、吉田さんもご存じのように、為替相場を取り巻く状況は日々刻々と変わっていきます。高市政権が力強く成長戦略を実行するのと同時に、財政立て直しへの道筋を見せていくとなれば、市場は「日本は経済成長が期待できる一方で、財政懸念は後退する」と判断し、円高が進むかもしれません。

吉田:おっしゃるように、状況は日々変化します。ただ、今後円安が進んだ場合、日本の金融当局の為替介入に対するスタンスが変化する可能性はありますか?

古澤氏:実質実効為替レートで考えた場合、やはり現在は円安に傾きすぎていると言わざるを得ません。今回のレートチェックを通して、日米金融当局のスタンスが明らかになりましたから、「今回は実弾介入には至らなかったけれど、次に円安が加速するような局面があれば、実弾介入もやむなし」ということなのではないかと思います。

「日米協調介入」は米国側のメリットの有無がポイント

吉田:理事長は2013年から2014年にかけて、実際に為替介入を判断する財務官をお務めになられていましたが、当時は介入を実施するような状況ではありませんでした。

古澤氏:幸か不幸か、私が財務官を務めていた時は米ドル/円相場は比較的平穏を保っていましたね。

吉田:直近の米ドル/円相場の安値は、2024年6月から7月にかけて1ドル=161円台後半を付けた時です。この水準を超えて円安が進んだ場合、元財務官としてドル売り・円買い介入は実施されるとお考えですか?

古澤氏:数年後も同じ状況とは限りませんが、2026年内でいえば、そういう状況が訪れた時には実施されると思います。

吉田:2011年の東日本大震災直後に実施された日・米・欧の協調介入以降、日銀は2022年、2024年と「単独」で為替介入を実施してきました。しかし、今回は米国の金融当局もレートチェックを行ったことが伝わり、円が急伸しましたよね。

ベッセント米財務長官は、足元のドル売り・円買い介入について「絶対にしていない」と強く否定したものの、「米国は常に“強いドル政策”を取っているが、それは適切なファンダメンタルズを整えるという意味だ」と発言し、今後の口先介入や実弾介入に含みを持たせる形になっています。もし、今後、米ドル/円相場が昨年の安値161円台後半を超えるような円安局面が到来した場合、介入は日銀単独になると思われますか? それとも、日米による協調介入の可能性はあるのでしょうか。

古澤氏:ポイントは「米国が介入するメリットがあるのか」だと思います。高市政権が積極財政政策を打ち出し、解散総選挙に踏み切ることが伝わると、30年債、40年債の「超長期債」の利回りが急上昇(債券価格は下落)しました。

米国は11月に中間選挙を控えており、トランプ米大統領は住宅ローン担保証券(MBS)を購入してまで住宅ローン金利の上昇を抑えようとしています。そんな折に、日本の超長期債の利回り急上昇が海外市場にも波及し、米国の金利も上昇したわけです。米国の当局も日銀も、市場の混乱や相場の急変は望ましくないでしょうから、その結果、日米当局による「レートチェック」に至ったのだろうと思います。ただ、裏を返せば、現状では「レートチェック程度の協力関係」にあるということでしょう。

 

日銀、次の利上げはいつか

吉田:ここからは、日米の金融政策についてお話をうかがいたいと思います。日銀は、2025年12月に政策金利の誘導目標を0.25%引き上げ、0.75%にする「利上げ」を行いました。これで、2025年は1月と12月の2回にわたって利上げを実施したことに加え、今後も利上げ継続の方針を打ち出していますが、次の利上げはいつになるとお考えですか?

古澤氏:政権が安定すれば、この春にもう一度利上げに踏み切る可能性は高いとみています。ただ、やはり「政治の安定」は必須でしょう。政治が混乱して今後の政策が不透明な状況下では、利上げに踏み切りづらいからです。

吉田:政権が安定して推移した場合、年内はどの程度まで利上げが進むと思われますか? 複数回の利上げとなる可能性はあるでしょうか。

古澤氏:6月に発表される「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」で、成長戦略について踏み込んだ内容が打ち出されることになると思います。17の戦略成長分野にどのように重点投資を行い、その結果どう成長するのか、今後の財政の道行きはどうなるのかといった高市政権の「責任ある積極財政」の具体的な案がより明確に見えてきて力強い成長が見込めるという確信を市場が得られれば、年内にもう一度利上げに踏み切る可能性はあります。

もっとも、2026年は11月に米国の中間選挙がありますから、これまでの日銀の方針通り「慎重に状況を見ながら判断する」ことになるとは思います。春先に一度、その後は、政治や経済に混乱が起きない前提で「うまく行ってもう一度」という感じですね。2回目は状況によっては年をまたぐことになるかもしれません。

後編では、日本の長期金利の動向と見通し、および日米の株式市場動向についてうかがいました。

古澤 満宏 氏:三井住友銀行国際金融研究所理事長
1979年に大蔵省(現財務省)入省し、1990年に主計局主計官補佐、1991年に国際局課長補佐、1997年に在仏日本国大使館参事官を経て、2002年に主計局主計官に就任。その後、2007年に在米日本国大使館公使、2009年に国際局次長、2010年に国際通貨基金(IMF)日本代表理事、2012年に理財局長、2013年には財務官を務める。2014年に安倍晋三内閣官房参与及び財務省顧問、2015年にIMF副専務理事を務めた後、2021年12月に三井住友銀行国際金融研究所理事長に就任。国内外の幅広い知見、経験を活かし、情報発信や情報収集を行う。

(※)本インタビューは2026年1月30日に実施しました。

撮影/竹井俊晴、文/新井奈央 、編集/マネクリ編集部(西條玄香)