バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]の最新ポートフォリオ、5銘柄を新たに取得

著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]が8月15日、SEC(米証券取引委員会)に2025年6月末時点の上場株ポートフォリを報告するフォーム13Fを開示した。保有していたTモバイル[TMUS]の株式を全て手放す一方、米住宅建設のディーアール・ホートン[DHI]、米鉄鋼最大手ニューコア[NUE]、ユナイテッドヘルス・グループ[UNH]を含む5銘柄を新たに取得した。保有する上場銘柄数は37と3ヶ月前から4銘柄増加した。

5月にバークシャーが提出したフォーム13F(2025年3月末時点のポジション)には特記事項として、「機密扱いとしている1つまたは複数の保有銘柄をこの公開フォーム13Fから除外している」ことが記されていた。6月末時点でバークシャーが保有しているユナイテッドヘルス・グループ株は約15億ドル相当(約504万株)、ニューコア株は約8億ドル相当(約661万株)、ディーアール・ホートン株は約2億ドル(約149万株)だった。

ユナイテッドヘルス・グループ[UNH]、ニューコア[NUE]など従来型の安定事業に投資

ユナイテッドヘルス・グループは米国の主要指数であるダウ工業株30種平均を構成する1社である。公的医療保険の不正疑惑や業績悪化などにより、株価は年初から4割ほど下落している。2024年12月には保険部門のCEOがニューヨーク市内で射殺された他、2025年5月には司法省の調査を受けているなどの悪材料が続いたが、バークシャーによる株式取得は短期的に株価が反転する材料となっている。直近のPER(株価収益率)は13倍程度、配当利回りは約3%だ。

ニューコアは「配当貴族」の一つで、1973年以降、50年余りに渡り連続増配を行っている。今回、バークシャーが新たに取得した5銘柄を見ると、保険や鉄鋼、住宅関連といった従来型の安定した事業を営む企業への投資が中心で、長期的な価値上昇を見込んだ、いわゆる「バフェットらしい逆張り」投資だとの指摘もある。

【図表1】バークシャー・ハサウェイの2025年6月末時点の保有銘柄と3月末時点の保有銘柄
出所:フォーム13Fより筆者作成

一方、保有上場株としてバークシャーの最大投資先であるアップル[AAPL]株については、保有株式数を3月末比で7%減らした。株数にして2000万株を削減、6月末時点の保有高は2億8000万株だった。アップル株の売却は3四半期ぶりとなる。

【図表2】バークシャー・ハサウェイの2025年6月末時点(上)と3月末時点(下)の保有銘柄上位10社
 
出所:フォーム13Fより筆者作成

「損切り」は資金を守り、より良い機会に資本を振り向ける前向きな投資行動

バークシャーは8月2日に2025年第2四半期決算を発表した。キャッシュフロー計算書によると、株式の取得額が39億900万ドルだったのに対し、売却額は69億1500万ドルと、30億600万ドルの売り越しだった。保有株数を増やす一方で、残高全体については11四半期連続の売越しとなった。

【図表3】バークシャ・ーハサウェイの株式売買動向
出所:フォーム13Fより筆者作成

また、この四半期に保有するクラフト・ハインツ[KHC]株の減損処理を行った。バークシャーは2013年にブラジル系ファンドである3Gキャピタルと組み、旧ハインツを買収、非公開化した。その後、ハインツが2015年に旧クラフト・フーズと合併する際にも主導的な役割を担った。ハインツは主力商品のケチャップで高いブランド力を持っており、当時、コカコーラ[KO]と同様に、景気変動の影響を受けにくい消費財ブランドでバフェット好みだと言われていた。

日本経済新聞の8月5日付けの記事「バフェット氏『損切り』のなぜ 継承準備か大勝負へ布石か」は、バフェット氏が2019年に米メディアに対し、合併の相乗効果を見誤り「ハインツにカネを払いすぎた」と吐露したことを取り上げた。一方で、今回の大型減損を経て保有株をすべて手放すとの観測が上がっていると報じた。年末のCEO(最高経営責任者)退任が近づくなか失敗事例を損切りし、懸案事項に片を付けているとも報じている。

バフェット氏は、一般的なバリュー投資家としてのイメージとは異なり、実際には買った銘柄の3分の2を5年以内に売却するなど、「短気」投資家としての側面もある。投資において「損切り」は重要ではあるものの、多くの投資家が後回しにしがちな判断の一つである。いつか株価が戻るのではないかという期待は、時に資産を大きく減らす原因となる。「損切り」は失敗の証明ではなく、資金を守り、より良い機会に資本を振り向けることである。バフェット氏はこれまで航空会社の株式やアイビーエム[IBM]を大幅な損失で手放したことがある。

現金は困難な時期を乗り切るための戦略的な資産

6月末時点、バークシャー・ハサウェイの現金同等物に米短期債の保有額をあわせた広義の手元資金は3440億ドルだった。3ヶ月前に比べて1%減ったものの、1年前に比べると2割以上多い水準だ。前述の通り、株式の売越し傾向を継続させる中、手元資金は高水準に積み上がっている。

【図表4】バークシャー・ハサウェイの現金残高とNYダウの推移
出所:各種データから筆者作成 
※グレー=現金ポジション(単位:百万ドル)右目盛 赤=NYダウ(単位:ドル)左目盛

その内訳を確認してみよう。手元資金のうち、約70%に相当する2436億ドルが米短期債で保有されている。前の四半期に比べて2割近く減少(625億ドル減少)している。前の四半期は全体の約88%に相当する3055億ドルが米短期債で保有されていた。

直近の米短期債の利回りは4%台の前半だ。バークシャーが保有している短期債が3ヶ月物なのか6ヶ月物なのか詳細は不明であるが、単純に4%の利回りだと仮定すると、保有する短期債から年間約97億ドルの金利収入が入ることになる。147円で換算すると1兆4288億円である。

インベストピアの8月6日付けの記事「Why Warren Buffett's Berkshire Hathaway Now Owns More Treasury Bills Than the Federal Reserve(なぜウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイは、FRBよりも多くの国庫証券を保有しているのか)」によると、FRB(米連邦準備制度理事会)の短期国債保有額は2025年7月時点で1950億ドルということだ。バークシャーはFRBが保有するよりも多くの短期債を一民間企業として保有している。

【図表5】バークシャー・ハサウェイが保有する現金残高の内訳
出所:フォーム13Fより筆者作成

一方、現預金残高については、前四半期は421億ドル(全体の約12%)だったのに対し、6月末時点で1004億ドルと2.4倍に拡大している。バフェット氏の膨大なキャッシュポジションは、適切な機会が訪れるまで流動性を維持するという長年の戦略を部分的に反映していると言える。その中でも短期債の保有を減らし、現預金を2倍余りに拡大している。また、同時にバークシャーが短期債市場を大きく左右しうるだけの存在になっていることを指摘しておきたい。

次期CEOとなるグレッグ・アベル氏は、5月に開かれたバークシャーの年次株主総会において株主から巨額の現金ポジションについて質問され、次のように答えている。「(多額の現金は)戦略的な資産であり、これによって困難な時期を乗り切り、誰にも依存せずにいられる」と。バークシャーの株価は5月に高値をつけたのち、直近は調整局面入りしている。しかし、金融市場の不確実性、不透明感が高まるような場面があれば、このバークシャーの手元資金は再評価されることになるだろう。

バフェットは、「バリュー投資の父」と呼ばれる経済学者のベンジャミン・グレアムからコロンビア大学で教えを受けた。このためバフェットは師に倣い、一般的には割安株を長期に保有する「バリュー投資家」であると考えられている。投資に関するバフェットの名言は数多く伝えられているが、2つのシンプルなゴールデンルールがある。それは「第1ルール、損しないこと。第2ルール、第1ルールを忘れるな」である。

石原順の注目5銘柄

アップル[AAPL]
出所:トレードステーション
アメリカン・エキスプレス[AXP]
出所:トレードステーション
コカコーラ[KO]
出所:トレードステーション
ユナイテッドヘルス・グループ[UNH]
出所:トレードステーション
ニューコア[NUE]
出所:トレードステーション