スマホ決済の日本最大手、PayPayが米国市場に上場
3月13日の取引終了後の時価総額は約141億3500万ドル
スマートフォン決済大手のPayPay[PAYP]が2026年3月12日に米ナスダック市場に上場しました。米国預託株式(ADS)を通じた上場で、公開数は5499万ADS、公開価格は仮条件(17.00-20.00ドル)を下回る16ドルでした。米国とイスラエルがイランを攻撃した影響で株式市場では先行き不透明感が広がりましたが、上場初日の3月12日は公開価格を上回る18.16ドルで取引を終えました。3月13日は前日比16.4%高の21.14ドルに急騰しました。3月13日の取引終了後の時価総額は約141億3500万ドルに上ります。
PayPayは日本のスマホ決済最大手です。2018年にサービスを始め、積極的なキャンペーンで急速に成長しました。2024年のQRコード決済の取引回数で国内市場シェアの65%、総取引額(GMV)ベースのシェアで64%を握っています。利用者数は約7200万人で、日本のスマホユーザーの実に75%がPayPayを使っている計算です。
筆頭株主はソフトバンクグループ(9984)(以下、SBG)で、LINEヤフーとの合弁会社を通じて議決権の57.9%を保有するほか、直接保有などで合わせて議決権の69.8%を押さえています(2025年3月31日時点)。
日本のスマホ決済の最大手が東京証券取引所に上場しない理由
今回の上場でまず注目されたのは、日本の国民的決済アプリを運営する有望企業が東京証券取引所に上場せず、米国市場に直接上場を申請した点です。これまで上場基準の緩さなどを理由に米国に直接上場した日本企業もありますが、いずれも事業規模は大きくありませんでした。
東証を素通りしたことで、市場ではさまざまな見方が出ていますが、それほど意外ではありません。というのも、SBGが有望な未上場企業に投資し、主要株主として株式公開に乗り出す際には米国市場を選択するというのがお決まりのパターンだからです。
2014年にはSBG傘下のアリババ・グループ・ホールディング[BABA]はニューヨーク市場にADSを上場しました。アリババはその前に子会社のアリババ・ドットコムを香港に上場していましたが、上場を廃止した後に本体の上場先として選んだのが米国市場でした。アリババ・グループ・ホールディングはまた、2019年に香港に重複上場しています。
2021年には「韓国のアマゾン」と呼ばれるEコマース大手のクーパン[CPNG]がニューヨーク市場に上場しました。SBGは2015年からクーパンへの出資を始め、上場時はもちろん、今でも筆頭株主です。
さらに2023年に半導体設計の英アーム・ホールディングス[ARM]が米国市場に上場したのは記憶に新しいところです。英国ではロンドン証券取引所を素通りしたことが問題視されたようですが、ナスダック市場にADSを上場しています。アームの親会社は現在もSBGで、出資比率は85%を超えています。
SBGの場合、出資した未上場企業の上場を「出口戦略」に位置づけてはいないので、浮動株規制の緩やかな米国のほうが適しているようです。さらに待望の米国進出やグローバル展開を視野に入れ、知名度を高める狙いもあるとみられます。
インドのQRコード技術を利用、SBGが重要な役割
SBGは、PayPayにとって核となるQRコード技術の獲得でも大きな役割を果たしています。QRコードを利用したスマホ決済は中国勢が先行し、アリババの「支付宝(Alipay)」と中国のIT大手のテンセントが展開する「微信支付(WeChat Pay)」が主導権争いを繰り広げています。
PayPayがスマホ決済ビジネスに乗り出した2018年には、SBGはアリババの筆頭株主でした。しかし、QRコード技術の導入元として選んだのはアリババではなく、インドのスマホ決済大手のPaytmでした。SBGは、Paytmの親会社であるワン97コミュニケーションズにも出資しており、インドでの実績に基づきPaytmをパートナーにしています。
ただ、ワン97コミュニケーションズには、SBGの傘下企業だったアリババも別口で出資しており、Paytmのスマホ決済事業を支援していたこともあり、インドで船出したPaytmの技術には裏付けと実績が備わっていました。
その後、アリババは2023年にワン97コミュニケーションズの保有株を売却し、SBGも段階的に手放しています。一方、ワン97コミュニケーションズはPayPayの新株予約権をSBGに売却するなど資本関係は薄れていますが、今も子会社を通じてPayPayに技術ライセンスを供与しています。
売上高と純利益がさらに拡大へ
PayPayは2018年に事業を始めてから短期間で急成長を遂げました。実質的な初年度に当たる2020年3月期に約1兆3000億円だった決済事業の総取引額(GMV)は5年後の2025年3月期には10倍超の15兆3900億円に急増しました。
売上高も右肩上がりで、採算も改善しています。2025年3月期決算では売上高が前年比17%増の2990億7800万円、純利益が361億7000万円(前年は33億5000万円の純損失)となり、通期決算で初めて黒字に転換しました。
売上高の内訳は決済部門の取引・サービス収入が18%増の1765億9700万円、銀行や証券会社を含む金融サービス部門の取引・サービス収入が9%増の269億9800万円と着実に伸びました。
一方、2025年4-12月期決算ではさらに業績拡大が顕著です。売上高は前年同期比26%増の2784億7800万円、純利益は3.8倍の1015億2100万円に急増しました。売上高の内訳は決済部門の取引・サービス収入が25%増の1632億5100万円、金融サービス部門の取引・サービス収入が9%増の220億7400万円でした。
課題は「PayPay経済圏」の拡充とグローバル展開
短い期間でスマホ決済の最大手となったPayPayは、「PayPay経済圏」の強化を進める見通しです。すでに利用者数が7200万人に上るスマホ決済サービスを入口に多様なサービスやポイントで利用者を囲い込むのが狙いです。
現状では2025年3月期決算の実績が示すように取引・サービス収入に占める決済部門の割合が86.7%で、銀行や証券会社を含む金融サービス部門の比率は13.3%にすぎません。金融サービス部門の比率はここ数年にわたり低下していますが、明るい兆しも見られます。
それは銀行口座数の急速な増加です。子会社のPayPay銀行(旧ジャパンネット銀行)の預金口座数は2025年6月末に約920万、9月末に約950万、12月末に970万と順調に増え、1000万口座突破は秒読み段階に入ったとみられます。
PayPay証券の口座数は2025年6月末に約142万、9月末に約147万、12月末に154万とこちらも着実に伸びています。決済を入口に口座を開設したライトユーザーが多いとみられる中、今後はマネタイズが焦点になりそうです。
日本での事業に集中してきたPayPayにとって、グローバル展開も大きな課題です。まず、その第一弾として、2026年2月にクレジットカード会社のビザ[V]と提携すると発表しました。米国にPayPay主導の新会社を立ち上げ、ビザも資金や技術を提供する方向です。カリフォルニア州などの一部地域を視野に入れ、QRコード決済加盟店のネットワークの構築などを検討します。
