急騰した10月の相場から一転、株式市場は振れ幅の大きい展開となっています。その理由の一つはこれまで株高を牽引していたAI関連株に高値警戒感が台頭してきたことです。高パフォーマンスはそれなりに長く継続しており、バリュエーション的にもかなりの期待が織り込まれていたため、利食いの動きが一気に集中したように思えます。これを2000年代初頭のITバブル崩壊となぞらえる見方も出ていますが、当時と今回では銘柄の広がりにかなりの差があるうえ、取引される銘柄群はしっかり利益を計上しているなど、異なる点も少なくなりません。もちろん、バブルはいつも「違う顔をしてやってくる」ので楽観は禁物です。

株価調整のもう一つの理由は、単純にスピード調整です。10月は結局、日経平均で17%もの上昇でした。AI株や高市新政権への期待はあったとしても、流石にこれは急過ぎたのではないでしょうか。こればかりは日柄調整を待つしかありません。当面の株価はそうした調整色の強い神経質な展開になるのではと予想しています。理想的には、徐々に振れ幅が縮小し、一定の水準での根固めが進むというシナリオです。その後は年末相場に入り、「掉尾の一振(とうびのいっしん=相場格言の一つ。大納会に向けて株価が上昇すること)」があれば最高ですね。

一方、リスクシナリオとしては、AI関連株の調整が続き、相場全体のセンチメントが悪化してしまう可能性があります。快進撃となった高市新政権もどこかでつまずきが発生し、それらが期待を剥落させてしまう可能性もあります。しばらくは「休むも相場」と割り切るのも一手と考えます。

「国防を支える基盤」としての造船業

さて、今回は「造船産業」をテーマに取り上げてみたいと思います。昨今、急速にこの産業への注目度は上昇してきました。きっかけは、トランプ米大統領が2025年春に行った施政方針演説で米造船業の復活の狼煙(のろし)を上げたことです。大統領はこの方針を「国防を支える基盤強化」と位置付けました。機動部隊の主力艦を担う空母をはじめ、海軍力は当然ながら造船能力に依存します。米国の造船業復活宣言にはそうした背景があるものと想像できるでしょう。

ご存知の方も多いと思いますが、現在、世界の新造船建造量では中国が過半のシェアを有し、圧倒的な地位を占めています。中国に次ぐのは韓国ですが、シェアでは中国のおよそ半分と、その差は大きなものがあります。日本は第3位のポジションにあり、シェアは韓国のさらに半分というところです。つまり、中国・韓国・日本の3ヶ国で世界シェアのおよそ9割を占めています。

かつては異なり、19世紀までは欧州が、20世紀に入ると米国が造船業界の盟主という地位にありました。1950年代には日本が世界トップに躍進し、一時はシェア50%をも獲得するに至っています。しかし、2000年代にはその地位を韓国が、2010年代以降は中国が台頭してその地位を奪取しました。一方、現在の米国の建造量シェアは1%以下になっているとの指摘もあります。誤解を恐れずに言えば、欧米や日本において、これまでの造船業は「衰退」の歴史であったのです。

造船業が衰退した3つの理由

日米欧で造船業が衰退したのは、3つの理由があります。まずは、そもそも造船は労働集約型かつ資本集約型の産業であることです。巨大で「一品モノ」の船舶を建造するにはかなりの熟練工を必要とするうえ、船舶よりもさらに巨大なドック(船渠)が必要となります。当然、固定費負担は重くなります。

第2には通貨高です。先進国となると、必然、自国通貨は高くなります。それは国際競争力という観点で逆風となり、特に前述の固定費負担がより重くなる状況で受注採算を確保し難くなってしまったのです。

第3には受注から竣工までの時間が長いことです。受注時は採算を確保できていたとしても、竣工まで為替や材料費の変動リスクに晒されることになります。

結果として、日米欧の造船会社は再編を繰り返してダウンサイジングを進めてきたのです。米国が造船業をテコ入れするという方針を聞いた際、経済合理性や熟練工不足という観点ではどうなのかという印象を持ったのですが、それだけ米国は本気なのだということなのでしょう。そのような折、韓国は原子力潜水艦を米国で建造するとの報道がありました。やはり事態は動いているのだと感じています。

米造船業の復活は日本にも追い風となる

おそらく米国は、短期的には日本や韓国など同盟国からの船舶調達引上げ、長期的には自国造船能力引上げに向けての投資拡大、といった二枚腰で戦略を推進するのではないかと想像します。この投資拡大には、ノウハウや最新技術獲得を含めて日本や韓国の企業からの投資も積極的に受け入れるという姿勢になるのではないでしょうか。

これは当然、日本の造船会社にとっても追い風となります。日本が提供できる船舶はドックや労働力の制約から量的な追加的余地には限界があるのでしょうが、稼働率の安定が企業価値拡大に繋がることは容易に想像が可能です。それ以上に、米国における造船業テコ入れに参画できれば、技術やノウハウが新たなビジネスに昇華する可能性もあるでしょう。もちろんリスクはありますが、重要なのはリスクとリターンのバランスであり、世界シェアが1%を切っている米造船業界の再生に寄与することができれば、そのインパクトはリスクを大きく超えるリターンになるのではと期待したいところです。

日本国内の造船関連銘柄をピックアップ

では、具体的にどのような企業が株式投資対象として注目できるでしょうか。規模や技術という切り口では、造船大手と評される三菱重工業(7011)、川崎重工業(7012)、IHI(7013)、住友重機械工業(6302)がまず挙げられるでしょう。加えて、名村造船所(7014)、内海造船(7018)、サノヤスホールディングス(7022)といった企業もそれらに続きます。

造船関連では、船舶用エンジンに実績を持つ三井E&S(7003)、ジャパンエンジンコーポレーション(6016)、船舶用塗料では世界的大手の中国塗料(4617)といった企業も要注目と言えます。

造船業界は減衰を余儀なくされてきた歴史にありましたが、それが大きく変わろうとしている転換点を我々は見ているのかもしれません。そんな変化にワクワクが隠せません。