バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]の手元キャッシュが過去最高に

著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]は11月1日、2025年7-9月期決算を発表した。バークシャーが保有する手元キャッシュの残高は再び、過去最高を更新した。決算発表資料によると、現金同等物に米短期債の保有額をあわせた広義の手元資金は、9月末時点で3816億ドルと、前期(第2四半期は約3440億ドル)に比べ376億ドル増加した。単純計算すると、この3ヶ月で1日あたり約4.2億ドルずつ現金が増えたことになる。

【図表1】バークシャーの現金残高とNYダウの推移
※青=現金残高(単位:百万ドル)右目盛、赤=NYダウ(単位:ドル)左目盛
出所:各種データより筆者作成

11月1日付の日本経済新聞の記事「バフェット氏投資会社、12四半期連続株売り越し にじむ『相場は割高』」によると、バークシャーの総資産に占める現金比率は31%と、財務データを比較できる1988年以降で初めて3割を超えたということだ。株式市場が高値圏で推移する中、バークシャーは保有する株式を圧縮しつつ、現金の保有残高を積み上げている。

バフェット氏の目にかなう投資機会が減少か?

キャッシュフロー計算書によると、期間中の株式取得額が63億5500万ドルだったのに対し、株式売却額は124億5400万ドルと、差し引き60億9900万ドルの売り越しだった。2022年第3四半期から12四半期連続、つまり丸3年にわたり株式の売越しを続けている。これは、バフェット氏の目にかなうような投資機会はほとんどないということを示している。

【図表2】バークシャーの株式売買動向
出所:決算資料より筆者作成

現金残高の内訳を確認しよう。手元資金のうち、80%に相当する3053億ドルが米短期債で保有されている。前の四半期に比べて617億ドルほど増加した。一方、現預金残高については、6月末時点(1004億ドル)から241億ドル減少し763億ドルだった。

【図表3】バークシャーが保有する現金残高の内訳
出所:決算資料より筆者作成

次期CEOとなるグレッグ・アベル氏は、5月に開かれたバークシャーの年次株主総会において株主から巨額の現金ポジションについて質問された際、「(多額の現金は)戦略的な資産であり、これによって困難な時期を乗り切り、誰にも依存せずにいられる」と答えている。

2008年から2009年にかけての世界金融危機の際、ゴールドマン・サックス[GS]やバンク・オブ・アメリカ[BAC]、化学大手のダウ[DOW]といった企業を支援し、その後、バークシャーは莫大な利益を上げた。同じような機会が再び訪れたとしたらどうだろう。株式投資において、いつ売るべきかを知るのは難しい。しかし、いつ何を買うかを決めるのも、さらに難しい。

バフェット氏は3800億ドル超の現金を抱え、4%の利回りを集めながら事態を静観している。それが「規律」というものだ。

「バフェット氏は待つ、稼ぐ、そして流動性を保つ」、バークシャーCEOとして最後の「株主への手紙」の内容は?

バフェット氏が2025年末をもってバークシャーのCEO(最高経営責任者)を退任すると5月に発表して以降、株価は約12%下落している。バフェット氏は、1965年以来務めてきたCEOの座をグレッグ・アベル副会長に譲り、会長に就任することが決まっている。

ウォール・ストリート・ジャーナルの10月31日付の記事「バフェット後のバークシャー新常態 バフェットCEO退任まであと2ヶ月あるが、株価は既に退任したかのような動き」は、バークシャーは「バフェットプレミアム」を失いつつあり、このことはバークシャーの株主にとって重要な影響があると指摘している。

バフェットプレミアムとは、長年にわたり会長兼CEOを務めてきたバフェット氏の存在のおかげで、バークシャー株を保有するために投資家が払うのをいとわない割高な価格のことだ。焦る投資家はバークシャーが現金を使うことを強く望む一方、他の投資先を探し始めている。

ここで注目すべき点は、パンデミック後に加速した自社株買いが一巡し、バークシャーは2024年第2四半期以降、5四半期連続で自社株買いを実施していないことだ。このことはバークシャーの株価が市場全体を大きく下回り、2024年8月と同水準で取引されている理由の一つかもしれない。

バークシャーの投資家にとって、短期的には悪い知らせとはなるが、自社株を含め株価全体が高すぎると考えているなら、これは最終的に正しい判断となる。保有株式のポジションを削減しつつ自社株買いを控える姿勢から伺えるメッセージは、明らかに「株式相場が割高」ということだろう。

バークシャーは鉄道大手のバーリントン・ノーザン・サンタフェや化学、住宅企業、さらにはシーズキャンディーズなど消費者向けブランドを含む約200社を傘下に収めるコングロマリットである。半導体やデータセンター、また通信ケーブルなどを手がけるAI関連の企業の株価が急騰する一方、米国の消費関連株は冴えない動きが続いている。

ただし、バフェット氏がいなくなったからといって、鉄道の運行や利用が全面的に停止するわけではなく、バフェット氏がいてもいなくても、バークシャー傘下の企業は莫大なキャッシュフローを生み出し続けることに間違いはない。アベル氏がこの歴史的な現金をどのように活用するかはわからないが、金融市場の不確実性、不透明感が高まるような場面があれば、このバークシャーの手元資金は再評価されることになるだろう。

前述のウォール・ストリート・ジャーナルの報道によると、毎年2月の年次報告書にバフェット氏が添えていた「株主への手紙」は、来年からアベル氏が執筆することになるという。今回の決算発表は、バフェット体制で公開される最後の四半期決算発表となった。なお、バフェット氏は11月10日に、子供たちと株主に送る感謝祭の書簡を最後に公表するという。この内容も次回以降、フォローしたい。

石原順の注目5銘柄

バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]
出所:トレードステーション
アップル[AAPL]
出所:トレードステーション
アメリカン・エキスプレス[AXP]
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コカコーラ[KO]
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ニューコア[NUE]
出所:トレードステーション