インフレ時代に投資したい金融資産の候補は?
著名投資家のポール・チューダー・ジョーンズ氏、インフレ対策としてビットコインに言及
著名投資家のポール・チューダー・ジョーンズ氏は10月22日、米CNBCの番組に出演し、米国の政府支出の増加と減税の見通しから、FRBが目標としている物価目標2%(現在:2.4%ほど)の達成は劇的な政策変更がない限りは事実上不可能だと指摘。米国はインフレを起こし、債務負担を成長で乗り越える必要があると述べた。
ジョーンズ氏は「(米国は)支出問題に真剣に取り組まない限り、すぐに破産するだろう」と述べるとともに、「すべての道はインフレに通じる」として、ビットコイン(BTC)と金を含むコモディティをロング、ナスダックのバスケットを保有する一方、利回りのある金融商品からは離れるよう推奨した。
ジョーンズ氏が指摘するように、投資家がインフレ対策としてビットコインを投資ポートフォリオに取り入れようとする動きが、まだ小さな波ではあるものの、確実に世界に広まりつつある。
10月29日、米フロリダ州のジミー・パトロニスCFO(最高財務責任者)は通貨インフレのヘッジとして、また中央銀行デジタル通貨に対する防壁として、州管理委員会にビットコイン投資を検討するよう要請した。パトロニス氏は約2050億ドルの運用資産を持つフロリダ州の年金基金を監督する責任者の一人である。
書簡によると、パトロニアス氏は州職員の購買力を維持するために利益を最大化する責任を強調、「ビットコインはデジタルゴールドと呼ばれており、州のポートフォリオの分散化と主要資産クラスのボラティリティに対するヘッジとして機能するだろう」と述べた。また、すでにビットコインや他のデジタル資産への投資を検討している州があることにも触れた。
持続不可能なまでに増え続ける負債、そして崩壊しつつある軍事力は、帝国の終焉を招く完璧なレシピである。そして、まさに今、米国が置かれている状況だ。繁栄する帝国には非常に強力で効率的な経済、堅実な通貨、そして管理された一定レベルの負債が必要となる。しかし、米国には今、こうした条件が備わっていない。
われわれは負債とインフレが超指数関数的に増加する時代の始まりに立っている。指数関数的に増え続ける現在の負債を推定すると、2036年には米国の連邦負債は100兆ドルに達するとみられる。100兆ドルの負債は、高いインフレとデフォルトのリスクを意味し、はるかに高い金利につながる。 3~4%の利回りでは誰もリスクの高い米国債を保有しようとはしないだろう。
日本でもGPIFが運用資産の一部をビットコインに配分することを検討
2024年3月、世界最大の公的年金基金である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、運用資産の一部をビットコインに配分することを検討していることを明らかにした。
GPIFは「経済や社会の大きな変動、急速な技術の進展に対応し、長期的な視野から基本ポートフォリオに係る理論と革新的な運用戦略を調査研究するため」と説明、具体例としてゴールドや農地、森林、そしてビットコインを挙げた。
一方、2024年8月には韓国の公的年金である国民年金公団が米ナスダック市場に上場する米マイクロストラテジー[MSTR]の株式を約3400万ドル購入していたことが明らかになった。国民年金公団は韓国最大の投資主体で、2月末時点の総資産は7770億ドルを超える。マイクロストラテジーへの投資はビットコインへの代替的な手段とされている。
ビットコインは最終的に100兆ドル規模の資産クラスになる可能性も?
上場企業の中でビットコインを最も多く保有するマイクロストラテジー[MSTR]
マイクロストラテジーは、ビジネス上の意思決定を行うために社内外のデータを分析するソフトウェアやモバイルソフトウェア、クラウドベースのサービスを提供する企業だ。現在、会長を務めるマイケル・J・セイラー氏らによって1989年に設立された。主な競合企業には、独のSAPや米アイビーエム[IBM]、オラクル[ORCL]などが挙げられる。
マイクロストラテジーの株価は年初来で200%超、5年前比では約1400%上昇しており、S&P500の中でトップのパフォーマンスを示している。その高パフォーマンスの背景にあるのがビットコインだ。
マイクロストラテジーは上場企業の中で、ビットコインを最も多く保有する企業だ。暗号資産市場の情報を扱うコインゲッコーによると、マイクロストラテジーが保有するビットコインは額にして約173億ドル、流通するビットコインの1.2%を保有している。2位の企業と比べるとその差は大きい。このように暗号資産を大量に保有していることから、マイクロストラテジーへの投資はビットコインの代替と捉えられている。
マイクロストラテジーがビットコインを購入し始めたのは2020年8月、以来、社債などを発行して資金調達をしつつ、大規模なビットコインの買い入れ戦略を続けてきた。マイクロストラテジーが10月30日に発表した2024年9月末時点のビットコイン保有量は25万2200と、取得を開始した当時と比べると6.5倍に拡大している。
ビットコインの上昇に伴い、直近(10月29日時点)の帳簿価格と時価評価額との差、つまり含み益は114億ドルに達している。11月2日付けのモトリーフールの記事「Up 264%, Is MicroStrategy On Track to Become the First $1 Trillion Crypto Stock?(264%の上昇、マイクロストラテジーはクリプト株として初の1兆ドル企業になるか?)」によると、セイラー氏はビットコインが最終的には100兆ドル規模の資産クラスになるだろうと見ていると指摘している。
インフレを背景に、企業のビットコイン保有の動きが広がっている
そのマイクロストラテジーは10月30日、さらなるビットコインの購入のため、今後3年間で210億ドル(約3兆1500億円)の株式発行と210億ドルの債券発行によって420億ドルを調達する計画「21/21プラン」を発表した。セイラー氏は「最終的な目標は、ビットコイン銀行、あるいは投資銀行、あるいはビットコイン金融会社となることだ」と語った。
マイクロストラテジーは発行済株式数に対するビットコイン保有高を示す独自のパフォーマンス指標「ビットコイン・イールド」を公表している。株主にとって有益な形でビットコインを購入する能力を示す主要業績評価指標(KPI)として公表している。2024年9月末時点の「ビットコイン・イールド」は17.8%だった。今後2025年以降の目標範囲については、従来の4-8%から6-10%に引き上げた。
インフレが高止まりするなか、企業が代替資産としてビットコインを保有する動きが広がってきている。一方で投資家は、企業がビットコインを保有する戦略を株式市場における新たな評価軸として認識し始めている。9月18日、YouTube動画に登場したセイラー氏は、「ビットコインが価値の保存手段として機能する可能性がある」と語った。株式市場に上場する企業の株式を保有するという伝統的な金融市場の枠組みにおいて、暗号資産市場への間接的なエクスポージャーを得ることができる。