原油価格の上昇は一時的な反発か?それとも遅れて始まったトレンド転換か?
金や銀、プラチナといった貴金属価格が歴史的な高値圏で推移する一方、原油価格は長きにわたり方向感に欠け、価格上昇という観点から取り残されてきた。しかし直近では、その原油価格に上昇圧力がかかり始めている。今回の原油高は一時的な反発なのか、それとも遅れて始まったトレンド転換なのか?
貴金属と原油では価格を動かす要因が異なる。金や銀といった貴金属は、安全資産、インフレヘッジ、さらには通貨の代替といった金融的性格が強い。地政学リスクの高まり、金融不安、ドル安といった要因が生じると、実体経済に先んじて資金が流入し、価格が上昇する傾向にある。
一方、原油はエネルギーそのものであり、需給(実需)が価格形成の中心となる。景気減速懸念がある局面では、将来の需要減少が意識され、金融環境が緩和的であってもなかなか価格は上がりにくい。このため、今回、貴金属価格が急激に上昇する局面において、金融要因に反応しやすい貴金属の上昇が先行し、原油価格は出遅れるという構図が生まれた。
世界経済の減速懸念で原油価格が伸び悩む中、2026年は地政学リスク等で高止まりの可能性も
原油が伸び悩んだ最大の理由は世界経済の減速懸念だ。米国や中国の成長鈍化、欧州の低成長が意識され、輸送・製造業向けエネルギー需要の先行きに不透明感が残っていた。加えて、OPEC(石油輸出国機構)プラスによる減産が続く一方で、非OPEC産油国、特に米国のシェール生産が供給のバッファーとして意識されてきた点も、価格上昇を抑えてきた要因である。つまり、需要が強いわけではないが、供給不足にもなっていないという状況が続いていた。
ところが、ここにきて中東情勢の不安定化に対する懸念が急速に高まった。米国がイランに対して強硬姿勢を強めていることだ。トランプ米大統領は、イランに対し、核合意に同意するか、そうでなければ軍事攻撃に直面すると警告し、この地域に派遣されている米海軍は行動を起こす準備ができていると述べた。これに対し、イラン革命防衛隊はホルムズ海峡で海軍実弾演習を実施すると発表し、重要な石油輸送回廊におけるイランの優位性を改めて強調した。
1月29日付のロイターの記事「原油価格、高止まりの可能性も=シティ」によると、シティグループ[C]は1月28日の顧客向けのノートで、2026年の原油市場は大幅な供給過剰が見込まれているにもかかわらず、地政学的リスクの高まり、ロシア産原油購入に対する米国の規制、中国の継続的な買い入れなどにより、価格高止まりの可能性があるとし、1バレル70ドルまで上昇する見通しを示した。
エクソン・モービル[XOM]とシェブロン[CVX]の決算を検証
米エネルギー大手のエクソン・モービル[XOM]とシェブロン[CVX]が1月30日、2025年第4四半期(2025年12月末)の決算を発表した。決算発表の電話会議では、アナリストからの質問の大半が地政学的なテーマに集中していたという。両社に共通するのは、記録的な原油生産量が原油価格下落による打撃を相殺した2025年だったということ。2025年、原油価格は2020年以来、最大の年間下落を記録した。まずはそれぞれの数字を確認しておこう。
エクソン・モービル、2025年の純生産量は40年ぶりの高水準に
エクソン・モービルの2025年第4四半期は、原油価格の下落や化学事業の低迷により減収減益とはなったものの、調整後1株利益は市場予想を上回った。2025年の純生産量は日量470万バレル(原油換算)と、40年以上ぶりの高水準に達した。
ダレン・ウッズCEOは決算発表で、エクソン・モービルは数年前と比べて根本的に強力な企業であり、2025年の業績がそれを証明していると述べるとともに、「2030年以降も収益性の高い長期成長の軌道を築いている」と付け加えた。
シェブロン、売上高・利益ともに市場予想を上回り生産量は過去最高に
シェブロンの第4四半期も減収減益だったが、売上高、利益ともに市場予想を上回った。2025年の生産量はこちらも過去最高だった。シェブロンは第4四半期に1日あたり405万バレルの原油を生産した。これは2024年第4四半期の335万バレルと比べて約21%の増加となる。
マイク・ワースCEOは決算発表で、「2025年は同社にとって大きな成果を上げた年だった」と述べた。また、ワース氏は電話会議で、シェブロンは「今後18~24ヶ月で生産量を最大50%増やす可能性がある」とし、「当社の資産と米国には大きな可能性がある」と付け加えた。
原油価格上昇の要因を見極めることが今後の焦点に
シェブロンは米国の石油生産者としては唯一ベネズエラでの操業を継続しており、ベネズエラの現状を最も有利に利用できる立場にあるとみられている。ワース氏は、シェブロンのベネズエラでの事業は「中断することなく継続している」とし、「われわれは1世紀以上にわたりベネズエラの過去の一部であり続けてきた。そして、ベネズエラの現在にも引き続き尽力していく。そして、米国のエネルギーと地域の安全保障を強化しつつ、ベネズエラがより良い未来を築くのを支援する用意がある」と述べた。
1月31日付のロイターの記事「エクソンとシェブロンはベネズエラの潜在力に兆しを感じているが、まだ道のりは長い」は、エクソン・モービルとシェブロン両社がベネズエラ向けの長期プロジェクトについて決定を下す前に、依然として強固な法的枠組みと安定した政治環境が必要だとするスタンスは変わっていない、と報じている。また、ベネズエラの劇的な政変は、近隣の油田で合弁事業を営む両社にとって恩恵となる可能性があることにも触れている。
生産量のさらなる増加は需給の緩みにもつながる要因ではあるが、需給と地政学の両面から価格を押し上げる材料が重なりつつある。原油高はインフレ再燃を通じて金融政策に影響を与える他、オイルマネーの動向も左右するため、株式市場全体への波及も大きいため、要注目だ。
今後の焦点は、原油価格が上昇した場合、「供給不安主導」で変動しているのか、「需要回復主導」なのかを見極めることである。供給リスクが主導する場合、価格は急騰と急落を繰り返しやすく、ボラティリティが高まりやすくなる。一方、需要の底堅さが確認されれば、原油価格は緩やかだが持続的な上昇トレンドに移行することも期待される。
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