先週の動き:地政学要因で急騰もモメンタム喪失で大幅下落 ニューヨーク金先物価格週足今年最大の下げに 国内金価格も反落
先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週初に史上最高値更新の急騰を見た後に、週後半は一転し、その上げ幅をすべて失うばかりかマイナス圏に突入という大荒れの週となった。週末5月24日のNY金の終値は2,334.50ドル、前週末比82.90ドル、3.4%安と、週足ベースで2024年に入り最大の下げとなった。
NY金は、週初5月20日のアジアの早朝に伝えられたイランのライシ大統領とアブドラヒアン外相がヘリコプター事故に遭遇というニュース(後に死亡と判明)に反応。騰勢を強め、4月12日(2,448.80ドル)の高値を5週間ぶりに突破し、史上最高値を更新したが、上値追いはそこまでだった。NY時間に入り、イランでのヘリコプター墜落は軍事的な介入などではなく、通常の事故とみられると伝わると、売り優勢に転じ、上げ幅を削り2,438.50ドルで終了。それでも終値ベースでの史上最高値更新となった。
その翌日からは、週を通して予定されていた米連邦準備制度理事会(FRB)高官による早期の利下げ転換に慎重な発言に弱気センチメントが浮上。そこに先週、当コラムで注目点として挙げたイベントと指標の発表があった。5月22日に公表された4月30日~5月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨では、政策金利をより長期に高水準で維持することが望ましいとの認識が示された。さらに、データが上振れするならば追加利上げも辞さない文言が盛り込まれ、タカ派的との評価となった。
もう一つ注目指標としたS&Pグローバルが5月23日に発表した5月の米国の購買担当者景気指数(PMI)速報値は、活発な米企業の活動とインフレの加速が新たなデータで示された。4月に低調だった景気が息を吹き返した格好で、米国債利回りとドルが上昇しNY金の売り手掛かりとなった。5月24日発表の4月の米耐久財受注額なども堅調で、FRBが早期の利下げに動く可能性は低いとの見方が広がった。つまり、前々週まで上値追いのドライバーとなっていた、早ければ9月という利下げ期待は一気に後退した。イラン大統領事故死という地政学要因で一時的に高騰した部分の売り戻しに、前々週までのモメンタムまで消失する形で下げが膨らんだ。
その結果、レンジは想定を大きく下振れることになった。先週、想定レンジを2,405~2,470ドルとしたNY金は、実際には2,326.30~2,454.20ドルとなった。最高値更新を読んでいたものの、週後半に発表されたS&PグローバルのPMIの結果は想定を超えることになった。6月初旬に発表される、より広範囲なデータとなるISM(サプライマネジメント協会)製造業・非製造業景況指数にて、より的確な内容を把握することになる。
一方、先週の国内金価格は米ドル円相場が連日1ドル=156円台で滞留したことから、NY金の値動きをそのまま映して変動した。5月17日の大阪取引所国内金価格の終値は1万1839円となり、週足で前週末比110円、0.9%安と反落。レンジは1万1772~1万2283円となった。想定レンジを1万1970~1万2300円としていたが、200円ほど下振れとなった。
4年ぶり水準に拡大 短期筋ファンドのロング
先週の当コラムでは金ETF(上場投信)の最大銘柄「SPDR(スパイダー)ゴールド・シェア」の残高が5月17日に1日で5.18トンとまとまった増加が見られたことも取り挙げた。今後を見据える上でのポイントは、欧米勢の資金がいつ金市場に還流するかにある。そのため、金ETFの残高が3月以降の減少が止まり、4月以降に増加へ転じる傾向が見られる中で、まとまった増加があったことに着目し、価格水準が3月との比較でも250ドルほど切り上がっていることも考慮し、動向に注目とした。
この点に関連し、先週末5月24日に米商品先物取引委員会(CFTC)が発表したデータでは、NY金先物取引における目先筋のファンドのポジション(持ち分)は、5月21日時点で603.32トンの買い越し(ネットロング)で前週比65.41トン増となっていた。2020年4月14日の617.6トン以来の規模となる。2020年4月と言えば、新型コロナウイルスのパンデミックにより金融経済が大混乱に陥り、安全資産として金(ゴールド)が買われた時期だ。今回5月20日に過去最高値更新に至った背景に、欧米ファンドの積極買いがあったことを裏付けるデータと言える。
5月17日の金ETF同様に金市場内での欧米勢の動きは活発化の兆しありと言っていいと思うが、その試みは前述したFOMC議事要旨、S&PグローバルのPMI、さらにFRB高官によるタカ派発言でとん挫することになった。モメンタム喪失により、積み増されたロングポジションのかなりの部分が先週2営業日で売り手じまいされ、急落に至ったとみられる。
今週の動き:PCEコアデフレーター、ベージュブックに注目 NY金 2,330~2,380ドル 国内金価格は1万1740~1万1940円を想定
NY金は大きく売り戻され振り出しに戻った形で、一転下値目途を探ることになったが、急落したことで、むしろファンドのポジション整理が進展したとみられる。5月27日のNY市場はメモリアルデーの祭日で3連休となったことも、売り手じまいを加速させたといえる。節目の2,350ドルを割れ、2,300ドル割れが注目されたが、それは回避されたようだ。今週は反発の週となるとみている。
今週の注目は、月末恒例の5月31日の米個人消費支出(PCE)コア価格指数(デフレーター)だ。4月分でもあり、鈍化した消費者物価指数(CPI)同様に前月比0.2%上昇見通しと緩和が予想されている。仮にそうならば、2024年で最も小さな伸びとなる。もともと先週のFOMC議事要旨については、4月の物価指数が鈍化を示す前の段階での発言だったことから、金(ゴールド)を含め市場の反応は限定的なものだった。
また、5月29日に発表されるベージュブック(地区連銀経済報告)にも注目したい。6月FOMCの討議の基礎資料だが、5月に入っての各地区の動向はどうか。小売売上高が4月は予想外の横ばいとなったが、雇用市場や企業活動などのその後を探る。
こうした中でNY金は、2,330~2,380ドルを想定している。国内金価格は引き続き、米ドル円相場156円近辺での滞留として、1万1740~1万1940円のレンジを読む。