先週の動き:4月米CPI鈍化からFRB9月利下げ観測、NY金、国内金価格ともに終値ベース高値更新

先週、当欄タイトルを「NY金の方向感試す4月CPIの結果」とした。5月15日に発表された4月の米消費者物価指数(CPI)は前月比0.3%上昇と、2月および3月の0.4%から鈍化したことから、ニューヨーク金先物価格は週末にかけて上値追いの展開となった。第2四半期にインフレが再び低下傾向にあることを示唆するものと受け止められた。5月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)にて「次の一手」は利上げ再開ではなく利下げであるとのパウエルFRB議長の発言も伏線となった。その発言をCPIの結果が固めるかたちになり、FRBが9月に利下げを開始し、年内に2回の利下げを実施するとの見方が広がっている。市場センチメントをリスクオンに押し上げ、米主要株式指数は最高値を更新。ダウ30種平均株価は5月17日、過去最高値更新と共に初めて終値ベースで4万ドルを突破して終了した。

5月17日は株高と並走するようにNY金も水準を切り上げ、前日比31.90ドル高の2,417.40ドルで終了。終値ベースで4月19日に付けていたこれまでの高値(2,413.80ドル)を上回り、過去最高値を更新した。一時2,427.40ドルまで買われ、4月12日に付けた取引時間中の過去最高値(2,448.80ドル)を視野に入れることになった。

この結果、週足は前週末比42.40ドル、1.79%高で続伸となった。先週想定レンジを、ここまでの調整局面に一巡感として「2,350ドル割れの水準は買い拾われるとみて、2,348~2,408ドルを想定している。仮に節目の2,400ドルを超えた際に、戻り売りが出るのか、逆に追随買いのモメンタム復活かは、注目データの下振れの程度による」と書いた。5月13日は、まとまった売りに2,350ドル割れをみたものの、やはり下値は買い拾われることとなった。レンジは2,337.60~2,427.40ドルとなり、結果的に想定レンジにほぼ沿ったものとなった。2,400ドル突破で金市場内のセンチメントは上がり、テクニカル要因も重なり取引時間中の高値更新の可能性が高まっている。

一方、国内価格は米ドル円相場がほぼ155円を挟んだ水準で滞留したことから、NY金の値動きをそのまま映す形で上下した。大阪取引所の国内金価格も5月17日終値1万1949円と終値ベースでの過去最高値を更新、週足は前週末比133円、1.13%高で続伸となった。先週想定レンジを取引時間中の最高値更新を見込む1万1750~1万2000円としていたが、レンジは1万1730~1万1949円となった。また、1万2000円台という大台については、その後の夜間取引にて1万2135円まで買われ突破した。

欧米投資家の金ETF投資動向、売りから買いか

3月以来、高値更新が続くNY金だが、その中で欧米機関投資家の出遅れが目立っている。欧米機関投資家は、FRBの金融政策の方向性の不透明さから、本格参入を見合わせるどころか、ここまで金ETF(上場投信)を介して、一貫して金(ゴールド)の売り(益出し売り)に回って来た。アジアその他の個人中心の金ETF買いは、欧米の機関投資家の売りにより消され、金ETF全体で2022年第1四半期から2024年第1四半期まで8期連続で残高が減少して来た。この間の累計減少は739.3トンに上る。かつて欧米マネーが金ETFから流出すると下げ相場に転じていたが、今回はその売りを新興国中央銀行と草の根的な個人投資家による現物買いにすべて吸収されている。

FRBによる利下げへの政策転換という金融マクロ環境の変化は、これまでの米長期金利の上昇とドル高に変化をもたらすとみられ、欧米機関投資家はそのタイミングを計っているとみられてきた。この点でFRBの次の一手は利下げということを基本シナリオとして織り込み進んできた金市場の流れに、彼らは今のところ乗り遅れている。

ただし、金ETFの最大銘柄「SPDR(スパイダー)ゴールド・シェア」の残高には、3月以降変化が表れており、3月15日に14.98トンもの大量買いが入り、目を引くということがあった。欧米投資家の金市場復帰ののろしが上がったかと思わせる動きだった。しかし、その後金ETFは売り買い交錯状態が続き、少なくとも減少一方という展開は終わったものの、本格的な買い転換とは言えない状況が続いている。

実際に「SPDR(スパイダー)ゴールド・シェア」の残高は、大量買いが見られた3月でも7.24トン増に過ぎず、4月は2.04トン増にとどまっている。5月に入って以降も売り買い交錯で微増傾向が続いて来たが、先週末5月17日に5.18トンとまとまった買いが見られた。3月15日の14.98トン以来の規模だが、ポイントは価格水準が大きく異なること。当時のNY金の終値は2,161.50ドルだった。5月17日は前述のように終値ベースで過去最高の2,417.40ドルで最高値の水準だった。250ドルほど上の水準での大量買いが欧米の買い復活を意味するのか否か。早晩、買い参入するとみてさらなる高値を想定しているが、足元の動向が興味深い。

今週の見通し:FOMC議事要旨、ウォラーFRB理事発言、S&Pグローバル5月PMI速報値に注目 想定レンジNY金2,405~2,470ドル、国内金価格1万1970~1万2300円

今週は5月22日に4月30日~5月1日開催のFOMC議事要旨が公開される。さらにFRB高官の発言機会も多く予定されている。先週の複数のFRB高官の発言内容からは、利下げになお慎重なものが多かった。議事要旨も同様とみられるが、次の一手に利上げはない旨のパウエル議長発言もあり、この点でどのような発言が出たのであろうか。FRB高官の発言では、5月21日と24日に予定されているウォラーFRB理事の発言に注目している。特にパウエル議長の発言と温度差があるのかどうか、あった場合、どの程度なのかに注目している。同23日のS&Pグローバル5月PMI(景況指数)速報値も注目が必要だ。4月以降、ややかげりを感じさせる米国経済の足元の状況を見る。金市場から見れば番外編ながら5月22日のエヌビディアの四半期決算にも注目している。株式市場のセンチメントの変化は金価格を読む手掛かりの一つでもある。また、金ETFの残高推移にも注目したい。

こうした中でNY金のレンジは史上最高値更新を読む2,405~2,470ドルを想定している。PMIの数字が悪化を示すようならば、上値はさらに拡大の可能性がありそうだ。一方、国内金価格は米ドル円相場こう着の中で高値追いを読み1万1970~1万2300円を想定している。

【図表】金 縦軸:円建て金/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券