前回の記事「【日本株】株主還元が強化される中、株価に影響する注目の指標とは」では、株主還元が強化されている中で、DOE(Dividend Of Equity:株主資本配当率)への注目が高まっていることを案内しました。

この背景には新しいNISA制度などの影響もあり、配当金そのものに注目が集まっていることがあるでしょう。新しいNISA制度で日本株に投資できる成長投資枠は1年に240万円です。マネックス証券のスクリーニングでは東証上場銘柄は4,303、そのうち配当利回りが3%以上の銘柄は1,126もあります。240万円投資した場合、配当利回りが3%だと、年間72,000円の配当金が期待できます。配当金にかかる税率は約20%なので、NISA制度を使うと14,400円の税金がかからないということになります。一般的な投資家から見ると小さくない金額と言えるでしょう。

配当金が期待できる銘柄の探し方

「1株あたり純資産」に着目

それでは、DOEなど配当金が期待できる銘柄をどのように探すのでしょうか。DOEは株主資本配当率ですから、配当金(総額)/株主資本です。これを1株あたりにすると、1株あたり配当金/1株あたり株主資本になります。配当金の総額は決算短信などで確認できますが、より情報として見つけやすいのは1株あたりのものです。たとえば、会社四季報だと以下のように1株あたり配当金と1株あたり株主資本が確認できます。正確には四季報に掲載されているのは、1株あたり株主資本ではなく、1株あたり純資産ですが、特殊な企業でない限りは概ね同じものと考えて問題ありません。ここからは1株あたり純資産をベースに説明します。

【図表1】会社四季報画面で確認できる1株配当金と1株あたり純資産
出所:マネックス証券「会社四季報」

上記のトヨタ自動車(7203)の場合、2023年3月の配当は実績値で60円、2024年3月の配当はこの時点ではまだ予想なので65円から70円となっています。そして、1株あたり純資産は2,415円です。実績で考えると、トヨタ自動車のDOEは60/2,415=2.5%となります。DOEはこのようにして求められます。

PBR1倍が注目される理由

1株あたり株主資本を用いた投資指標で多くの方がまず思い浮かべるのはPBRだと思います。PBRは株価純資産倍率などと呼ばれ、株価/1株あたり純資産です。2023年以来、PBR1倍割れが問題視されてきたことはよく知られていると思います。この連載でも2023年3月に「PBRになぜ注目が集まるのか?株価が急上昇した銘柄と今後の注目ポイント」でPBRについて説明しています。

詳しくは上記の記事にありますが、1株あたり純資産は1株につき、株主が保有している資産です。たとえば、1株あたり純資産が1,000円の場合は、その企業の帳簿上1,000円相当の資産を株主は1株に対し持っているわけです。一般に企業は利益を出して成長していくものなので、損を出す前提であればそういった企業は存続する意味が基本的にはないはずです。だとすれば、企業の価値は「現在その企業が有している資産」と「今後生み出す利益」になるはずなので、株価はその企業の保有している資産と今後生み出す利益を考慮したもの、つまりその企業の保有している資産より高くないとおかしな話だと言えるでしょう。企業の保有している資産は株主のものなので、1株につき株主が保有している資産、つまり1株あたり純資産より株価は高くあるべきという話につながります。

そして、PBRというのは株価/1株あたり純資産ですから、株価が1株あたり純資産より高ければ、PBRは1倍を超えるわけです。つまり、PBRが1倍を切っているということは、そもそも利益をあげていくであろう企業としておかしいのではないか?上場している企業はPBR1倍を目指そうというのが、PBR1倍が注目される本質です。

その企業の資産は現金化できる資産なのか?

日銀の政策変更などもあり、徐々に預金金利が0ではない例が増えてきているものの、現在でもほとんどの場合、預金金利は0かほぼ0が多いかと思います。そのような状況で、額面が1,000円で必要に応じて額面を返金してくれ、年に30円もらえるような金融商品があったとします(話を簡単にするため、それにリスクはなく税金もないものとします)。その商品は常識的に考えると1,000円以上にはなるでしょう。最悪、1,000円は戻ってくるのだし、毎年一定のお金ももらえるわけですから。

株式も本来は似たような構造で1株あたり純資産が1,000円の企業は1,000円以上であるべきだと考えてもよさそうです。しかし、実際はそうではないのは明らかで、減少したにも関わらず、東証上場銘柄4,303のうち、PBRが1倍以下の銘柄は1,806もあるのです。それでは、株式の場合はどういうところが上記の例と異なるのでしょうか。当たり前のようですが、ここを考えることが配当金に注目する場合、どういう銘柄を選ぶべきかを考えることにつながると思います。

1.そもそも、その企業に資産があるか
2.その資産は配当に用いることができるか
3.経営陣は配当を行ってくれるか

まず、当たり前ですがそもそも資産がないと配当を行うことはできません。ここまでの話で言うと、PBRが高い銘柄は基本的には株価に対し資産が少ないので、一般に株価に対する配当も少なくなります。こういう企業は「今後生み出す利益」が重視されているということなので、成長株などが多くなっています。逆に言うと、PBRが低い、1倍を切るような銘柄はそもそも資産を積極的に配当してもいいのではないかということになります。

このときに大事なのは、2の観点です。繰り返しになりますが、PBRは1株につき株主が保有している資産がベースになっています。このとき、その資産がどういうものかというのは重要なポイントです。配当は当たり前ですが現金で行うものです。そのため、現金化できる資産でないと意味がないからです。

たとえば、典型的な例として挙げられるのは、メーカーで資産のほとんどが工場という場合です。多くの工場は他の目的に流用しにくい場所に立地していたり、工場の設備が他のものには使いにくかったりします。その工場を稼働することで収益を上げていくことはできますが、その収益動向によっては工場の資産評価に対し、実際にその評価で現金化することは困難であることが多そうです。同様の意味で現金化が簡単ではない資産も多いのではないでしょうか。

株式は現金化しやすいが注意点もあり

工場に比べると遥かに現金化しやすそうなのは、やはり株式でしょう。ただ、株式でも少数なら別として多くの株式を保有している場合は、そもそも処分が決断できるかという点や、処分先の問題が出てきそうです。過去の記事「ソフトバンクGのように『優良子会社』を保有する会社は?」では、その企業の価値(つまり、その企業の株価で評価されている企業の価値)に対し、保有している株式の価値が大きい企業を取り上げました。簡単に言うと、保有している株式資産に対し株価の安い企業です。

この記事ではまず、ソフトバンクグループ(9984)のアリババなどの保有銘柄について取り上げています。そのうえで、上記のような保有している株式の価値に対し、保有者が安く評価されている企業を挙げています。オリエンタルランド(4661)を保有する京成電鉄(9009)、GMOペイメントゲートウェイ(3769)を保有するGMOインターネットグループ(9449)、アイペット損害保険を保有するドリームインキュベータ(4310)を取り上げていました。

このうち、京成電鉄のオリエンタルランド株式はアクティビストが動くなど注目が集まっており、京成電鉄が一部株式を売却することになったのは記憶に新しいところです。また、2022年には「ドリームインキュベータがストップ高、第一生命のアイペット買収で」の記事で紹介した通り、ドリームインキュベータはアイペットを売却しています。

そして、直近では「優良子会社が親会社のプレッシャーになる理由」の記事で取り上げていたパソナグループ(2168)の優良子会社であったベネフィット・ワン(2412)の売却も注目を集めていました。

この記事が掲載された当時1,400円台だったパソナ株はその後一時大きく上昇したものの、2023年には再び1,400円台まで下落していましたが、ベネフィットワン株の売却ニュースが出て、株価は倍程度に上昇しました。

【図表2】パソナグループ株式チャート(5年)
出所:マネックス証券

必要なのは「配当するための資産と現金化、経営陣の判断」

これを見ると、株式でも現金化しにくい資産と評価されるとなかなか株価に反映されないものの、長い目で見ると上記の京成電鉄やドリームインキュベータの例とも同様に、本来の価値は評価される動きと言えそうです。そして、本来の価値の評価のためには経営陣が実際に動く、あるいは経営陣にプレッシャーがかかることが重要だと言えるでしょう。

資産があり、配当するための現金化が可能そうで、経営陣がその判断をするか、をまずベースとして考えるのがよさそうです。それでは、PBR1倍が注目され、上記のようにアクティビストの動きもある中で、興味深い銘柄はありそうでしょうか。次回のコラムで探していきたいと思います。