「株主提案を除外しやすく」米国当局、新ルール策定
「米国のESG株主提案ブームは終焉か」。突然飛び込んできたニュースに米国の投資家らは息を呑んだ。2月12日、米証券取引委員会(SEC)が、米国上場企業に出された株主提案に対する新指針を発表したからである。
新指針では、株主提案が企業の総資産、純利益、総売上高の5%以上に影響を与えるかどうかをSECが判断し、企業は重要な社会問題や政治問題に関する株主提案を除外できる場合が増えるという。米国では気候変動対策や多様性の価値観に対するバックラッシュが起きており、トランプ新政権のもとSECもその流れを汲んでいるとみることかできる。
この流れに、米国を拠点とする300超の機関投資家による団体Interfaith Center on Corporate Responsibility(ICCR)、株主の権利を擁護するために結成された投資家団体The Shareholder Rights Group、そして非営利の株主擁護団体As You Sowが反発した。3団体はSECに対して新指針を適用しないよう求める書簡を証券取引委員会に送付した。
書簡の提出者らは、SECから株主総会シーズン中に新指針が発表されたことで「新指針が遡及的に適用されると、これまでの指針に則って準備された株主提案が新基準の下で評価され、不適格とされる可能性がある。これは手続き上の不公平性などの問題をもたらす」としている。そのうえで、新指針の適用延期を求めるとともに、その適用開始を今後提出される提案に限定することを求めた。
投資家ら「長期的な株主価値を確保する役割」と明言
また、ICCRとThe Shareholder Rights Groupは、数兆ドルの運用資産を有する投資家グループThe Sustainable Investment Forumとともに3団体で報告書『「株主提案」:資本市場を支える基本的な株主の権利』を発行した。
報告書では、株主提案は、投資家が企業の方針やガバナンス、説明責任に影響を与える重要な手段であり、「米国の資本市場の成功に貢献してきた」と記されている。同報告書では株主提案について「企業と投資家の信頼を維持し、不適切な経営、環境問題、社会問題に対するリスクを軽減し、長期的な株主価値を確保する役割を果たしている」と明言されている。
また、投資家らは報告書中で、株主が子供のインターネット空間における安全についての問題や2008年の金融危機を投資家が警告してきたこと、企業への働きかけを通じて人工知能のリスクや職場の健康と安全の分野で成果を上げたことを指摘した。
企業から忌避されやすい環境および社会的な株主提案については「環境および社会的な株主提案は、株主の代表である取締役会が認識していない、あるいは無視・隠蔽しようとしている可能性のある、企業の重要な問題を表面化させる上で極めて重要な役割を果たす」としている。
日本、「安易な株主提案の除外」は時期尚早か
PRI(Principles for Responsible Investment)が2023年に発表した報告書「A guide to filing impactful shareholder resolution(株主提案の効果的な提出ガイド)」では、株主提案は「企業の環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の問題を改善し、持続可能な企業経営を推進するための重要な手段である」とされている。
同資料では、企業が直面する重要なESGリスクや投資ポートフォリオ全体に影響を与える課題に焦点を当てることを考慮する必要があるとしたほか、業界を代表する企業や、改善の可能性が高い企業をターゲットにすることが推奨されている。また、株主提案だけでなく、企業との対話、議決権行使、政策提言などの手段を併用することが望ましいとされている。
一方で、日本でも企業に提出される株主提案を制限しようとする動きの兆候がみられる。経済産業省が発表した『「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会 会社法の改正に関する報告書の概要(2025年1月17日)』が示す通り、日本では「濫用的な株主提案の実態を踏まえ、現にそのような事態が発生している場合は、株主提案権の要件のうち、議決権数を基準とする要件(議決権300個)は廃止することが望ましい」という方向で、株主提案権の要件の見直しが検討されている。つまり、数年後には、株主が株主提案を提出するハードルは高まる可能性もある。
日本はこれから2025年の株主総会シーズンを迎える。PBRが低いと指摘され、ガバナンス上の問題が海外ファンドから指摘されたフジ・メディア・ホールディングス(4676)や、アクティビストファンドが株式を大量保有する花王(4452)や小林製薬(4967)といった企業の年次総会では、株主が大きな動きを見せる可能性が高い。
3月11日、小林製薬の株式を大量保有するオアシス・マネジメントは、3月28日の定時株主総会で会社側が提案している取締役人事案に反対票を投じるよう株主に呼びかけを始めた、と発表した。
今後は化石燃料に関わる高排出セクターに対する株主エンゲージメントが表面化する可能性もある。気候変動や多様性、コーポレート・ガバナンスに関する取り組みは依然として日本は諸外国と比べ遅れが指摘されており、企業には米国のように企業側が安易に排除しづらい株主提案が出てくる可能性が高いだろう。