本連載ではこれまでに様々な公開買付案件を取り上げてきました。それらの動きのアップデートと優良子会社が親会社のプレッシャーとなっている企業について解説します。
注目の公開買付案件のその後
さらに近づきつつある伊藤忠のファミマ完全子会社化
まず、伊藤忠商事(8001)がファミリーマート(8028)に実施している公開買付です。こちらは8月25日に伊藤忠が公開買付の成立を開示しています。伊藤忠はグループでファミマの発行済株式の65.7%を保有することになりました。伊藤忠はファミマの完全子会社化のため、臨時株主総会の招集を請求しています。株主総会で完全子会社化が認められるためには2/3(66.7%)の賛成が必要ですが、伊藤忠がすでに65.7%を保有していることや、すべての株主が議決権を行使するわけではないことを考えると、伊藤忠のファミマ完全子会社化は成立する可能性が高いと考えられます。
難航中のコロワイドの「大戸屋」TOB
コロワイド(7616)による大戸屋(2705)の公開買付は難航しています。コロワイドの大戸屋株の買付価格は3,081円。公開買付発表前の2,000円程度や今春の株価が大きく急落する前の2,400円程度の株価と比べて、好条件での買付でしたが、応募が思うように進んでいないようで、コロワイドは公開買付期間の延長と、公開買付が成立するための最低の応募株数を引き下げています。大戸屋株には個人株主が多く、公開買付手続きをするよりは保有を続けようという人が多いのかも知れません。かなり好条件の公開買付だと考えていましたが、個人株主が中心の大戸屋株主の動きは読みにくい現状です。
優良子会社が親会社のプレッシャーになる理由
さて、人材派遣大手のパソナグループ(2168)が本社を淡路島に移転するニュースが注目を集めています。現在のパソナの本社は最寄り駅が東京駅。都会のど真ん中から電車の走っていない島へ移転するわけですから、従業員の方々の新たな働き方など関心が集まるでしょう。ただ、淡路島は島でありながらも本州側は明石海峡大橋、四国側は大鳴門橋が架かり、車があれば道路で大阪や神戸、四国徳島に移動することができます。
また、パソナの拠点が置かれるとされる本州寄りの淡路島北部は神戸にも近く、高速バスの淡路IC駅から本州側の窓口である高速舞子駅(ここでJR線と連結しますが、東京駅の京葉線以上に移動が必要)はわずか7分、神戸市の中心部である神戸三宮へも40分弱で移動できます。その三宮から新幹線新神戸駅は5分、神戸空港へは20分ほどです。(淡路島の中心地である洲本市から移動する場合は、さらに30-40分程度が必要になります。)
淡路島には3大コンビニも多数展開しており、吉野家やすき家、ユニクロ、マクドナルド、かっぱ寿司、洋服の青山、オートバックス、イオンに加え、四国を本拠地とするマルナカやマルヨシセンターなどもあり、生活に便利なお店が多数進出しています。ただ、人口減が進んでおり、ミスタードーナッツやモスバーガーはすでに撤退しています。(食べログによれば淡路市の飲食店は400店舗弱、千代田区は7,400店舗程度とのこと)
パソナが本社移転を決めたのは、リモートワークの拡大やもともとの淡路島との関係などが考えられますが、本業が思わしくないことも一因ではないかと思います。
例えば同業で「テンプスタッフ」を展開するパーソル(2181)は2012年から2019年まで営業利益で見ると増益を続けており、売上高・営業利益ともに4倍程度に増加しています。一方、パソナは売上高が2倍程度にしかなっておらず、特に利益面では子会社ベネフィット・ワン(2412)が主であるアウトソーシング業務(会社の福利厚生サービスを代行するベネフィットステーションなどを展開しています)に頼る構図になっています。結果的に、ベネフィット・ワンの時価総額が4000億円近い一方で、ベネフィット・ワン株式の半数を保有するパソナの時価総額は600億円程度と“親子逆転”現象が起きています。それどころか、保有するベネフィット・ワン株の評価額2000億円を大きく下回っているのです。
このような“親子逆転”現象が起きている場合、アクティビストが親会社に投資することは少なくありません。子会社株の活用を含め、改善の余地が大きいからです。実際、パソナにもアクティビストが投資を行っています。パソナ株は2018年には2,000円を超えていたものの、2020年は1,000円を割る時期もあり、直近でも1,400円台と2019年末の株価を下回る状況です。このような状況下において、本業の業績改善を求められており、コスト削減で業績を改善しようという目論見があるように思います。
いずれにせよ、パソナの場合を含め、親会社の時価総額に対し、子会社の評価額が大きくなっている会社では親会社へのプレッシャーが大きくなります。そこにはいい投資機会もありそうです。次回はその観点でいくつかの例をご紹介します。